第七十一話 日米宇宙軍合同演習 その4
観測長からの報告は続いた。
「『ミズーリ』と当艦が現在の針路のままだとすると、正面衝突をします!」
小川艦長は命令した。
「砲術長!射撃中止!航宙長!回避する針路を取れ!」
小川艦長の隣の席に座っていたノリオはジェットコースターで急降下する時の数倍の感覚を体感した。
仮想現実で似たような状況を何度も訓練していなければ、ノリオは悲鳴をあげていただろう。
ノリオは訓練中は小川艦長から隣に座っているよう言われただけで、特に何も役目は与えられていなかった。
たから、ノリオはスポーツの試合を観客席で見ているような感覚でいた。
「『ミズーリ』接近します!」
観測長が報告した。
モニターには「ミズーリ」の映像の下に予想針路が映った。
(このままだと、衝突するんじゃ!?)
「機関長!出力全開!」
小川艦長が命令した。
「了解!」
(出力全開の命令は艦長しか出せないことに規則でなっている。機関の出力を全開にすると艦体の負担が大きくなるからな。機関長独自の判断では出力全開にはできないことになっている。緊急事態を除いては……いや、今は緊急事態か?)
ノリオは何もすることがなく、小川艦長たちの邪魔もできないので頭の中で独り言をしていた。
「回避に成功しました!」
「艦長!アメリカ側に厳重に抗議しましょう!今のは危険過ぎます!」
細川副長の進言に小川艦長はうなづいた。
「通信長。『ウィスコンシン』と回線を繋げろ」
「了解。あれ……これは?」
「どうした?」
「強力な電波妨害を受けています!通信不能です!」
「妨害電波の発信源はどこだ?」
「『ミズーリ』です!」
「衝突しそうになる!妨害電波は出す!『ミズーリ』はどうなっているんだ!?副長。『ミズーリ』が無人で人工知能だけで動いているのは間違いないんだな?」
「アメリカ側の事前の報告ではそうなっています」
「副長。場合によっては『しなの』で『ミズーリ』を沈めることになるかもしれない」
「えっ!?アメリカの国有財産を撃沈しては問題に……」
「『ミズーリ』の人工知能に重大なエラーが発生しているのかもしれん。もし、そうなら、非武装だが軍用宇宙船を野放しにはできん。もちろん、責任は私一人で取る」
「艦長が首になる時は、私も連帯責任でお供しますよ」
小川艦長と細川副長二人の会話に割り込むように観測長が報告した。
「艦長!『ミズーリ』が今度は『ウィスコンシン』と衝突する針路をとりました!」
続けて通信長が報告した。
「発光信号により『ウィスコンシン』より通信!『我これよりミズーリを砲撃す。そちらは静観されたし』です!」
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