【肆/小夜】
その日の未明――――
暁闇に紛れて京周辺の神社や仏閣に火をつけて回る、カズサ軍の姿があった。
カズサはそれを、小高い山から見物する。
煌々と燃える平地は夜空よりも明るく、木々を噛みしだく音が彼の耳をくすぐれば、逃げまどう人々の断末魔は露に消えた。
――これも〝鬼〟の所業。
信仰心に厚い彼等が流布した怪奇は、名だたる大名たちを骨抜きにし、闘争心を奪った。そうして訪れた、その場かぎりの平和を続けたいがために、いつまでも〝鬼〟に縋っている。
髪が、目が、肌が。少し異なるだけで〝鬼〟だと喚き、理不尽に迫害された者たちも結託し、牙をむく。
本当の鬼は、物の怪にあらず。
カズサは、〝鬼〟に囚われている日ノ本を根本から変えようと、その歩みを邪魔する者を一掃しているだけにすぎないのだ――――それが、焼き討ちの命を受けた右腕の解釈だった。
確かめたことはない。
カズサが断言したこともない。
そんなこと、わざわざ口にする男でもない。
しかし、そうでなければ、〝ただの殺戮〟になってしまう。
彼の真意をはかるためにも、ヒュウガは赴いた。
「カズサ公」
首尾は上々。焼き討ちの際に入ってきた情報も、まとめて報告する。
「中国のモリは徹底抗戦のかまえ、旧越後は国衆と甲斐からの援軍により苦戦中とのこと。三河の若君が傘下に、早急に物資を送っています。あと数日もすれば、甲斐に進軍可能かと」
「他意は」
「なにも」
「アシカは、なんと」
「なにも」
――おまえはこのままカズサに続け。
――やつに鬼が宿ったかもしれん。
アシカは最初カズサを頼ったものの、思い通りに動かない彼に業を煮やし、早々に決別。周辺の大名を使って圧力をかけてくるが、茶器の一件から大人しくなっていた。
将軍との連絡役でもあるヒュウガは、なんの音沙汰もない体を貫く。
カズサが自分たちの関係にどこまで気づいているのか。見透かされているからこその命であるなら、彼は〝鬼〟ではないのかもしれない。




