みんなのところへ
「私は……木ノ葉などという名前ではありません」
キハ仮面は電車のマスクの裏で激しくまばたきしながら、玲子に答えた。
「貴女がピンチの時には必ず現れる、ただの特急列車です」
玲子はキハ仮面の顔に顔を近づけた。
じいいっと見てから、にっこり笑う。
「ま……、いいわ。あなたに頼らないよう、わたくしも、もっともっと強くならないとね」
「信じております」
キハ仮面も笑った。
「玲子お嬢様は……あ、いえ、キョニューレッド様は、世界の誰よりもお強くなられることを」
「僕も信じてるよ」
篠宮マサシがキハ仮面のセリフに便乗して、優美に言った。
「優美ちゃんのAカップのおっぱいが、世界の誰よりも小さくなることを」
優美のぱんちが飛んだ。マサシはそれを掴むと、口に入れようとする。
「おまえは二度と出てくんなー!」
相手の力を利用してそのまま拳を突っ込んでマサシの前歯を三本破壊すると、優美はハンカチで拳を拭いた。
「私が男性不信になったのはおまえのせいだ!」
「他人のせいにしてはいけないよ」
急にマサシがカッコよくなった。
「君はプロだろ? 世界を救うプロだ。プロなら、何があっても自分の責任だと思わないといけない」
「『白マサシ』、出やがった」
優美が吐きそうな顔になる。
「この爽やかで誠実そうな笑顔に騙されて……私は……っ!」
たまごの殻にヒビが入るように、白い世界にヒビが入ったかと思うと、音もなく砕け散った。
世界は一転、真っ暗になり、玲子も優美も何も見えなくなった。
暗闇の中からみんなの声がする。
「レッド!」
「玲子さん!」
「優美っ!」
「勝ったんだね!?」
目が慣れてくると遊園地の『おばけダンジョン』の中に戻って来たことがわかった。
両戦隊のメンバーの笑顔が、暗い中に浮かび上がる。
「優美さんの協力のおかげで勝てましたわ」
「玲子さんが一緒じゃなきゃ勝てなかった」
両レッドは顔を見合わせると、握手を交わす。
「ですけど、わたくし達はライバル同士」
「うん。今度会う時は……。負けませんよっ」
「あっ?」
「あれっ?」
貧乳戦士達が気づいた。
「ブラック&ホワイトこと黒木メイコさん? マスクが脱げてるけど……」
「あなた……、オトコだったの〜〜〜!?」
「しまった!」
マサシはストッキングをかぶり直すが、もう遅い。
ヒンニューブラック&ホワイトのクビが確定した。
「篠宮マサシ様……」
玲子がそう言って前に立つなり、マサシは爽やかな白い歯を覗かせた。
「やあ、玲子さん。勝利できてよかった」
「わたくしも……。貴方をお守りできて、よかった」
玲子がマサシに抱きついた。
ぎゅーっと、ぎゅーっと、抱きしめる。
巨乳に興味のないマサシは困ったような顔をして、優美のほうを助けを求めるように見たが、優美はそれどころではなかった。
「キハ仮面さん」
優美がキハ仮面に右手を差し出す。
「ありがとうございました。貴方が来てくれなかったら、私達はおそらく、あの怪人に勝てませんでした」
差し出された右手と握手をすると、キハ仮面は綺麗なお辞儀をした。
「お礼には及びません。私は玲子お嬢様の危機には必ず駆けつける……それだけのことでございますから」
「貴方は、玲子さんの……?」
「下僕でございます」
『恋人じゃないのか! やった! ワンチャンあるかも!』
優美は顔を輝かせた。
自分の男性不信もこれで治るかと期待していた。
キハ仮面が白馬の王子様のように見えていた。
その正体が獏羽生家の執事、緑野島木ノ葉という名の女性であり、自分より歳下の少女だということなど、この時の優美には知れるはずもなかった。
「さあっ! 怪人倒したし……」
「みんなで遊んで帰ろうぜ!」
「いいよね? プロデューサー?」
『まあ、たまにはいいだろう』
『あまり遊びすぎずに、早めに帰って来るんだぞ?』
両プロデューサーにそう言われ、10人の戦士達が大喜びする。
「わーい」
「キャホー!」
「よーし、みんなで遊ぶぞーっ」
日頃は互いの強さとプライドと視聴率を争い合う巨乳戦士と貧乳戦士達が、この日はまるでお友達同士のように、それぞれ乗りたいアトラクションへ向かってグループを作り、学生メンバーは学生らしく、大人なメンバーも学生に帰って、仲良く手を繋ぎ合って散って行った。




