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ブリューナクな日々  作者: 大きいは強さ
第1章:混沌の大樹海
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第8話 平原と戦い

 森を抜けると、そこには軍隊と思しき人の群れが待ち伏せしていた。


(どうする、どうみても歓迎されている感じ……じゃないな。まぁでも、自分みたいな存在が森から出ようとしたら……そりゃあ、周辺の兵隊さんも動くよなぁ。うん? そうであってもこんながっつり待ち伏せなんてされるか? いや、考えても分からないか。さて、本当にどうしようか? 取り敢えず、彼らが話し合いに来てくれたと信じて、どこか降りられそうな所に降りよう)


 どこか良い所は、と辺りを見れば、隊列? 陣形? どちらなのかは分からないが、何かしらの意図をもって並んでいる兵隊達の真ん中に、開けた場所をみつけた。丁度良さそうな広さなので、そこへ降りる。すると、兵隊達の奥から胸の中央を光り輝かせ、大きな剣を背負った真紅の鎧騎士と、騎士が持っているほどの大きさではないが、両手剣を背負った軽装の旅人のような男が歩いてきた。


(なんだろう? この二人が交渉相手かな?)


 そう呑気に考えていると、どうやら目の前の二人は話し合っているようなので、話が終わるまで待つことにした。話し合いはすぐに終わったようで、真紅の鎧騎士が兵達の間に戻っていく。


(お? 自分との話し合いは、この旅人さん? がしてくれるのかな?)


 しかし、その予想は裏切られた。突然旅人さんは背中に背負っていた両手剣を鞘ごと取り外し、そしてそのまま剣を抜いた。

 剣と鞘が擦れ、鋭い金属音を響かせながら抜かれた両手剣は、刀身には金色の模様が入っており。金色の鍔の中央には、青い宝石がはめ込まれていて、なんとも綺麗である。


(なんか、聖騎士? とかが持ってそうな剣だなぁ、完全にイメージだけども)


 すると、突然旅人さんはその両手剣を片手で持ち、切っ先をこちらに向けて大声で何かしゃべりだした。そのあと、地面に剣を突き刺し腕を組み、こちらを見てニヤっとしたかと思うとすぐさま剣を引き抜き、構え、突撃してきた。


(あー……こうなるのか)


 武器を見た感想は武器であると認識できるのだが、それを脅威とは感じられなかった。精々、前世で言うなら良くできた折り紙だろうか? その程度の恐ろしさ、つまりはよっぽどでなければ自分には害がない物としか思えないのである。


(完全に会話とか話し合いとかそういうのじゃないな……間違いなく。剣の切っ先を、自分に向けてくる時点で友好的ではない、と思ってたけどさぁ……どうしようか)


 そんな脅威判定であるので、旅人さんの攻撃できる範囲に入っても冷静に見ていられた。すでに頭角の横を通り、剣を振り上げ、自分の左の複眼を叩こうとしているようだ。


(でも、流石に目を叩かれたら痛いだろうし困るな。と言うか、何とかして話し合いに持っていかないとなぁ)


 等と思いながら、左前足で軽く剣を受け止める。前足と剣が衝突し、引っかくような不快な金属音がする。予想通り、痛みなどは無かった。ちらりと確認すれば薄い傷も付いていないようだ。

 しかし、旅人さんは止まらない。器用に体を動かし、頭部の下に潜りこみ、口の中に両手剣を突き刺そうとしてくる。それを、頭を少しズラすことにより回避する。

 そのまま、旅人さんは剣を振った勢いを上手に利用して姿勢を直し、そのまま剥き出しの首の関節に向かって剣を振り下ろしてくる。

 流石に、そんなところに剣を叩き込まれたら痛いなと考え、今度は右前足でそれを弾く。又も、金属同士がぶつかるような不快な音がした。そこで、やっと旅人さんは飛び退き、自分との距離を取った。

 すると、周りの兵士から歓声が上がり、何か同じ言葉を繰り返している。多分旅人さんの名前なのだろう。


「らんどるふ! らんどるふ! らんどるふ!」


 と、何度も何度も繰り返される歓声。ソレに対し、旅人さんはこちらから視線をはずさないようにして、空いた手を振って答えた。再度歓声があがったかと思うと、何か合図が有った訳でもないのに、静かになった。


(なんだか剣闘士の猛獣役にされた気分だ)


 等と考えていると旅人さんが何かブツブツ言い出した。


(詠唱かな? まぁ魔法は効かないから問題ないだろう)


 ぼーっと見ていると、詠唱が終わったのか、旅人さんが緑と黄色の光に包まれる。更に、剣は赤色の光に包まれている。


(おおぅ……超派手派手になった。でもあれって魔法? よくわからないし、少し警戒しよう。そういえば妖精さん……いや、ハイエルフの人もあんな感じになってたな)


 ハイエルフの時は一方的に魔法を撃ってよかった。と言うより撃つことで何とかなったが、今は会話をしたいので極力攻撃はしたくない。それに、派手になっただけで恐ろしさはそこまで感じられない。

 とは言え、何も備えないのは怖いので<鉄の装甲>(アイアンアーマー)を念じる。

 いや、念じるのとはまた違うのか? なんというのだろうか、行動やその状態というか事象をイメージするというのか、頭の中で詠唱するような、そんな感じの事を考える。これが無詠唱と呼ばれる技術らしいのだが、細かいちゃんとした説明は聞いたのは聞いたがよくわからなかった。

 ちなみに、これは防御魔法と呼ばれる種類の魔法で、なんでも簡易的な結界のようなものを発生させるらしい。その中でもこの土に属する魔法は見た目には地味だが、一番物理的、魔力的に強固なのだそうだ。なので、こういった耐えるべき状態には重宝する。と、長老樹様には教えてもらっていた。

 下手をうって皆殺しにしてすぐに森に帰ってくるのもいやじゃろう? との事だ。

 とにかく、魔法の発動を確認し、問題がなさそうなので自分は身構えて待ち構える。旅人さんは最初と同じようにニヤっと笑った後、さっきとは比べ物にならないスピードでこっちに突っ込んできた。最初の突撃と比べ三倍は速く感じられる。


(これは……光っている剣はもちろん、体もなにかあるな。でも、この人に<念話>(テレパス)と翻訳魔法を使うのは、不味い気しかしないんだよなぁ。でも、止めるなら会話しないとだしなぁ)


 どうしようかと、悩んでいるうちに、旅人さんは自分の側面に回りこんでおり、今度は前足の第一関節に近づき剣を振り下ろした。


(怪我はしたくないんだって! なんだって旅立ちの日なのに、怪我をしないといけないんだよ! なんか、だんだん腹が立ってきたな、話し合いする気もなさそうだし)


 関節に当たらないようにするため、少し前足を動かし、剣を甲殻部分に当たるようにする。先ほどの繰り返しのように、鈍い音とともに剣は甲殻に弾かれる。しかし、やっぱり旅人さんは止まらない。

 反動で崩れた勢いのまま、バック宙返りを両手剣を片手で持ちながら行い、地面に足が付いた瞬間、一気に間合いをつめ、再度第一関節を狙ってきた。


(いい加減に諦めてくれないのか……これは何ともしつこい人だ。ちょっとこれは流石に怒る)


 そう考え、別の魔法を使ってみる事にする。<鉄の装甲>(アイアンアーマー)を切り、<爆炎の装甲>(バーニングアーマー)を発動させる。

 これも防御魔法と呼ばれる種類の魔法なのだが、こちらは物理的、魔法的な防御力を持つというより、全身を攻撃に使う魔法が、常に巡っている状態にするような物だ。攻撃は最大の防御じゃ! と、楽しそうに長老樹様が燃え上がっていたのが印象的だ。

 つまりどんな状態になるのかといえば、自分が突然爆発炎上したかのように、全身から猛火が噴出した。流石に、これはどうにもならないのか、旅人さんは突きの体勢に入っていた剣を地面に突き刺し、速度を殺し、引き抜きながら炎の範囲外に逃げた。

 先ほどまでの、余裕を持っていた表情とは打って変わって、真剣な表情をしていた。


(よし、これで話し合う気になったかな?)


 そう考え<爆炎の装甲>(バーニングアーマー)を切る。そうして、少し期待していたが、どうやら旅人さんに、そんな気は無かったようだ。

 旅人さんはスッと下を向いたかと思うと、またブツブツと詠唱をはじめた。詠唱が進むにつれて、身に纏う光が強くなっていく。そして、詠唱が終わると旅人さんは二人に増えていた。


(ん……ん!?)


 今の自分に目を擦ったり、瞬きが出来たら何度でもやっている自信がある。最初からそこに居ましたよ。と、言わんばかりに一瞬で旅人さんが文字通り二人になっていたのだ。

 ただ、よくよく見れば、片方は少しばかり表情が虚ろで、剣も反対に持っているのだが。

 その二人の旅人さんは、少しの間左右反転した準備運動のような動きをした後、同時にニヤッと笑い、剣を両手で構え、やはり自分に向かって突撃してきた。

 真左に居たため、今度は、まともな表情の旅人さんが前足、虚ろな表情の旅人さんは中足に突っ込んできた。

 前足の旅人さんも中足の旅人さんも第一関節を狙っていると思い、再度<爆炎の装甲>(バーニングアーマー)を発動させようかと思った。

 しかし、それはやめて、前羽を思いっきり開く。その時に今度は<暴風の装甲>(ストームアーマー)を前羽だけにかける。

 これもまた先に使った二つと同じ防御魔法と呼ばれる魔法で、荒れ狂うような風を纏いそれで防御する魔法だ。マリーがこの魔法を得意にしていた。なんでも、木を傷つけずに落ち葉とかを吹き飛ばせるから掃除に便利だそうだ。ちなみに、何度もそうやって掃除した! と言った後にマリアに怒られていた。理由は言うまでも無く周りがひどく散らかるからなのだが。

 そんなふうにマリーは使っていたが、実際は対象の周りに竜巻のごとき暴風が吹き荒れる。そんな魔法だ。それを今、自分は前羽だけに限定してはいるが使用して、その状態の羽を二人の旅人さんの上を通過するように動かした。

 結果、二人とも風に煽られ、巻き込まれ、前羽の周りをぐるんぐるんと振り回される。そして、そろそろ良いかな? と、魔法を切る。すると、二人は仲良く真後ろに飛んで行った。


(流石にこれで懲りただろう。それにしても、どうも話し合う気が無いみたいだし。ソロソロ逃げさせてもらおうかな。一応行き先としては南西にちょっと行けばそこそこの大きさの森があるって……南西ってどっちだ? 太陽がこっちから上がって……いや、ここ地球じゃないんだった)


 そう呑気に方角を確認しようと、持っている知識で方角を割り出そうとしていると、上から降ってくる者に気がつく。


(凄いなぁ、この世界の人間は。あんなもんに巻き込まれてまだ動けるのか。そりゃ、カブトムシもこれだけ強くなるわけだ)


 そう旅人さんである、既に笑みは消えており、二人居たはずなのに一人になっていた。両手で剣を持ち、切っ先を小楯板と前胸の間の関節に向けて落ちてくるのである。

 たしかに、真上に飛ぶのは正解なのかもしれない。基本的に動物にとって、真上と言う物は死角になるはずだ。でもそれは、動物に限る話で、虫、と言うより、自分の前胸には複眼があり、真上も見えているのだ。つまり、死角にはならない。


(といっても、普通カブトムシに複眼が五つもあるなんて思わないか。森の中のも頭に二つあるだけだったしな)


 しかし、これ以上ちょっかいをかけられて、何時までもここに縛り付けられるのは面倒である。というか旅立ちの日を邪魔されてイライラしているのもあるので、何か意趣返しをしたい。


(よし、とりあえずあのキラキラしている剣を壊そう。多分大事な物だろうし。そうすれば、流石に止まってくれるはず)


 そう考え、落ちてくる旅人さんに対して自分は頭角で迎え撃つように、体を反らせ頭角を、落ちてくる剣の切っ先とぶつけた。

 さて、少しイライラしていたので忘れていたのだが、長老樹様曰く、この五本の角は全てがかなり高密度の魔力を纏っているらしい。

 フクロウさん、いや漆黒大梟(ブラックオウル)だったか、それも爪に魔力を纏わせているらしいのだが、それとは比べ物にならないほどの密度だとか。

 更に、その纏わせてある魔力の性質は破壊。そのため、どんなものでも触れたが最後、別にこちらは動いてないにも関わらず、切れたり、潰れたり、割れたり、抉れたりと結果は色々だが、破壊されてしまう。長老樹様は何が楽しいのか、まさに、その角は魔槍にして魔爪じゃな、フォッフォッフォッフォッフォ! 笑えないのぅ! とか言って笑っていた。

 さて、そんな物とぶつかった剣はどうなるのかと言えば、一切の抵抗を感じさせず、派手な破裂音を響かせ、粉々に砕け散ってしまった。当然である。

 そして、剣だけが落ちてきた訳ではない。当然持った人間が居る。つまり、剣を失った旅人さんもそのまま落ちて来ることになる。そう、そのまま(・・・・)だ。


(あっ……)


 気が付いた時にはもう遅く、らんどるふと呼ばれた旅人さんは、まっすぐ剣を砕いた角に落下、そのまま角に突き刺さった。そして、それだけなら良かったのだが、何がどうしたのか貫かれた状態で風船が破裂するように、自分の真上で爆発四散した。


(え……? え? いや、なんでこうなるんだ? 刺さるのは分かる。自分の考えが足りなかった。でも、爆散するとは……と言うか、グロイ……)


 当然、真上で人間が爆散したので、血やら何やらと色々な物が自分の体にかかる。流石にそのままで居るのは嫌だったので<水の膜>(ウォータースキン)を発動し、甲殻全体を洗う。

 これもまた防御魔法の一つである。ただ、先に使った三つとは違い、下級に分類される物なので、防御魔法と言うよりは身を清めるために使われるのが多いそうだ。

 使っているときの感覚が気持ちいいと、マリンダが頻繁にこれを使って身を清めていた。そして、それを見てマリアンヌとサンドラが水遊びをしていると勘違いして乱入し、最終的に泥だらけになっていた。


(よし、取り敢えずは落ちた……落ちたかな? あ、でもこれ人の死体か……こんなふうに処理するのはどうなんだ? いや、仕方ないしどうにもならないだろう。そもそも襲ってきた奴が悪い)


 そうしていると、胸の中心部を光り輝かせた、真紅の騎士が兵士たちの間を抜け、前に出てきて大声で叫び出した。既に、身長と同じ長さはある剣は抜かれており、柄を持ち地面に突き刺している。

 大声が止むと、回りを囲んでいた大きな盾を持った兵士達が少しこちらに近寄り、お互いの間隔をせばめて、ぴったりと合わさった。


(これは……本来は、こういう風に構える盾だったんだろうか?)


 先ほどまで、スカスカだった隊列はぴったりと合わさっている。大きな盾は、左右の形がジグソーパズルがあわさるようにぴったりと合い、もはや壁のようである。

 その外側には、ハイエルフの街でも見たような装備の人、多分魔術師や弓師の人だろう、が居た。そして、目の前には巨大な剣を構えた真紅の騎士がいる。


(あちゃー、これはもう色々間違えたなぁ、やっぱりこの見た目じゃ話はしてくれないか……どこか、というか何か、確実に人と会話できるものが無いと、もうどうにもならないなぁ。ここをのりきったらどうしようか? 違う森に行く。なんて漠然とした考えだったけど、そもそも人になる方法の前に、人とコミュニケーションをとる手段を探さないといけないのか……早くもサンドラ達が恋しくなってきた)


 少しの後悔をしながら悩んでいると、大声を出していた真紅の騎士が爆発した。いや、爆発したように見えただけである。

 全身から炎を吹き出し、構える剣に炎を纏わせ、これまさに炎の騎士、という見た目になってこちらに突撃してきた。


(すごい! かっこいい! でもあれ熱くないのかな? 普通に考えて、死にそうな物だけど。自身が撃った魔法でも、術者本人に当たったら危ないんじゃないのかな? ああそうか<爆炎の装甲>(バーニングアーマー)か! でも、それなら剣はなんだろう? 剣を含めて使えるのかなこの魔法は)


 そんなことを考えていると、炎の騎士は角を危険と考えたのか、自分の左横を通り、旅人さんと同じく前足を狙って剣を振り下ろした。

 関節を狙った一撃ではないし、見た目に派手なだけで脅威は感じなかったので自分はそのまま受ける。結果、重く鈍い音を響かせながら剣は弾かれた。

 しかし、炎の騎士は器用に反動を殺し、更には利用し、今度は振り上げる様に、下から地面を抉りながら前足に打ちつけてきた。だが、それも関節を狙った物では無かったので、再度自分はそのまま受ける。当然のように鈍い音と供に弾かれる。

 だが、今度はその反動の勢いにのり、回転の勢いのまま前方に飛んだ。そして今度は、自分の腹部の下に潜り込んできた。直後、爪で肌を軽く引っかかれるような痛みを関節部に感じる。


「カッカチッカチッカチッギュイギュイギュイ」


(痛ぇっ! なんだよもう! 友好的に接しよう、と思って手加減してたけど、もうやめだ!)


 冷静に考えて、これだけ殺意満載で攻撃されているのだから逃げるか全滅させるかの二択である。覚悟を決めた自分の前には、いつの間にやら自分の下から出てきていた炎の騎士が再度剣を構えて立って居た。

 そして、何か大声で炎の騎士が言った瞬間、壁の一部が開かれた。すると、そこから重そうな鎧を着た兵士達が、ハンマーやスレッジハンマー、棘付き鉄球、メイス、鉄の塊のような棒、と言った思いつく限りの打撃武器を持って突入して来て、炎の騎士を先頭に自分に向かって走り込んできた。

 かなりの人数だ。もしかするとあの人数に叩かれれば、タダでは済まないかもしれない。だが、関係はなかった。


(さて、手加減しないとは思ったけれど、やっぱりお尋ね者にはなりたくないから、死ぬかどうか微妙な程度の魔法で行くか)


 まずは小手調べ。そう考え<閃光の槍>ライトニングジャベリンを放つ。五本の角から放たれた閃光の内、四本は最初に前方の壁となっている兵士と、今しがた突入してきた兵士をすべて巻き込み吹き飛ばす。兵士達はそれで気絶することは無かったのか、転がった先でうめき声をあげている。

 残った一本は炎の騎士に当てた。しかし、炎の騎士は吹き飛ばされることも無くその場に留まるだけに済んだ。しかし、衝撃で動けないのか、剣をだらりと地面に垂らしながらその場に中腰でたたずんでいる。


(全員これで気絶せずに耐えるなら、もう少し強めにやらないとなのか?)


 そして、吹き飛んだ者も、炎の騎士もまだ死んでいないどころかまだ意識が有るのを確認したので、前羽を開き飛行魔法で空に飛び上がり仕上げに移る事にする。

 炎の騎士を中心に<濁流の渦>(メイルシュトローム)と言う攻撃魔法を発動させる。どこから発生したのか分からない大量の水が一気に噴出し、盾を構えて陣を構成していた兵士たちの膝下まで広がる。そして次の瞬間、囲いもないのに一気に水位を上げ、同時に恐ろしい勢いで渦を巻き始める。


(念には念を入れて)


 更に、その渦に向かって再度<閃光の槍>ライトニングジャベリンを打ち込む。<濁流の渦>(メイルシュトローム)<閃光の槍>ライトニングジャベリンとは違う属性の魔法である。

 その結果反発しあうのだが、使用する際に発せられる魔力量では<濁流の渦>(メイルシュトローム)の方が大きい。その結果渦の内側に<閃光の槍>ライトニングジャベリンを乱反射するかのような形になり、帯電する泥水の渦となる。


(うーん……やりすぎたかもしれない)


 冷静に考えれば、仮に意識が残っていたとして、鎧を付けているのだから浮いてこれる訳がないのに気が付き、少し焦りながら、<濁流の渦>(メイルシュトローム)を解除しつつ範囲外の地面に着陸する。出現したとき同様、最初からなかったように大量の水が消える。残されるのは、一塊になった泥だらけの堆積する人の山である。


(これが本当の二葬式洗濯機ってな。いや、調子に乗ってる場合じゃない。絶対自分、隔離指定害種? まぁお尋ね者とかそんな扱いされるよなぁ……どうしようかなぁ? 取り敢えずこの国? から脱出か)


 と調子に乗りつつ、悩みながら飛ぼうとすると、後ろから視線を感じる。


(まだかー、無視してもいいんだろうけど、ここまできたら、全部どうにかしとかないと後が怖い。やってやろうじゃないか、かかってきな!)


 変な方向へと振り切った感情のまま振り返ると、そこには兵士に囲まれた場違いな美女がいた。

 太陽が反射して輝く長い髪は金色で、紐で縛っており、ポニーテールのようになっている。

 瞳の色は深い青色で、全てを見透かすように清んでおり、それだけならば怖い印象を与えるのだろうが、目の形が少したれ目気味のおかげか、優し気に見える。

 鼻筋は通っており、全体的に顔のつくりは良く整っており、目つきとあわせて町で評判のお姉さん、と言ったふうだ。

 肌の色は、健康的な日焼けなのか、それとも元々そういう色なのか分からないが、濃い褐色である。シミやソバカスといった物も見当たらないので、まるでチョコレートのようである。

 身長はそこまで高くないようで、隣にいる兵士と比べても頭一つ分ほど小さいようだ。それに対して手足は長く、更には胸や臀部には十分に肉がついており、目のやり場に困るような体系をしている。

 なぜここまで細かく体系について分かるかと言えば、着ている服はなんだか踊り子のような物で、体のラインがよくわかる。というか、ほぼ半裸なためだ。

 よく見れば腰布のようなサイドしかないスカート? の近くには香炉でいいのだろうか? 穴の開いた小さな壺のような物を下げている。


(何度目か分からないけど……え?)


 そんな、まさにボンキュッボンな褐色の踊り子。そんな美女が目の前に居た。

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