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19節ー忌み嫌われた神様ー

「わっちともあろう者が、こんな体たらくをきさんに晒さねばならんとは思いんせんかった」


「……蛇姫、うぬ。随分と存在が歪んでおるな。その様子では、もう歩くこともままならんじゃろ。どうなっておる」


 毅然とした表情の蛇姫様だったけれど、それでもどこか頼りない声で……でもまだ銀露に対して敵意を持ったような声色で言う。


「どうもこうもありんせん。傲慢にもきさんが囲い込んでおるその人の子をわっちに……」


「いや、待てうぬ、祀られておった社はどうした。うぬから信仰の欠片も感じることができん。まさか」


 神様というのはある程度、人の信仰があってこそ存在し続けることができるんだって。

 で、その信仰を集めて神様とつながるところが祀られる神社であったり祠であったりするんだ。


 銀露が言葉を言い終わるその前に、今僕らが見ている楼閣の一室の風景がまるで本のページがめくられるかのように変わっていく。


「熱っ……」


 赤く煌々と輝く風景と、頰をヒリつかせる熱い風に当てられて思わず声が出た。

 ここは外だ。かといって、今さっきまでいた緋禅桃源郷じゃない。

 おそらく、かつて蛇姫様が祀られていたところ。しかも、それはごく最近まであったところ。


 蛇姫様の社は随分立派なものだった。でも人がいる気配もなく、手入れされている様子もなく。

 ただボロボロになった社は煌々と燃えていた。


「銀露……これって」


「火を放たれたのか。……そうか」



「なんで……蛇姫様の社が燃やされて……」


「これは今ではなく、かつての風景じゃ。しかして……あまり近づくでないぞ。呪いに当てられてはかなわん」


 呪い。この風景は蛇姫様のかつての心象風景であり、本来僕はここにいないはず。

 なのに、銀露は呪いにかかるという。

 

「蛇姫は人に、時代に、神に忌み嫌われておった。その身に宿す穢れの大きさの所為での。緋禅の桜に少しずつ穢れを分け与え、長い年月をかけ浄化しておったはずじゃが……。そうか、人の方が痺れを切らせたか」


 緋禅の桜が血のように赤い理由。穢れの赤。蛇姫様の瞳の色。


「高名な陰陽師を雇い、返りがこんよう周到に用意されておる。ひどい話じゃな。どうしてこの社が治める土地に穢れがたまらんかったか、分かっておらんかったのか、氏子うじこは」


 氏子……その土地を治める氏神様の元で暮らす人々のことだ。


「どういうこと?」


「蛇姫はの。その身に万物の穢れを集め溜め込む性質があるのじゃ。その溜め込んだ膨大な量の穢れは呪いとなり、周囲を蝕む……が、蛇姫自身の力でそれを社の周囲までに抑えておった」


「でも、周囲までは呪われていたってことに……」


「そうじゃ。それが人々に忌み嫌われる理由となった筈じゃ」


 蛇姫様が治めていた土地の穢れを集めて溜め込むことによって、その土地はひどく綺麗で清潔で、穢れなど一つもない豊かな土地だったのに。


「高名な陰陽師なら、そういうことを説明して燃やしちゃいけないって伝えることもできた筈じゃ……」


「それを説明して止めさせるのと、説明せず多額の金銭を受け取り、仕事をするのとどちらが有意義かわかるじゃろ」


「そんな……お金のために社を燃やしたって!?」


「金のために動く陰陽師は多い。その限りではないがの。今回は運が悪かったとしか言えん」


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