第三十六話 天華人民帝国 その6
アイドルグループ「天華人民帝国」のメンバー数名を赤信号無視の「微罪逮捕」したことは、地球でも報道され大変な騒動となった。
中国共産党に世界中のファンから抗議が殺到したが、中国の報道官は「信号無視はあきらかに違法であり逮捕は適法である」と答えるだけだった。
それに対して世界中から中国本土にファンたちが入国し抗議活動を行った。
抗議活動と言っても西暦の二十一世紀ごろのように街頭でデモをしたのではなかった。
ファンたちは中国国内でわざと信号無視をして自撮りをして、それを証拠に警察署に自首したのであった。
あまりにも数が多過ぎて警察署は他の業務に支障が出るほどであった。
中国警察は「逮捕するほどのことではない」と対応したのであったが、「それなら何故同罪の彼女たちを逮捕したのか?」とファンたちは反論した。
中国は過去国内でデモなどの反政府運動が起きた時は、わざと運動を過激化させて、それを「鎮圧」することを理由に自己を正当化する手段としていたが、今回はその方法は使えなかった。
アイドルグループ「天華人民帝国」もそのファンたちも特定の場所を不法占拠したり、何かを破壊したりしているわけではないからだ。
結局、逮捕された「天華人民帝国」のメンバーは短期間で釈放された。
中国共産党は釈放したメンバーに注目した。
メンバーたちは反政府な発言をSNSなどでして、ファンの支持をさらに集めようとするに違いないと思ったからだ。
しかし、メンバーたちは「ファンの皆さん。私たちのために応援ありがとう!」と発言するだけで、政治的な発言は一切しなかった。
しかし、「天華人民帝国」の運営が次にした行動は中国共産党の想定の斜め上を行った。
メンバーの等身大フィギュアを製造して通信販売を始めたのだ。
アイドルやアニメのキャラクターの等身大フィギュアを製造・販売するのは珍しくないが、この場合はフィギュアの材料が特別だった。
C11惑星の北大陸のみで産出するレアメタルを材料としていたのだった。
しかも、価格は中国共産党が他国に鉄鉱石として販売するより安かった。
それでも運営としては充分な利益が出る価格であった。
つまり、レアメタルが欲しい外国の企業などはフィギュアとして購入して、それを溶かして他の工業製品の材料として使うことができるのである。
もちろん、中国共産党は禁止しようとしたが、C11惑星まで、自家用宇宙船で純粋なファンとしてフィギュアを購入しに来た有名なセレブまでいたため不可能だった。
この他にも様々な手段を使い「天華人民帝国」は独自の財源を持つようになったので、「独立宣言」を出すのは時間の問題と思われた。
だが、いつまで経っても「独立宣言」は出されなかった。
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