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獏羽生玲子社長

「無謀だよなァ、君は」


 だらしなくスーツを着た、40歳代前半ぐらいの男が、バカにするように言った。


「日本を代表するテレビ局を辞めて、小娘たちだけで独立するなんてなァ」


 笑うと大きな出っ歯が前に突き出した。



 男が言うことを、平然とした顔に微笑みを浮かべながら、獏羽生ばくにゅう玲子れいこはただ聞いていた。

 彼女の座る椅子はイタリアのブランド物で、一脚25万円の特注品である。



「社長の椅子にしても、ちょっとその椅子は高級すぎるだろ!」

 男が子供をたしなめるように言う。

「もうちょっと普通の椅子、なかったのかな?」


「言いたい放題はそのへんにしてもらえますかしら」

 玲子は相変わらず表情を変えず、見下し返すように言った。

「あなたはお仕事のお話をしに来られたのではないのでしょうか?」


「もちろん仕事の話ですよォ」

 男は大笑いし、腰掛けたパイプ椅子ごとひっくり返りそうになった。

「ただ、スポンサーとしても、将来性のあるところと仕事がしたいですからねェ……、こんな、おっぱいが大きいだけのアイドルもどきどもしかいない事務所じゃ……」


「用がないのでしたらお帰りください」

 玲子の表情が少し厳しくなった。

「わたくしも次の大事なお客様を待たせております」


「大体、この『獏羽生ばくにゅうプロ』って看板、どうにかしたほうがいいですよ」

 男はとどめを刺すように、最大のニヤニヤ顔で言った。

「これ、ばくにゅうとは読まないでしょう。ふつう『ばくはにゅう』ですよ。勢いよく続けて言うと『ばかにゅう』だ! ばかにゅうプロ! ハッハッハ! おっぱいが大きいだけのオンナノコにはお似合いの名前ですね!」


 後ろでパイプ椅子に座っていた貧乳レッドこと千々梨優美(ちちなしゆみ)が顔に正義の怒りを浮かべ、立ち上がりかけたのを制止しながら、玲子は落ち着いた声で男に言った。


「その発言は大企業『獏羽生鉄道グループ』への誹謗中傷と受け取らせていただいて構わないのですね?」


 男が黙った。


「あなたの会社を潰すぐらい、お父様の力をもってすればわけもないのよ?」


「ううっ……!」


「お帰りはこちらです」

 玲子の執事、南野島木ノ葉(みなみのしまこのは)が手で出口を指し示す。

「どうぞお気をつけてお帰りください。帰り道でキハ仮面の乗った電車に轢かれたりしないように」




「お待たせしたわね、優美さん」


 玲子は高級椅子から立ち上がると、カジュアルな応接セットのほうへと優美を導いた。


「ご一緒に紅茶とモナ王タイムにいたしましょ!」


「今の男……、あんまりだっ!」

 優美は食いちぎるようにモナ王を食べながら、憤慨した。

「誰だったんですか、あれ!?」


「広告会社の営業マンよ」

 玲子は紅茶にモナ王をひたしてミルクティーにしながら、涼しい声で言う。

「お仕事の話とか言ってアポイントメントを取って来たのですけれど、ただの妨害工作員だったようですわね。πTVが寄越したのかもね。新興の芸能事務所が人気番組をもつと、こういうことって、よくあることなのかしら。今月で3件目よ」


「ああいうのこそ社会悪だっ! スーパー戦隊に潰されてしまえばいいのに」


「わたくしたちの敵はもっと巨悪でしょ? あんな小物はほっとけばいいのよ。……あ、木ノ葉。紅茶のお代わりをお願い」


「はい、お嬢様」

 キハ仮面にどことなく似た美少女執事がティーポットを手にした。


 優美は気づかない。すぐ側に、大好きなキハ仮面がいることに。頑なにキハ仮面は男性だと思っているためだ。


「それにしても玲子さんはカッコいいよ! あくまでクールにあしらって、あの男、たじたじになってた」

 優美は紅茶を美味しそうに飲み干しながら、ライバルを褒める。

「あっ、執事さん。私にも紅茶、お代わりお願いします」


「本当はブチ切れそうだったんですのよ」

 目の前の木製テーブルを拳で割りたそうにしながら、玲子は言った。

「親の七光りを使わないと、自分の力では何も出来ないだけですわ。でも、せっかく生まれ持った武器ですもの、自分の夢を叶えるため、積極的に使わせてもらっているわ」


「正しい七光りの使い方だと思う!」


「ふふふ。正しいそんなものがあるのかしら」

 ティーカップをソーサーに戻すと、玲子は本題に入った。

「ところで優美さん、どう? わたくしの事務所に皆さんで移籍して、一緒に『美乳レンジャー』を立ち上げる話、考えてくれた? わたくしが会長になって、あなたを社長に迎えるわ。悪くないお話だと思うのだけれど……」


 優美は決意していた。


 ゆえの即答だった。

「やりましょう!」


「嬉しいわ、優美さん!」

 思わず玲子は立ち上がり、木製テーブルを挟んで優美の手を両手で握った。

「あなたのことだから、『やるならどうしても自分の力で、リッチな友達の手は借りたくない』と言い張るかと思っていたわ」


「私は玲子さんの真逆のド貧乏な佃煮屋の娘ですからね」

 満面の笑みで、優美は言った。

「でも、これ、正しいリッチな友達の使い方だと思います!」






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― 新着の感想 ―
これで下はAから、上は…………Gくらい? までがひとつの仲間になったんだな。
[良い点] う〜ん、メタい! [気になる点] 時代はいんたぁねっつやが
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