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ゴブタとゴブコ、実家に帰る

 ドクターが他のホブゴブリン達に説明をしている間、俺はお姫様と一緒にゴブタの隣りにいる。ただ黙ってゴブタが起きるのを待っている訳だが、正直目を覚ますとは限らない。それだけ酷い状態という訳だ。

 それでもせめて起きて欲しいと思いながらじっと待っていると、先に目を覚ましたのはゴブコの方だ。

 ゆっくりと目を覚まし、俺の姿を捕らえるとほんの少し眉を上げて驚いている様だった。


「お婆様!!」

「リリ、おはようございます。そちらに居るのはまさか……」

「久しぶりだなゴブコ。こんなギリギリに迎えに来て悪かったな」


 俺がそう言うとゴブコは起き上がろうとしたのでそっと支えながら起こす。

 メイドさんは驚いてすぐに他のホブゴブリン達に伝えに行った。他のメイド達はいつでも動けるように準備している。

 そんなメイド達をよそに、ゴブコは言う。


「あの頃と全く変わらないのは不思議ですね」

「この世界に来るのが1番遅かったみたいだからな。こんな婆ちゃんになるまで放っておいてごめん」

「仕方がありませんよ。私達がこの世界に迷い込んだのも、バラバラだったようですから」


 年を取ったせいかゴブコの言葉は非常にゆっくりだ。それに穏やかに話すので淑女と言う言葉がよく似合っている。

 俺もそれに合わせてゆっくりと話す。


「夫は?あの人は救えそうですか?」


 ゴブコは隣にいるゴブタの事をそっと見た後に俺を見た。

 俺は何と言っていいのか分からず、でも適当な事を言う訳にもいかず、首を横に振った。

 それだけで察したゴブコは残念そうに言う。


「そうですか。それは残念です」

「だからゴブコ、お前の寿命も――」

「分かっています。私はこの人と共に生き、共に消えます。問題はその後の事ですが、息子達に任せたい事があります。お父様にも少々我儘を言わせていただいてもよろしいでしょうか?」

「美人になった娘の頼みだ。好きなだけ言え」

「ありがとうございます。それではみなが揃った後にお伝えします」


 しばらくゴブコにアルカディアで作ったおかゆとか色々食べさせて体力を回復させていると、何か偉そうなホブゴブリン達が現れた。

 全員ゴブリンキングの様で、15人居る。おそらく大臣とかそういうお偉いさんなんだろう。その中にはジェネラルと魔法師団長の姿もある。

 ゴブコはそんな彼らを見てから小さいながらもよく通る声で話す。


「みなさん。ご存知の通り私達は現在病に犯されており、残されている時間はありません。なので先に話しておきましょう」


 こうして始まったゴブコの今後の話し合いを始める。

 その内容は政治的な物や、王族の内容なので詳しい事は分からない。

 でも最後の言葉だけは分かった。


「私達の遺体は予定通り墓に収めてください。そして次の皇帝は息子に任せます。葬式は決して外部に漏れないように、暗部からホーリーランドの動きが活発化していると聞いています。決して隙を見せてはいけません。そしてお父様には申し訳ありませんが、ほんのわずかの間アルカディアで過ごしてもよろしいでしょうか」

「そのぐらい構わないよ。ゴブタも一緒だろ」

「その通りです。そして確認しますが私達の寿命はもうないんですよね」

「ああ。もう3日もない」

「その間だけアルカディアで過ごさせていただきます。夫も一緒に」


 正直これは反対意見が出るかもと思ったが、誰も反対しなかった。

 こうしてゴブタとゴブコはアルカディアに戻ってくる事になった。

 ゴブタは寝たきり状態なので後でゆっくり丁寧に移動させ、ゴブコに関しては車いすを用意してアルカディアに移動させる。

 その前にゴブタ達の息子に会ったのだが……


「お前だったかゴブオ」

「ええ。お久しぶりです、爺ちゃん」


 ゴブオはどこか気まずそうに言った。

 何でだろうと思っているとゴブオは言う。


「俺達が受けた報告では父ちゃんの知り合いを自称する人間を檻に閉じ込めたとしか聞いてなかったからな、爺ちゃんだなんて分からなかった」

「その辺りは仕方ねぇんじゃねの?ゴブタ親って聞けば普通は爺さんが出てくると思うだろうし」


 見た目に関してはゴブタよりも若いのだから、それも信用できなかった要因の1つだったかもしれない。

 だから特にゴブタを責める事はせず、普通にゴブタ達をアルカディアに連れて帰った。

 もちろん護衛と世話役係も一緒にいる。護衛に関してはホブゴブリン達の中で特に実力のある存在達だし、世話役係のメイドさん達もベテランの人達ばかりで手際なども非常に良い。


 そしてゴブタ達を連れて来た場所は昔ゴブタ達が使っていた部屋だ。

 外見こそ馬小屋の様な作りだったので、周りの護衛やメイドさん達はえ、本当にここに移すの?っという不満な表情をしていたが、その内側は全く違う。

 確かにゴブリン帝国ほど立派な作りではないが、ゴブリン達が安心して過ごせるような空間が造られている。いわゆるビオトープっという奴だ。

 ゴブタ達の家は木造平屋の和風建築で、何故かゴブタ達が気に入っていたのでこちらを使っていた。

 初めて見る和風建築に戸惑っている様にも見えるが、畳の匂いなど自然の匂いが混じっているのは気にならない様で安心する。


 そして久しぶりに帰ってきたゴブコはほっとしたように表情を柔らかくする。


「……帰ってきましたね」

「お帰り。ゴブタ、ゴブコ」

「……はい。ただいま戻りました」


 段差のないバリアフリー対応の和風建築なので車いすでも余裕余裕。あ、でもこの家布団はあってもベッドはないんだよな……

 用意した方がいいか?


「ゴブコ!ベッドと布団どっちがいい?」

「え?布団でいいですよね?」

「ベッド出そうと思えば出せるけど、本当に使わなくていいの?そっちの方が楽じゃない?」

「老い先短いのですし、今さら楽など考えなくても大丈夫ですよ。しかし……夫のために1つだけベッドが欲しいです」

「ゴブタの分だけ?本当にそれだけでいいの?」

「はい。畳から離れるのは嫌です」


 よく分からないけど強いこだわりがあるらしい。なのでそっとしておく。

 そして俺はメイドさん達にこの家での洗濯とかキッチンの使い方などを教えておく。何せ向こうじゃ釜だからな、魔法があっても薪を使って飯作ってるからな。


 なのでこっちではそういった物は必要ない事を教えておく。ゲーム内のご都合主義でどこからガスが出ているのか、どっから電機が供給されているのかなど未だに分からない所はあるが、深くは考えないでおく。

 それにこの和風建築のキッチンはキッチンと言っていいのか分からないほどの広さだ。例えるなら相撲部屋のキッチン?超巨大冷蔵庫、一升炊けるガス式の釜、広い流しが揃っている。

 そして洗濯機は5台大きめの物が並んでいる。その先には広々としたヒノキ風呂、シャワーだって10本並んでいる。


「あとは洗濯機の使い方だけど……今洗濯する物ないから後で改めて教えるよ。風呂を洗う掃除用具はこっちの……」

「あの、ドラクゥル様。ここは一体どのような所なのでしょう?」

「どのようなって?普通にゴブリン系のみんなが住んでた家だけど?」

「私達にとっては普通ではありません。水汲みも要らない、薪を用意する必要もない、松明も何もかもが要らない家は家とは言わない様な……」

「そんな事言われてもな……ここではこれが普通だし……あ、あと欲しい食糧とかあったら教えてくれない?野菜とか肉とか魚とか、しばらくここに誰も居なかったから冷蔵庫空っぽなんだよ」

「……分かりました。それでは一通りお願いします」

「あいよ~。あと今夜は俺達の方で晩飯用意するから。今日は引っ越しで忙しいだろうし」

「あ、はい」


 どうやらこっちの常識と向こうの常識がかみ合わない様で戸惑っている様だ。

 少しずつ慣れてくれればいいと思うけど、こればっかりは自然と慣れてくれとしか言いようがないんだよな。

 種族  ゴブリンクイーン

 名前  ゴブコ・ドラクゥル

 ランク S


 ゴブリンキング、またはゴブリンロードの番として生まれる特殊なモンスター。

 通常のゴブリンは幼稚園児ほどの大きさしかないが、ここまで進化すると体格は人間の女性とあまり変わらない。

 特徴はゴブリンクイーンがどれだけ年老いても、子孫を残せる事である。


 補足

 ゴブリンと聞くと人間を犯すイメージがあるが、アルカディアのゴブリン達はみな一途である。特定の相手を見付ければずっとその相手と共に生きる。

 その中で最も顕著なのがゴブコだろう。ゴブタと一緒に生きている間、浮気とか見た事がない。ずっとゴブタとイチャイチャしている所しか見てなかったので下品なイメージは一切ない。

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