HTVとπTVの動揺
元貧乳戦隊の司令官、熱原局長はモニターの中にそれを見ていた。
「田良子坂が……ギゼンのラスボスだって? まさか……。あいつが?」
熱原の脳裏に、田良子坂との思い出が蘇る。
制作室で、一人黙々と仕事をしていた時、テレビからは『今日はたらこスパゲティーを作りますね』という、料理評論家のおばさんの声が聞こえていたあの日。
休憩室で、熱原が休んでいると、テレビから『今日はたらこスパゲティーを作りましょう』と、アイドルの女の子の元気な声が聞こえていたあの日。
仕事帰り、見上げたビルの上にある巨大モニターに男の顔があり、『たらこはパワーだ』という文字を横に添えて宣伝をしていたあの夜。
「……考えてみたら俺、あいつと面識なかったわ」
「いや……、あいつは確かに怪しかった」
一風部長が腕を組み、熱原と並んでモニターを眺めながら、呟いた。
「面白いことは言うくせに、おっぱいの話を俺が振っても無視するんだ。巨乳の話だろうが、チッパイの話だろうが、ガン無視だ。本当にコイツは男か? 本当にコイツは人間なのか!? 俺はそう思っていたね。当たっていたな、あの時の俺の違和感は」
「それはあなたがおっぱいが好きすぎるだけでしょう」
熱原がツッコんだ。
「とにかく……。あそこまで巨大な怪人は見たことがない。元貧乳戦士のあの子たちも、どう戦ったらいいかわからないでしょう」
そう言い、心配そうに口に手を当てた。
「出ていってしまったとはいえ、私が集めたかわいい戦士たちです。どうか……勝たなくてもいいから無事でいてほしい」
その頃、πTVの制作室では、田良子坂の上司だった久助さんが、モニターを凝視しながら驚きで表情をかためていた。
「田良子坂くんが……ラスボスだって?」
久助さんは彼との思い出を辿った。
仕事終わり、飲みに誘ってもけっして付き合わない男だった。
『私は水産加工品ですので、食べるほうではなく、食べられるほうなんですよ』
そんな意味のわからない理由で、いつも誘いを断っていた。
そういえばあの男は謎に満ちていた、と久助さんは思う。
とても優しいくせに無愛想で、いつもメッセージアプリの返信欄を閉じていた。
喋る言葉にたまに方言が混じるが、それが何弁なのかを頑なに秘密にしていた。
巨乳戦士たちを愛あるまなざしで見守りながらも、絶対的なまでにそこに下心を感じさせなかった。
「ただの変人……ただのムッツリスケベだと思っていたが……」
久助さんは悔しがった。
「まさかあいつが……! 敵の総大将だったとは! こんなに近くにいるのに騙された!」
「玲子……」
秘密社会悪組織ギゼンのラスボス、ビルゲ将軍は窓の中からこちらを見る美乳戦士たちを陰気な目で睨みつけ、言った。
「虚無子、スタイン、真心……。ム? 陽奈がいないな? ……まぁ、いい。それに元貧乳戦隊の諸君」
挑発するようにニヤリと笑った。
「巨大なこの俺を倒せるか?」




