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もう直ぐ季節は初夏を迎えます。



去年は、ここにラルがいて、ルミーアもいましたのに。

今は私だけです。

ですが、2人とは頻繁に電話で喋っているので近況は知ってます。

それが最近の楽しみなんですもの。


ラルは城でジル小父様の補佐をしつつ舞武の練習に励んでいます。

その内に舞台で舞う日も近いのではないでしょうか?

その時には衣装をプレゼントしようとルミーアと話しています。

舞台映えのする素晴らしい衣装をです。

そんな話をしている私とルミーアは、どちらがファン1号かを巡ってほんの少し揉めています。

その事はラルの知るところとなって呆れられてますが、しょうがないのです。

なぜならば、ラルの舞いはウットリするほどに色気があって惹き付けられるのですから。

それは見ている者にズンと伝わるんです、きっとネルソン先輩の存在があるからですね。

あ、ファン1号はネルソン先輩に差し上げないといけないかも。




ルミーアは城で殿下と暮らし始めました。

王太后様の後を継ぐことになりその屋敷に暮らしていたのですが、やはり殿下の我慢が限界になったようです。

殿下はいきなりに「今日から一緒に暮らす」と宣言なさりましたが、それはやはり難しく1週間ほどの日を経てルミーアは城に入りました。

私はルミーアにお願いされて一緒に城へと向いました。

心細かったのでしょうね。


ところがです。

この件に関しては、何故でしょう、ヴァンさんが厳しい顔をしておりました。

不思議でルミーアに尋ねた所、「まあね、ちょっとあるの」と話を濁されました。

それを敢えて教えて欲しいと願いましたが、「まだ言えないわ。彼女の事もあるし…」なんて言われてしまいました。


彼女って、なんでしょう?

彼女です…。

ショックで、…、いえ、いいえ、ショックなんかではありません。

そんなことないんです。


ヴァンさんだってこの国の貴族です。

女性を娶り子をなす、それが務めですから当たり前のことですもの。

私が、私がとやかく言える事ではないんです。

私達はただの友人のですから。





話を戻します。


ルミーアが城に入って、あの殿下が人間として他人にお優しくなったと、周りの者達は喜んでおります。

ですが、問題が無くなった訳ではないのです。

お兄様からの情報によると、ゼファクトの姫君が痺れを切らせてに乗り込んでくる可能性が高いとのこと。

忘れていた訳ではありませんが、ルミーアは殿下と城での暮らしを始めてから、陛下との関係も良好でありますし、周りの評判も良いのでこのままルミーアが殿下の妃になるという様な雰囲気になっていたものですから。

今頃になって、という感じは拭えません。


あ、やはり忘れていたのかも知れませんね。




そして私です。

私は、ミリ義姉様やラルの紹介で何人かの殿方と出会いました。

それぞれに良い方です。

私の事を思って探して下さったのです、それは当然の事なのかも知れませんね。

今は2人の方と時々お食事をしたりしてます。


ボニフォロ様はミリ義姉様の紹介です。

ダンスや詩にお詳しくて話が尽きることがない方です。

すでに王立博物館に勤務なさっていらして、新しく収集された絵画などについて熱心に話して下さいます。

その知識が深さに感心するばかりで楽しい時間を過ごせる男性だと思っています。


そして、ピエルフォ様。

こちらはラルの紹介です。

ジルバートさんの強い推薦だとか…。

もちろん国軍に所属する中将でいらして、ご家系が軍人なんだそうです。

余り口数が多い方ではないのですが、どうやら、それは私の前だけのようですが優しい方です。

あ、ビエルフォ様はプレゼント騒ぎの時に最後までお付き合い下さったのです。

信頼のおける方だとお兄様も言っておりました。



ケンフリットの授業は1年が一番多く大変なのですが、2年にもなると専門性が強くなる為に授業の回数も減ります。

なので、お2人にお会いするのも王都でとなってます。

本日はボニフォロ様とお昼に軽い食事をして別れた後、プリティプリティに向いました。

久々に会いたくなったのです、ケイト姉様に。


姉様の店は相変わらず可愛いモノが沢山あって、心が少しずつ軽くなってきます。


「マドレーヌ!」

「ケイト姉様!」

「暫く振りね?なんだろう、綺麗になったんじゃない?」

「そうですか?変わってませんわ」

「そう?まぁいいわ。それよりもせっかく来てくれたんだから、お茶でも飲んでいって?今度新しく売り出すい予定の茶葉があるの」

「まぁ、ぜひ」

「なら、」


そう言って店の奥にある応接室に入りました。

暫くして運ばれたお茶はフレイバーの香りが爽やかです。


「これはね、オレンジのお茶よ」

「香りが素晴らしいです」


口に含むとオレンジの甘く優しい香りが広がります。


「これにね、ショコラを合わせるの」


それは、最高の組み合わせでした。


「口の中で溶けていくショコラがオレンジの香りに包まれています」

「でしょ?」


暫くは言葉も少なくだたその香りを楽しみました。

他愛の無いお喋りが続いた後、ケイト姉様が私を見詰めました。

何かを感じ取ってくれたのでしょうか…。


「で、何があったの?」

「え?」


私は言葉に詰まります。


「別に、なにも」


直球な言葉に私は何も言えませんでした。


「そう?なら良いんだけどね。そうそう、ミリタスとオルタンス様の挙式は来週ね?」

「はい!もう家は大変なことになっております」

「でしょね。私の店からも大量に商品を納めたもの」


そうなのです。

本宅にこれから住むミリタス義姉様の好みに色々な装飾が変えられていきました。

ミリタス義姉様のセンスは素晴らしく本宅が明るくなった気がします。

それはケイト姉様と相談して決めたって聞きました。

その他にも式に来られた方々にお配りするものまでです。


「屋敷も随分明るくなった気がします」

「そうよね、ミリタスの選ぶものには間違いがないわ」

「そう思います!」

「本当よね、あ、そう言えば、挙式のパーティではデザートを楽しみにして欲しいって聞かされたわ」

「そうなのですか?」

「そうなの、なんでもルミーアとヴァンさんが強く勧める女性の作るデザートなんだそうよ」

「ヴァンさんが、勧める女性?」


思い出してしまいました。

ルミーアが言ってた彼女なのでしょうか?

ヴァンさんが厳しい顔になるくらいの彼女…。


「ええ、そうよ」


きっと、大切な人なのですよね。


「マドレーヌ、どうかした?」

「いえ、その方って、どんな方なのかしらって思ったんです」

「そうね、楽しみね?」

「ええ、」


チクンってしました。

ちょっと下を向いてしまいます。


「そういえば、マドレーヌはどちらの方にしたの?」


急に話が変わって戸惑います。


「どちらとは?」

「今、お2人の男性とお食事してるのでしょう?」

「まぁ、はい、そうです」

「どちらも素敵な男性だって聞いてるわ」

「確かにそうです」


そのまま言葉に詰まります。


「気乗りしてないみたいね?」

「そうでもないですわ。お話も楽しいですし…」

「でも、ちょっと気を持たせすぎじゃない?」


2ヶ月程この状態が続いてますから。

確かに長いのかも知れません。


「そろそろ結論を出す時期に来ていると思うけど?」


その通りなのでしょうね。


「そうですね…」

「マドレーヌ?」

「はい?」

「なんだろう、歯切れが悪いわ」

「そんなこと!」

「まぁいいわ」


そしてケイト姉様が核心を突いて来ました。


「貴女、もしかして好きな男性がいるんじゃない?」

「え!い、いません!」


完全に否定します。

だって、相手にされてないんですから。


「そう?」

「そうです!」


なんだか、惨めです。

だって、…。

だって、分かっているからです。



いいんです、もう。





ヴァンさんは私の事など、嫌いなんですもの。






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