第四十一話 天華人民帝国 その11
エリート士官は逆ナンしてきたアイドルと付き合い始めた。
付き合いと言っても、たまに映画館や喫茶店でデートするという健全なものだった。
ちなみに、跳躍暦百五十年の「映画館」は西暦の二十一世紀のそれとはまったく違う。
仮想現実技術の発達により、個人でどこででも映画館並みの映像と音響が楽しめるようになり、一時映画館は衰退し絶滅するかと思われた。
映画館が復活したのは、衰退の原因となった仮想現実技術を避けることをせず。積極的に取り入れたことだった。
例えば、映画の中で高級レストランの美味しそうな料理が出てくる。仮想現実ではその料理の味を体験するのは技術的には簡単なことであった。
しかし、権利関係的には難しいことであった。
仮想現実技術の発達により、食べ物の味を仮想現実の中で再現可能になると、音楽などと同じく「味」にも著作権を認めようという動きがあった。
仮想現実の中で有名な料理店の味が再現可能になると、現実の料理店に客が行かないようになり、料理店が倒産してしまうということがありえる。
それを避けるために「味」にも著作権を認めて、料理店に著作権使用料が収入になるようにしようとしたのだが、上手く行かなかった。
音楽には著作権があっても、お笑い芸人の「一発ギャグ」に著作権が無いように「味」に著作権を認めることはできなかったのだ。
他にも仮想現実で映画を見るなら映画の場面の暑さ寒さや触感まで体験可能で、初期の仮想現実による映画鑑賞ではそれが行われた。
それが事故を引き起こした。
灼熱や極寒の場面であまりにもリアルな体験をした多数の視聴者たちがパニックを起こしたのだ。
幸い死者は出なかったが社会問題化し、個人用の娯楽用の仮想現実では安全基準が設けられるようになり、味覚や触感などは基本的に禁止になった。
学校や軍隊などでの教育・訓練用では安全基準は緩和された。
その状況に映画業界は注目した。
映画館という特定の施設での仮想現実の安全基準を緩和することができたのだ。
そのため個人用の仮想現実では不可能ことを体験する娯楽施設に映画館はなっている。
それで跳躍暦百五十年でもデートの定番の場所となっている。
エリート士官がアイドルにすすめられて一緒に見た映画は、アイドル自身が出演している恋愛物で、中華王朝風の架空世界を舞台にしていた。
内容はアイドルが演じる旅芸人が、巡業のために立ち寄った小さな町で、都から赴任した貴族の将校と恋に落ちるというものだった。
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