密閉空間の戦い
「あれ?」
「怪人は?」
9人の戦士達が呆気にとられてキョロキョロしていた。
「レッドもいないよ?」
「どっちのレッドもだ」
『レッドが消失した』
田良子坂プロデューサーの声が空から響く。
『GPSにも反応がない』
『恐らくは怪人に異空間に連れ去られたんだ』
熱原プロデューサーの声が言った。
『二人が自力でなんとかしてくれるのを祈るしかない』
ヒンニューブラック&ホワイトが、何かを思いついたように外へ出て行くのを見つけ、ヒンニューグリーンがその背中に声を掛けた。
「あら、篠……黒木さん。どちらへ?」
「ちょっとおトイレよ☆ オホホホホ♡」
「くうっ……!」
「ううっ……!?」
真っ白な異空間の中で、両レッドがオモチャにされている。
「ホホホ……。アンタ達、弱いわねぇ。主人公のくせに……主人公……きいいっ!」
怪人ジェラス・レディーは嫉妬すればするほど強くなる。
今、主人公を目の前にして、その嫉妬の炎は最大に燃え上がっていた。
「つ……、強いっ!」
「玲子さん! チート能力でどうにか出来ないの?」
「あれは仲間が側にいないと出来ないことわ。優美さんこそ、聖撃波をどうして使わないの?」
「あれは空の彼方へ飛ばす技。ここには空がないから使えないの」
怪人がハイヒールの踵で踏みつけにくる。二人は反対方向に分かれて転がりながらかわすが、怪人のヒールも二つに分かれてそれぞを追いかけてくる。
「分裂したわ!」
「き……気持ち悪い!」
怪人が二つに分かれたわけではない。足だけがびよ〜んと股から裂け、スルメイカのようにどこまでも追って来るのである。
怪人はニヤニヤ笑いながら挑発した。
「どうしたの、主人公さん達? 1対2だってのに? 歯が立たないの? 弱いわねぇ。それでも主人公? ゲソみたい。ミソみたい。クソみたいよ! ホーッホッホッホ!」
「あなたが強すぎるのよ」
「おまえが強すぎるんだっ!」
怪人がドヤ顔になった。気持ちよさそうである。
すると嫉妬の念が弱くなったのか、分裂していた身体が元に戻ってしまった。
慌てて歯ぎしりを始める怪人を見ながら、優美が言う。
「あっ。こいつ、褒めたら弱くなるよ?」
玲子が嫌そうな顔をする。
「あんまり褒めたくないシロモノですわ……。でも……」
二人で褒め殺しにかかった。手をパンパンと叩きながら、
「怪人さん、よく見たら美人!」
「この空間では貴女こそが主人公ですわね」
すると怪人の表情がさらに険しくなった。
「見え透いた嘘で褒められるのがあたしは一番嫌いなのよっ! きいいいい!!」
「あ……」
「逆効果でしたわ」
怪人のハイヒールが巨大化した。
まるで鉄のミサイルのようになったそれが二人の上に降って来る。
「くそっ……!」
「仲間が呼べれば……!」
「無駄よ無駄よホーッホッホッホ! この異空間に外から入って来ることは誰にも出来ないわ!」
「あの〜」
怪人の後ろから、誰かが声をかけてきた。
「すいません。来ちゃいましたぁ☆」
びっくりして振り返る怪人を、黒いストッキングで顔を隠したヒンニューブラック&ホワイトがテヘ顔で見つめている。
無響室のような異空間に、遠くから電車の音が響いて来た。
怪人が再び驚いてそちらのほうを見ると、電車が走って来ていた。その上に、車掌のコスプレをして電車の顔のマスクをかぶった細身のヒーローが乗っている。
「キハ仮面、参上! お嬢様をイジメるやつは、許しません!」




