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第六十九話 日米宇宙軍合同演習 その2

 アメリカが「ミズーリ」を宇宙標的艦として保有することに、もちろん、ロシア・中国は反対した。


「アメリカは宇宙標的艦に偽装して条約違反の五千メートル級宇宙戦艦を保有しようとしている!」と主張した。


 それに対してアメリカは「あくまで宇宙標的艦として保有する。完全非武装で戦闘艦としての能力は持たせない」と主張した。


 激しい協議の末、結論は「宇宙標的艦として『ミズーリ』のアメリカ宇宙軍の保有を認める。ただし、他国からの実弾射撃訓練の標的艦としての使用の要請には可能な限り応える」となった。




 宇宙護衛艦「しなの」の戦闘指揮所でモニターに映る「ミズーリ」を眺めながら小川艦長は口を開いた。


「大原二等宙士。ワシントン宇宙軍軍縮条約で締結された全長三千メートルを超える宇宙戦闘艦の建造・保有の禁止以外の重要な禁止事項は何だ?」


 小川艦長はノリオに指導教官のように質問した。


「はい、宇宙戦闘艦にメインシステムとしての人工知能の搭載禁止です」


「その通り、人間をサポートするためのサブシステムとしての人工知能の搭載は認められているが、人工知能のみで動く無人宇宙戦闘艦は認められていない。人工知能で動く無人の装甲起動服や無人戦車、無人軍用機は認められているがな。その理由は分かるか?」


 ノリオは記憶促進装置で覚えた軍縮条約の条文を頭の中で読み返した。


「条文には理由は書いてありませんでしたが、推測はできます」


「どのようにだ?」


「西暦の二十世紀末ごろの映画などの題材によく使われたように『人工知能が人類に対して反乱を起こす』のを怖れている人たちは一定の数います。いわゆる『人工知能反対派』に対する配慮だと思います」


「その通りだ。いまだに人工知能が人類に対して反乱を起こした実例はないがな。だが、無人宇宙戦闘艦は禁止されているのに無人戦車や無人軍用機は許可されているのは何故だと思う?」


「表向きの理由は無人戦車や無人軍用機が反乱を起こしても、比較的簡単に鎮圧できるからだと思います。無人宇宙戦闘艦が反乱を起こしたら鎮圧するまでが大変ですから」


「表向き?なら、裏の理由は何だ?」


「どこの国の軍隊も人手不足ですから、人工知能で代替えできるところは、できるだけ人工知能に代替えしたいからです。『人工知能反対派』に対する『言い訳』みたいなものだと思います」


 小川艦長は軽く両手を叩いて、音をたてない拍手をした。


「自力でその考えにたどり着いたのは偉いぞ。宇宙軍艦でも戦闘艦以外の補給艦などは人工知能による無人艦が許可されている。前方にいる『ミズーリ』も人工知能による無人艦だ」

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