第六十八話 日米宇宙軍合同演習 その1
小川艦長は話を続けた。
「スキナヨニー准将は本当に友達が欲しかったのかもしれないな。彼の立場では親しい友達などつくれないだろうからな」
「僕はこれからどうすればいいのでしょうか?」
「とりあえず様子見だな。ノリオ。私抜きでスキナヨニー准将に会おうとはするな」
「はい、分かりました」
「明日の日米宇宙軍合同演習のために今日は早く寝ろ。仮想現実では数え切れないほどやったが、現実での実弾演習はノリオは初めてだろ?私も久しぶりだ」
ニュー・フロンティア星系の宇宙空間に全長約五千メートルの宇宙船が浮かんでいた。
アメリカ合衆国宇宙軍の宇宙標的艦「ミズーリ」だ。
十年前、跳躍暦百四十年に地球上のアメリカ合衆国の首都ワシントンで開催された軍縮会議の結果締結されたワシントン宇宙軍軍縮条約により、全長三千メートル以上の宇宙戦闘艦は建造・保有が禁止されている。
宇宙標的艦「ミズーリ」は本来は宇宙戦艦「ミズーリ」として建造・就役される予定だった。
軍縮条約は会議の初期段階では、全長五千メートルを制限とする見込みだった。
そのため全長五千メートルの宇宙戦艦として「ミズーリ」の建造は進められていた。
しかし、会議が進むにつれて制限を全長三千メートルとする案が有力となっていった。
提案したのはロシア・中国で「軍縮条約なのだから宇宙戦闘艦はなるべく小さくすべきである」と言い出したのだ。
もちろん、ロシア・中国には表に出さない思惑があった。
ロシア・中国は全長四万メートルの宇宙戦艦を計画していた。
それに対してアメリカが主導して各国の軍事費の増大を避けるためと軍備増強による緊張緩和のための軍縮会議の開催を提案したのだ。
ロシア・中国は軍縮会議の開催そのものに反対したが、それが避けられないと分かると密かに「アメリカへの嫌がらせ」を企んだのだった。
宇宙戦艦「ミズーリ」は各国が建造していた五千メートル級宇宙戦艦の中で最も工事が進んでおり、進捗率は約九十パーセントだった。
そこにロシア・中国が全長三千メートルの制限を提案した。
それを受け入れると完成間際の「ミズーリ」を廃艦としなければしなければならないためアメリカは反対したが、結局は受け入れることになった。
ロシア・中国の「アメリカへの嫌がらせ」は成功した。
他の国の建造中だった五千メートル級宇宙戦艦、日本の宇宙護衛艦「むつ」、イギリスの宇宙巡洋戦艦「フッド」は進捗率約五パーセントだったので廃艦となった。
しかし、「ミズーリ」を諦めきれないアメリカは「宇宙標的艦」としての建造・保有を提案したのだ。
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