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お祭り勝負


「見て見て伊代姉、いっぱい掬えた!」


「いつも思うけどそれずるくない? なんであんたに掬われた時だけ金魚おとなしいの? というかあんたのところに金魚集まりすぎじゃない? 金魚の方から掬われに来てない?」


「伊代姉、負け惜しみはみっともないなー?」


「んー……」


 伊代姉の悔しがる顔は本当に珍しい。こんな時じゃないと競争ごとに勝てないからなあ。

 金魚に限ったことじゃないけど、僕昔から動物にやたら寄ってこられるんだよね。


「今なんか変なこと考えてるでしょ」


「ん? 生意気なこの子もいいわぁ……なんて思ってないわよ」

 

「思ってんじゃん! なんか口元緩んでるなあと思ったら!」


「ふふー。でもやっぱり悔しがる顔見たいから次射的ね」


「え? 射的だったら僕も得意だよ? 今度こそきっちり悔しがらせて……」


……。


「負けたー!! なんで!? 僕も確実に当ててるのに倒れてくれない!!」


「悔しい? ねぇ悔しい?」


「ううううう、くや゛じい!!」


「あはははっ! 梅干しみたいな顔になってるわよ!?」


 僕も狙いは外してないはずなんだけどなあ……?

 伊代姉は左手に撃ち取ったぬいぐるみを持ち、射的用の玩具のライフルを肩に担ぎながらとんでもないドヤ顏で僕を見下ろしていた。

 

「なんで? 僕も伊代姉と同じくらい当ててるのに!」


「こういう商品そのものを打たせるタイプのやつはコツがあるのよ、教えたげる。おじさんもう1回お願い」


 射的屋台のおじさんは伊代姉に声をかけられて景気よく返事をすると、美人だからとコルク弾1発分おまけしてくれた。

 全部で7発、これで何を狙うのか……。


「ありがと、おじさん」


「いいっていいって! 柊さんとこの子だろ? いやー2人とも随分美人になっちまってて! 驚いたよ!」


「あの子にも驚いて欲しいなぁ」


「お、これかい? いーよいしょ! ほれ、これ以上はおまけできないぜ!」


 お、おお……伊代姉の猫なで声媚び媚びボイス可愛い!!

 背の高いテキ屋のおっちゃんに対して上目遣いでそんな声でそんなこと言われたらおまけせざるをえないでしょ……。


 大きな狼のぬいぐるみが棚から落としやすい位置に移動させられた!

 これもコツの一つなのか……。


「はい千草、構えなさい」


「はーい」


 伊代姉に言われるがまま木製のおもちゃライフルの先にコルク弾をぐっと強く入れ込んでからスライドを引いて狙いを定めて……。


「……ぅええ!?」


「ほぉら、もうちょっとぐーっと腰曲げなさい」


 伊代姉が僕の後ろから覆いかぶさってきたかと思うと、僕の手に自分の手を添えてきて……。


「柔らかくていい匂いする……!!」


「ありがと。ほら、銃の先をギリギリまでこうやって景品に寄せて。重たいの狙う時は1発で倒そうとするんじゃなくて、全部後ろ足掠める感じで当てなさい。いーい? 1発目は一緒にしてあげるから」


「う、うん……」


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