ブルーなふいんき
真っ黒な顔に、緑色の血管が浮き出ているユレンの顔。それを見て、虚無子にはすぐにわかった。
「ユレン……! アンタ、怪人に……?」
「こむちゃん……。逃げて」
ユレンの顔は、歪んだ笑いを浮かべながら、涙を流していた。
「あなたが……憎いの」
虚無子は迷った。
自分には怪人に取り憑かれた親友をどうしてあげることも出来ない。
巨乳グリーンの癒やしの力なら、どうにか出来るかもしれない。しかし、呼びに行っている暇はない。
今すぐ何とかしなければ、親友の体は完全に怪人に乗っ取られてしまうかもしれないのだ。
「どうしてわたしよりも……男なんかと仲良くするの?」
涙を流しながら、ユレンが腕に水の"気"を纏わせはじめる。
「どうして……恋愛禁止のわたしの前で、あんなに男の子とイチャイチャできるの?」
「ユレン……」
とりあえず虚無子に出来るのは、後ろへ下がって距離を取ることだけだった。
「わたしだって恋がしたいのに!」
ユレンの腕から巨大な水龍が産まれ、轟轟と音をあげ襲いかかる。
虚無子は既に巨乳ブルーに変身していた。
剣道の防着を模したコスチュームが輝く。
「青野ヶ原流呼吸術……! 『受け流しの法』!」
巨大な水龍を吸収すると、地面の中へすべて流し込んだ。
「寂しいよう……、寂しいよう……」
真っ黒な顔のユレンがユラユラと間合いを詰めてくる。
「恋はできないし……、こむちゃんが冷たくするよう」
虚無子は考えた。
受け流しているばかりではいずれ接近されてしまう。
自分が接近戦にはとことん弱いことはよく承知していた。
弓矢を放ち、攻撃するしかない。
しかし、もしユレンが普段通りに防御してくれなかったら?
今の彼女はふつうではない。もしかすると渾身の力を込めて放った矢が体を貫き、殺してしまうかもしれない。
虚無子の矢にはただの少女なら一撃で即死させてしまうほどの力があった。
『どうすれば……? どうすれば……?』
虚無子は逡巡した。
『牽制の矢なら放つことはできる……。せやけど、そんなもんただの時間稼ぎにしかならへん。いずれ近づかれて……死ぬのはウチのほうや』
何も出来ないまま、ただ後ろへ動くだけだった。
やがて追い詰められた。背後には管理棟の壁があった。横に逃げている間に距離を詰められてしまうことだろう。
虚無子は弓を引き、目を瞑った。
弓を引く力が、弱くなっていく……。
『アカン! ウチにユレンを殺すことなんか、でけん!』
虚無子はただ、祈った。
『誰か! 誰か……助けに来てぇ!』
「ブルーなふいんき」
どこからか、そんな声が聞こえた。
「作:平野G杯」
それは詩の朗読だった。ふいに虚無子とユレンの緊張が解け、二人はその声に耳を傾けた。
『ブルーなふいんき』 作:平野G杯
ブルーな夜には ブルーにおなり
気持ち悪いほど ブルーないなりずし
二人は陰気な ブルーどうし
たこ焼き焼くなら 千枚通し
金属どうしが触れ合う 音に夜もざわつき
親友どうしが争う 音に猫が苛つく
月が見ているよ あなたたちのふいんき
なぜに変換できない ブルーなふいんき
短い自作の詩の朗読が終わると、建物の陰から貧乳イエローこと平野ぺたがドヤ顔で現れた。
「どうだ? あたしの詩。出来立てホヤホヤだよっ」
「どうって……」
虚無子が呆然とする。
「どうなんだろう……」
ユレンも途方に暮れた。
「うっぎゃあああ! キモい詩!」
怪人影女が苦しみ出した。
「あ……。チャンスや」
虚無子が渾身の一矢を放った。
ユレンから少しだけ離れた異物の影を、矢は一発で正確に貫いた。
「うぎゃあああああ!!」
怪人影女は、死んだ。




