第二十六話 サクラコ その3
「カイくん」に押された宇宙護衛艦「しなの」は徐々に加速した。
「現在、最高速度の1.3倍に達しました」
航宙長の報告に戦闘指揮所にいた人間たちは歓声ともうなり声とも取れる声をあげた。
小川艦長も例外ではなかった。
「カイくん一基で普通のA式推進機の十二基で出せる最高速度の1.3倍になるとはな!凄いパワーだ!」
「そうでしょう!ノブヨおば様!カイくんは凄い力持ちさんなんだよ!」
サクラコは可愛がっているペットを自慢するかのようだった。
「サクラコ、今の速度を維持したまま惑星新大江戸まで行けるのか、カイくんに聞いてみてくれ」
「うん、分かった。あのね、カイくん……」
カイくんの答えは「可能」ということであった。
小川艦長は、サクラコにカイくんが「しなの」を押すのをやめて、「しなの」の格納庫に入るように言った。
惑星新大江戸に到着する前に色々と対策をせねばならず。時間が欲しかったからである。
宇宙護衛艦「しなの」は、カイくんを格納庫に収納すると、自前のA式推進機による通常速度による航行に戻った。
惑星新大江戸に到着するのは数日後の予定である。
「しなの」の格納庫には、ノリオとサクラコの二人がいた。
「お疲れ様。カイくん、しばらく休んでいてね」
サクラコは格納庫にある小型宇宙艇に声をかけると、ノリオの方を向いた。
「ねぇ、ノリオくん、これ持っていてくれる?」
「えっ!?これは……」
サクラコがノリオに渡したのは、カイくんの「遠隔操縦装置」であるレバーであった。
「それじゃあ!よろしくね!」
サクラコは学校の掃除当番を替わってもらうような感じで格納庫から出て行った。
「え……これをどうしろと?」
格納庫に一人取り残されたノリオは、レバーを右手に握ったまま途方に暮れた。
(いや、これはひょとして……)
ノリオはレバーをマイクのように持った。
「カイくん、僕が君をコントロールできるようになったのなら艇の航宙灯を点灯させてくれ」
小型宇宙艇に限らず、地球人類が所有するすべての宇宙船には安全のため船の外部に航宙灯を装備することが義務づけられている。
通常航行では航宙灯を常時点灯するこで存在を他の宇宙船に知らせているし、無線通信が使えない場合は航宙灯を点滅させて、モールス信号で他の宇宙船と通信するからである。
小型宇宙艇の外部にある航宙灯は点灯しなかった。
ノリオは何度か同じ事を繰り返したが、結果は同じだった。
ノリオの右手からレバーが跳び出した。
レバーは空中を飛んで格納庫の外に出た。
「あーっ!やっぱり駄目なんだ!」
格納庫の外からサクラコの声がした。
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