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第八十五話 小川艦長対アンドロイド その4

 ノリオの目からはアンドロイドの行動は異様な光景に映った。


 全裸で左手で自分の切断した右腕を棒のように持っているのだ。


「あっ、あの、小川艦長、審判として試合を一時中断してよろしいでしょうか?」


「どうした?ノリオ」


「そのアンドロイドの行動は反則じゃないですか?事前に決めたルールでは武器の使用は禁止です。切断した右腕を棒のように使うのは駄目じゃないですか?」


 小川艦長は首を軽く横に振った。


「いや、切断した右腕はアンドロイドの身体の一部なのだから、棒のように使っても反則じゃない。ノリオ、試合再開の合図をしてくれ」


「は、はい!試合再開!」


 アンドロイドは左手に持った切断した右腕を棒のように振り回している。


 それに対して小川艦長は回避している。


 ノリオの目にはアンドロイドが一方的に攻撃していて、小川艦長が回避しかできないように見える。


(小川艦長とアンドロイドの体格は同じだ。腕の長さが同じなのだから、棒が使えるアンドロイドの方が有利になる)


 ノリオは考えていた。


(小川艦長はどうするつもりなんだろう?えっ!?)


 小川艦長とアンドロイドの動きが激しく、ノリオは二人の間にいつの間にか入っていた。


 ノリオの前にアンドロイド、後ろに小川艦長がいる。


 審判として二人の勝負を邪魔するわけにはいかないので、横に避けようとした。


(えっ?ええっ!?)


 何度避けてもノリオは二人の間に入ってしまった。


(まさか?)


 ノリオは背後にいる小川艦長に振り返った。


 小川艦長はノリオと目が合うとニッコリと微笑んだ。


(やっぱり!)


「小川艦長、質問がある」


「何だ?アンドロイド」


「あなたと私の間に審判を常に入れようとしていないか?」


「その通りだ。正解だ」


「審判を『盾』にしているのか?しかし、過去のデータでは、あなたがそのようなことをした記録はないが?」


「過去のデータは私のオリンピックなどでの低重力レスリングでのものだろ?ああいう試合での審判はプロだ。試合をしている選手の邪魔になるような位置にはいないのは当たり前だ」


「なるほど、だから素人を審判にしたのか?」


「いいや、正確に言うと少し違う。アンドロイド、お前の行動で確かめたいことがあった」


「確かめたいこと?それは何だ?」


「普通はどんなスポーツでも選手が審判を攻撃したら、反則敗けだ。しかし、今回は私が事前に決めたルールで、『審判への攻撃は禁止』にはしていない。邪魔なノリオを攻撃して排除してから私を攻撃してもルール違反にはならないのだぞ?」


「いや、それは常識として……」


「そうだ。私はアンドロイドであるお前の常識が知りたかったのだ」

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