表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/74

SIDE:10

※ギルベルト視点。不在の十日間と言うギャグ回


俺の実家まで馬車で帰る場合、休憩や宿泊も含めて片道二日半かかる。

今まではその道のりを特に遠いと感じたことはなかった。何せ、片道七日かかる砂漠地方出身者なども同じクラスにいるのだ。俺程度で遠いなどと言っていては失礼だろう。


だが、今の状況…申請やら登録やらでまともにメリルとの時間がとれていない俺にとって、その時間は無駄以外の何ものでもなく、実家は遥か遠い…できれば行きたくない場所でしかない。


と言うことで、早馬を駆って無休で走ったところ、一日かからずに着くことが出来た。

途中で二度ほど馬は代えたが、人間やればここまで無駄をなくせると言うことを身をもって学ぶことが出来た。

これで一日半分も早くメリルの所へ帰れる。往復で考えれば三日分だ。貴族の(たしな)みなどどうでも良かったが、乗馬を真面目に習っておいたことだけは褒めてやりたい。


……と、深夜に帰省した理由を両親に告げたところ、開口一番に怒鳴られた。何故だ。

俺の両親も、そろそろ年なのだろうか。



*  *  *



さて、我がクラルヴァイン子爵家は『二枚看板』などと言われているが、実際は二枚ではなく“二種類”に別れる。

つまり、『貴族』としてのクラルヴァインと『魔術師』としてのクラルヴァインだ。

現在の子爵である母親は『貴族』の側の人間であり、婿養子の父親は『魔術師』の側の人間である。

が、幸いなことにどちらも互いの境遇や必要性をよく理解しており、俺が今回持って来た内容についても、(おおむ)ね賛同する姿勢を見せてくれた。

こう言う部分を見ると、俺は親には恵まれていたのだと思う。


が、問題は親族連中だ。

『魔術師』側の親族は、恐らく理解を示してくれるだろう。何しろ、俺本人が“結果”を体言して居るのだ。ここ数年、魔術名門としての体面を気にし続けていた彼らならば、むしろ歓迎してくれるかもしれない。


(問題は、『貴族側』の親族連中だな)


帰省してすぐ宛がわれた“いかにも貴族然とした”シャツのスカーフを弄りつつ、無意識にため息がこぼれる。

ここまで着て来た学院の制服は、帰ってすぐに取り上げられた。まあ汚れていたことは認めるが、それにしたってこの着替えはないだろう。

襟にも裾にもフリルフリルフリル、合わせたブローチ付けのスカーフも重いしビラビラと邪魔だし、おまけに寸法が合っていないのか窮屈極まりない。

誰だ、こんな悪趣味な着替えを用意したバカは。白地のシャツ一枚でここまでのハズレを用意するなど…思い当たる人物が多すぎて、絞りきれないのも頭が痛い。


「たかが子爵位で、何が貴族だ」


我が一族が治めている領地も本当に小さなものだ。これと言った特産品がある訳でもない、平凡で長閑(のどか)な農耕地。おかげで食糧に困ることはないし、後を継ぐ身として平和なのは大変有難い。


が、日々躍起になって“有力貴族として”振舞おうとするヤツらには、正直呆れの情しか浮かばない。

『魔術師として』の顔のないクラルヴァインなど、ただの田舎貴族に過ぎないと言うのに。


「……メリルに逢いたい」


考えて、憂鬱になって、次に浮かぶのはいつだってメリルだ。

はにかんだ愛らしい笑顔、華奢な体、やわらかな感触、甘い香り。

今すぐにでも学院に帰って、メリルを抱き締めたい。……けれど、これを成さなければ、それは叶わない。

メリルとこの先もずっと一緒に居るための、今回の帰省だ。面倒過ぎて、今すぐこの屋敷ごと消し飛ばしたい衝動に駆られるが、それを我慢しなければ彼女との時間は得られない。


「はー…メリル…」


この一年にも満たない時間で、俺は本当に変わったと思う。

けれど、この変化を心から歓迎し、そして一生のものとしていきたい。

メリルと共にあるためなら、何でも出来る気がする。いや、何だってやってみせる。

あの幸せを、安らぎを、ずっとこれからも守ってみせる。


「……メリル」


大切に大切に、その名を呟いて目を閉じる。明日…いや、もう今日だが、きっと忙しくなるだろう。

それでも耐えてみせるから、どうかもう少しだけ待っていてくれ。






………で、翌日(今日)からの話し合いは本当に散々だった。

飛び交うのは怒号と『考え直せ』と言う説得の言葉ばかり。

そして、うず高く積み上げられていく貴族の女の姿絵たち。まあ、その日のうちに全部処分したが。

絵だけでは飽き足らず、本人たちを連れて来た連中にはさすがに殺意を覚えた。

丁重にお断りし、指一本触れることなくお帰り頂いたのでことなきを得たが、あの女どもは一体どこから俺の帰省をかぎつけて来たんだ。予定よりもかなり早く戻って来たと言うのに。


そんなこんなで気付けば九日、学院から正式な書類が届いたことを最後の理由として、今回の帰省は無理矢理切り上げた。


……今後のことを考えるとまだまだ頭は痛いが、これであと四年はメリルの傍に居られる。

今はこれで良しとしておく。


俺が子爵を正式に継いだ時には、あのバカどもを親族から外そう。

そう強く誓って、学院と言う幸せの地へ馬を走らせた。

舞台となるロスヴィータ王国では、最上位が『女王』であるように、女性でも爵位を持つことが出来ます。

ギル母は勝気な姉さん女房、ギル父はおっとりしてるけど特技は攻撃魔術。そんな両親です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ