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獣人の村

 ヨハネと旅を初めて早くも5日が経った。

 険しい山道を歩くのが思っていた以上に体力を消費し、移動する時スレイプニル達に頼り切っていたなと自覚している。

 俺がゼイゼイ息を切らしながら山を登っている時、ヨハネは何て事のない様に歩いているので基礎体力や運動能力の差を見せつけられた。

 それでもヨハネは俺のスピードに合わせてくれていたし、休む時はアルカディアで食って寝てを繰り返していたので本当にこの能力には感謝だ。


 そして6日目の昼、ようやくゴブリン帝国から最も遠い獣人達の村に着いた。

 村の様子はとても貧相で、宿も物を買う店の様な場所すらない。全て誰かの家のようだ。

 これでは情報を収集するのも大変そうだなっと思っていると、ヨハネが言う。


「やっぱりか」

「やっぱり?」

「去年ミゾレ達が大吹雪を引き起こしただろ。その影響で冬場は狩りが出来なかったし、野菜の方もほとんどダメになっちまった村だ。本当に冬の蓄えだけで過ごしてガリガリに痩せてやがる」

「……流石Sランクモンスター。周囲にこれだけの被害を及ぼすとはな」

「俺達にはクレールが居たから食べれる植物に関しては問題ないが、ここにいる連中にとっては大打撃だった訳だ」


 ヨハネに言う通りの様で、ここに居る獣人達はみんなやせ細っている。

 ろくに食べるものがないのか大人から子供まで全員がガリガリだ。俺達の事を警戒しながら見ている人達は家の中や柱の影からこちらを伺っているが、全員大人ではあるが警戒して話を聞く余裕はなさそうだ。

 仕方ないとこの村をスルーしようと思ったが何か小さな獣人がこちらに向かって走り出してきた。

 その手に持っているのは包丁。まるで通り魔だと思っていたが、同時にこのまま刺されたら死ぬなっと他人事のように思っていた。

 でも同時にそれ以上に安心できる子供が居るので他人事のように感じたのかも知れない。


 子供が持つ包丁が俺を刺す前にヨハネがその子供を蹴飛ばした。

 子供相手でも容赦なく何度もバウンドするほど強く蹴ったヨハネ、当然かもしれないが見ていて気分のいい物ではない。

 子供が握っていた包丁はヨハネが蹴った影響で子供が落とした。ヨハネはその包丁を拾って子供の首筋に当てる。

 子供は蹴られてゲロを吐きながらもヨハネの事を見る。


「殺されてもいいから親父の事を狙ったんだよな?」

「…………」

「ヨハネ、ほどほどにしておけ。周りの連中から凄い殺気感じるんだけど」


 素人でも分かるぐらい殺気を感じるって相当だよな。

 周囲から大人達が今すぐにでも飛び出せるように何かを持って構えている。

 この状況をどうにかする方法はない物かね……


「だが手を出してきたのはあっちだぞ。ぶっちゃければここで全員皆殺しにだって出来るぞ」

「マジで止めろ。さらに殺気が強くなっているから。それでえ~っと、少年は何で俺を殺そうとしたんだ?金目のものが目当てか」

「……食べ物」

「は?」

「食べ物、持ってると思ったから。簡単に、殺せそうだから」


 これはまた、随分と分かりやすい理由だな。

 この村全体が餓えている事は想像に難しくないが、それで人間を殺そうとするとはそれ程までに餓えた状況なのだろう。

 他の国のようにどこからか手を差し伸べられてくれるような雰囲気もないし、情報を得るには結構いいのかも知れない。

 俺はアルカディア産の普通の肉を取り出して少年に見せつけると、少年の視線は肉に釘付けとなった。


「さて少年。君の予想通り俺は食料を持っている。そして俺達は今欲しい物があるんだ。それをくれるのならこの肉をくれてやってもいい」

「……この村は何もないぞ」

「欲しいのは情報だ。ゴブリン帝国に関する情報をくれるのであれば肉をやろう。知っている情報全てをくれるのであれば、この村の人全員に肉をやってもいい」


 そういうと少年は大人達が居る方向に視線を送る。

 そして物陰に隠れていた大人達が武器を構えながら恐る恐るにじり寄ってくる。


「その話、本当か?」

「本当だ。先に肉をやろうか?」


 とりあえず手元にある肉を少年に渡し、武器を持っている大人達に向かって肉を投げると武器を落としながら慌てて肉を受け止める。

 顔が犬系の人達が多いから野良犬に肉を投げている感じに似てるな。元の世界ならダメな行為だけど、そんなルールないだろうから別にいいよね。

 そう思いながら肉を1人1つ投げまくっていると全員匂いを嗅いで安全かどうか確かめる。そして舐めて本当に安全かどうか毒見をしてからガツガツと肉に噛み付いた。

 見た目マンガ肉みたいなので手づかみで食べれるとは思うが、それ生だぞ。毒見はするのに火は通さないのか?

 そう思いながらも本当に腹を空かせていたというのがよく分かる。涎を垂らしながら目を大きく見開いて夢中になって腹の中に収めていく。

 そして全員が食べ終えた後に俺は聞いた。


「それで、ゴブリン帝国についての情報を教えろ」


 そう聞くと獣人達はすこし言いよどんだ。

 新しい肉を見せつけると彼らは即座に話し始めた。


 彼らの話によると、ゴブリン帝国はこの村から南西の方向にあるらしく、そこだけは安定して野菜や肉などが食べられるらしい。

 でもそれを認められているのはゴブリン帝国で生まれ育ったゴブリン達だけであり、他のゴブリンや獣人達には厳しいとの事。

 それでもゴブリン帝国では物々交換のために様々な小さな村から寄せられてきた食べ物を中心に取引されているらしい。


 おおまかにまとめるとこんな感じの情報だけ。

 他に詳しい情報はないかと聞いてみたが、彼らはほとんど何も知らず、精々ゴブリン帝国のゴブリンは最低でもホブゴブリンからだという事だ。

 まぁこれでもおおまかな戦力に関しては察する事が出来る。

 ホブゴブリンの育成は最低でもゴブリンキングが居ないと生まれないのでゴブリンキングは必ずいる。でもこれはゴブリンから進化した場合の話であり、もし最初からホブゴブリンとして生まれていたとすればゴブリンロードが居る事は間違いないだろう。


 ゴブリンロード。

 ゴブリンの最上種でSランク。でもこのランクは進化させ難いという点も考慮されている気がする。身体能力のパラメーターはAランクと変わらないし、おそらく希少さからSランクになっている気がする。

 本当は途中でゴブリンに拘らずオーガあたりにでも進化させた方が強くなるがゴブリンロードに進化させるための過程が非常に面倒なのだ。

 ゴブリンロードに進化させる条件はゴブリンキングを11体以上育てる事。

 しかも全て生きている状態でだ。ゲーム上の設定では11体以上のゴブリンキング達が戦い、最も優秀なゴブリンがゴブリンロードに進化するという話になっていたが、実際の所では最も成長しているゴブリンがゴブリンロードになる。

 その影響で生まれやすくなるのがホブゴブリン。


 ホブゴブリンの雄は身長170センチ前後の普通の人間の平均身長ぐらいの大きさだ。雌の場合は少し小さくて165センチ前後、一回り小さいぐらい。

 そしてここからゴブリン達は著しい進化を遂げる。ゴブリンキングの状態で既にゴブリン種と言われるゴブリン〇〇っという職業と一緒になったゴブリンが生まれるようになるのだが、それはホブゴブリンも同じで、しかも進化してる状態での職業補正の様な物が付いて来るからさらに強い。

 ぶっちゃけホブゴブリンが人間の中でどれぐらい強いのかは知らないが、人間とそう変わらない身長差で魔法や武器を使えるのであれば人間と五分五分と見るのが自然かもしれない。


 なので基準を知るためにホブゴブリンと獣人達が1対1で戦った場合どちらが強いのか聞いてみると、その返答は意外な物でホブゴブリンの方が強いと言った。


「それマジ?」

「本当だ。あいつらの方が美味い物を食ってるし、俺達の様に戦いは獲物を狩るためだけに戦ってない。ちゃんとした剣や槍だって持ってるんだ。俺達の武器なんて言ったら、農業で使っている鎌や包丁辺りが良い所だ」

「でも身体能力はお前達の方が上だろ?」

「そんなのあいつらは関係ない。必ず複数で組んで、魔法を使えるゴブリンも混じってるから傷も治されるし遠くから攻撃魔法も使ってくるんだ。勝てねぇよ」


 どうやら強力な軍隊として活動しているらしい。

 ゴブリンという元々食物連鎖の中で下位である種族の強みである群れる強さを本能だけではなく、知性も合わせている事からかなり厄介な存在になったのだろう。

 本来ホブゴブリンよりも強いはずの獣人達が完全に恐れている。これはある意味動物が人間を恐れている光景と似ているかもしれない。


「なるほど、よく分かった。他にゴブリン帝国に関する情報はないか」


 俺がそう聞くと、最も年老いた獣人が恐る恐る言った。


「今のゴブリンロードは大の人間嫌いだと聞いている。本当に行く気か?」


 なるほど。それは重要な情報だ。

 それに()()っという事は世代交代をしている事も確実だ。

 やっぱりゴブタは生きてそうにない。


「どうしても行かなきゃいけない用事があるからな。それじゃお前達も頑張って生き残れよ」


 そう言ってから俺とヨハネはゴブリン帝国を目指して旅を続ける。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「○○っと」という感じに結構書かれていますけど「っ」はいらない気がします。何かつけている理由があるのでしたらすみません。
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