第百一話 ニュー・フロンティアでの暴動 その8
惑星ニュー・フロンティアでは、親に隠れて仮想現実装置を使用する若者が増えていった。
個人用の初歩的な機能しかない仮想現実装置は、外見はパソコンと同じなので、子供部屋にあるのを見ても親は分からなかったのだ。
若者たちは初歩的な仮想現実装置では満足できなくなり、高性能の仮想現実装置を求めるようになった。
高性能の仮想現実装置は、家庭用大型冷蔵庫ぐらいのサイズになり、価格は普通自動車ぐらいになる。
これを親に隠れて購入し、自宅に設置するのは不可能だった。
惑星ニュー・フロンティアの職業の一つに、「惑星調査員」というのがある。
惑星の地表に人間の調査員が行き、地形データを持ち帰り、星系政府に売り、報酬を得る。
ドローンが使用不能で、無線通信機が使えない惑星ニュー・フロンティアでは危険な職業だが、その分、高額報酬になっている。
成人して就職先に惑星調査員を選ぶ若者は多い。
惑星ニュー・フロンティアは、開拓を初めて百年以上になるが、いまだに前人未到の土地は広大である。
惑星調査員となった若者は、未発見だった洞窟などを星系政府に届けずに、自分達の「隠れ家」として使うようになったのだ。
調査のための備品として「キャンピングカー」を購入する惑星調査員は普通である。
ニュー・フロンティア以外の星系で製造されているキャンピングカーには、娯楽用の仮想現実装置が付いているのは標準装備である。
この時代の星系間貿易の常識では、自動車などの機械製品は禁制品を隠くすのに利用されないように出荷元で封印される。
そのため、入荷先では人工知能により封印が破られていないことが確認されれば、人間の検査官はそれ以上は調べない。
惑星調査員が隠れ家で、キャンピングカーで仮想現実を使用するようになった。
ニュー・フロンティアでは密かに「仮想現実賛成派」が増えていたのである。
ニュー・フロンティアの社会で隠れて活動してた「仮想現実賛成派」が表にあらわれた切っ掛けは、ある星系議会議員だった。
星系議会の新人議員が議会の席上で、「自分は仮想現実賛成派であり、仮想現実装置を使用している」ことを公言したのだ。
議会は大混乱した。
長老議員のほとんどは、仮想現実を拒否してニュー・フロンティアに理想郷を築こうとした移民第一世代だからだ。
しかし、長老議員たちが新人議員を罰することはできなかった。
ニュー・フロンティアの法律上は仮想現実を使用しても何も罰則はないからである。
そこで長老議員たちは別の方向から新人議員を罰しようとした。
感想・いいね・評価をお待ちしております。




