第六十話 宇宙戦艦「ウィスコンシン」 その1
「確かに、アメリカ合衆国は西暦の二十世紀の我が日本との戦争の後は敵対関係になったことはない。戦争の後に結ばれた日米安保条約は何度も改定されているが、今も健在だ。確かにアメリカは我が日本の『同盟国』だ」
ノリオの質問にノブヨは教科書を読み上げるような口調で答えた。
「小川艦長はアメリカのことを警戒しているように僕には感じられるのですが?」
「そうだ。私は警戒している。日本とアメリカは確かに同盟関係にあるが、いや、同盟関係にあるからこそ。どちらが『主導権』を握るかを常に争っている。まあ、表に出ないことが色々とあるんだ。ところで、さっき言っておいたことについての心構えはできているか?」
「は、はい!もちろんです!」
ノブヨがノリオに言っておいたことは、こういうことであった。
アメリカ宇宙軍にも「ラッキーパーソン」はいる。
だが、事前知らされた情報によると宇宙戦艦「ウィスコンシン」には「ラッキーパーソン」は乗っていない。
そういう場合、「リング」を一回で通過するために友好国の宇宙船から「ラッキーパーソン」を派遣してもらうということは普通に行われている。
今回、「ウィスコンシン」からは「ラッキーパーソンであるノリオ・オオハラを派遣して欲しい」との要請があるのは間違いないと思われる。
「もちろん、ノリオ。君を一人で『ウィスコンシン』に乗せるようなことはしない。何人か同行させる。できるなら私が同行したいところだが、艦長である私は『しなの』から離れるわけにはいかないから無理だ」
「はい、小川艦長。命令通りに『ウィスコンシン』がリングを通過してニュー・フロンティア星系に到着したら。僕は太陽系行きの宇宙船に乗り換えて、こちらに戻って……」
「艦長!」
「どうした?観測長?」
「宇宙戦艦『ウィスコンシン』が高速で接近しています!」
「合流予定時間には少し早いぞ?とにかく、ノリオを移乗させる準備を……」
「いえ、現在の『ウィスコンシン』の速度では減速して、こちらとの合流は不可能です!最大速度のまま『リング』に突入しようとしているものと思われます!」
「なんだと!?」
宇宙戦艦「ウィスコンシン」は最大速度のまま「しなの」の至近距離を通過すると、十二個ある「リング」の一つに突入した。
「艦長。ニュー・フロンティア星系から民間宇宙船が『ウィスコンシン』からの伝言を預かってきました」
「通信長。読み上げろ」
「こちらアメリカ合衆国宇宙軍宇宙戦艦『ウィスコンシン』。当艦はニュー・フロンティア星系に到着。日本国航宙自衛隊宇宙護衛艦『しなの』にはただちの合流を望む」
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