表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/102

83

私が一瞬言葉を止めていた時。


「戻りました」


タリが帰ってきた。

2人は嬉しそうにタリの元に走って行く。


「タリねーちゃん!」

「おかえりなさい!」


妹達の声に少しだけタリの顔が優しくなる。

そして抱きついてる2人を優しく見て言う。


「大人しくしてたの?ルミーア様を困らせたりしてなかった?」

「うん!」

「大丈夫だよ?あのね、ルミーア様にね、蜜のパンを差し上げたの」

「ルリ、そのようなものを!」

「ご、ごめんさい…」


私は慌ててルリを庇った。


「いいの!美味しかったから、私は嬉しかったの。だから、ルリを怒らないでね?」

「…、はぁ」


ため息をついた後に、ゆっくりと私を見る。


「ルミーア様、そろそろ御戻り頂いても大丈夫になりました」

「わかったわ、けど…」

「はい?」

「もっと居たいの、駄目かしら?」

「それは…、」


妹達の瞳がキラキラしてる。

一緒にいたいって思ってくれてるんだ、嬉しい。


「ねーちゃん、ルミーアさまといたい!」

「いい?」

「駄目よ」

「「えー!」」

「まだ良いでしょう?」

「ルミーア様まで…、いけません」

「駄目かしら?」

「ルミーア様、殿下がご心配なさってます。王太后様もお帰りをお待ちです」


そうだった、心配症な2人だった。


「そうね、…。なら、また伺うからね?ルリ、マリ?待っててくれる?」

「「はい!」」


不本意ながら、私は癒しから遠ざかってしまった。







タリの家の前に自動車が用意されている。

私はタリも一緒に乗るように促した。

彼女は少しためらったけど、警護だから乗ってくれた。


自動車が動き出す。


「ねぇ、タリ?」

「はい、なんでしょうか?」

「妹さん達、可愛いわね?」

「ありがとうございます」

「今度伺う時にね、プレゼントを持って行く約束したの」

「あの子達!」

「お願い、怒らないでね?」

「いけません、」

「いいじゃない、私が渡したいんだから」

「けれど、ルミーア様。その様に甘やかすとあの子達の為になりませんから」

「いいの、ね?許してくれる?」

「貴女様は、どうして、どうして…」


どうしたんだろう、タリは泣きそうだ。


「タリ?」

「すみません、大丈夫ですから」

「そう?」


私は話を進めた。


「私ね、何も知らないで殿下の側にいるでしょう?だからヴァンがね、色々と教えてくれるの。特に付き合うのは止めた方が良い方の事とかね、だから、知ってるの。ゲイリー宰相がどんな人かって」

「ルミーア様?」


タリの顔が青くなった。


「私の護衛になるまでゲイリー宰相のお屋敷に居たんですって?」

「どうして、それを!」

「ルリが教えてくれたわ」

「ああ、…」


唇をかみ締めて、視線を逸らす。


「申し訳ありません…、ずっと、黙っておりました」

「いいの、けれど、随分と辛かったんじゃない?」

「え?」


タリは顔を上げて私を見てくれた。

でもその瞳は怖がるような瞳だった。


「だって、ヴァンの話じゃベルーガの貴族の中でも1番のケチだって言ってたわ」

「ケチ、ですか?」

「そう、ケチ。特に使用人には餌を与えないタイプだって」

「そんなことまで…」

「ヴァンって変わっているしょう?」


本当にヴァンの情報って面白い。

まるで物語を語るように色々な情報を教えてくれるから、私の頭にも入っていく。

助かる。

それにちょっと捻くれているけど、本当は寂しがりやで人といたいタイプだってことも分かってきた。


「ヴァンはとっても皮肉屋なのに人情に厚いもの。ちょっと複雑よね?」

「あ、確かに」


タリは笑いを堪えてる。


「とっても殿下の事を慕ってる。だって自分で影だって言うんだものね。だから彼は殿下の為になら自らの体を差し出せるの。それがね、ちょっと羨ましいのね、私」

「それは、私も同じです!」


大きな声、ビックリする。


「え?」

「ルミーア様の為でしたら、私など、」

「タリ?」


私は思わずタリの手を握った。

私を見るタリの目は真剣だった。


「申し訳ありませんでした!本当ならば真っ先にルミーア様にお伝えしなければならないのに、私は言えなくて…。ヴァン様に相談したら、それならルミーア様に内緒で事を進めようと言ってくれましたので、つい、…、何も言わないままで来てしまいました。でも、何事もなく全ては終わりましたから!」


ああ、本当に私には何も知らされてないんだ。


「終わるって?」

「はい、ゲイリー宰相とその妻はデーバの搭に」

「デーバの搭って、牢獄じゃない?どうして?」

「どうしてって?」

「タリ、そんなに酷い目に遭わされてたの?あの子達も?あの屋敷でどんな酷い目に?」


私は知らなかった自分を後悔した。

あんなに幼い2人がそうな辛い目にだなんて…。

デーバの搭に収監されるくらいに残虐な人間の屋敷にいたなんて!

けど、「ルミーア様?」とタリは不思議そうな顔をした。


「え?」

「もしかして、ですが、ルミーア様は私達姉妹の心配を?」


それ以外に何を?


「そうよ?だって、ゲイリー宰相はケチですもの。そんなケチな屋敷にいたら無理やりに働かせられるでしょ?辛かったわよね、だけど、もう大丈夫だから。ずっと私の警護でいてね?」

「ルミーア様…、」

「お願いよ?」

「もちろんです、私こそ、お願い致します」

「うん!、あ、いけない、子供っぽい言い方しちゃった…」

「大丈夫です、私しか聞いてません」

「そうね、フフフ」

「ハハハ…」


笑っちゃう。

けど、それでいい気がするもの。


「ルミーア様、」


タリは真剣に言葉を出した。


「私は貴女様を騙しておりました」

「騙す?意味が分からないわ?」

「申し訳ありませんでした。実は私はゲイリー家に言われるがままに、貴女様と殿下に危害を加える為に護衛になったのです」

「…、」

「ゲイリー宰相の考えた通り貴女様を誘拐し、それを餌に殿下を誘き寄せ、お2人ともに危害を加える計画でした」


「そう…」ってしか言えなかった。

だって、そんなこと想像もしてなったんだから。

って、今日って、そんなに大変なことが起きてたんだね。

そっか…。


「けれど、私を信頼して下さる貴女様を騙すことは、そんな事は私には出来ませんでした。なのに真実を述べれば、きっと貴女様に嫌われてしまう…、だから、言えませんでした」


言葉を搾り出すように吐き出すタリを目の前にすると、なんだか、いいやって思えてくる。

そう、もういいや。

終ったって言うんだしね。


「けど、タリ?」

「なんでしょう?」

「今日、何が起こってたのかは私は知らないわ。けど、それはタリ1人では出来なかったんでしょう?」

「もちろんです。ヴァン様が陛下や殿下、それにオルタンス様親子にお引き合わせ下さって、…」

「それって、そこにいた皆が私に知らせない方が良いって判断したのよね?」

「…、はい」


なんだかな…。

皆が私に知らせない方が良いって思うなんて、私頼りないんだね。

まぁ、そうよね…、幼い頃にシャルと一緒にいただけの娘で、その想いだけでネルダーから出てきたんだもの。

相応しくない、のかもしれないな。

そんなこと考えるなってシャルに怒られそうだけど。


「なら、それでいいわ」

「いいのですか?」

「ええ、だって、皆がそう判断したんだもの。でもそれは、そうね、私が頼りないからね、きっと」


そんな私をタリが叱咤してくれた。


「そんなこと、ありません!」

「え?」

「そんな事、言わないで下さい!だって、私達は、事実を知ったら、ルミーア様が悲しむって思ったんです」

「私が悲しむ?」

「はい。私が、ルミーア様の護衛が、敵側の人間だったなんて、そんな事を知ったらルミーア様は怒る前に悲しむ方だって、私、知ってますから。ルミーア様、本当なら私を非難なさっても良いんですよ?いえ、非難なさるべきなんです!私など護衛に相応しくないと首になさっても良いんです!」


タリは想いをぶつけてくれた。

それが嬉しかった。


「タリ、それは出来ないわ」

「どうしてですか?」

「さっきから言ってるでしょう?タリ、ずっと私の護衛でいてねって」

「そう、でした」

「約束よ?」

「はい、」

「お願いしたからね?」

「はい…」


タリは下向いてしまう。

少しだけ涙を流してたみたい。

タリの方を見るのは止めて私は窓の風景を見ていたから、察するだけしか出来なかった。





馬車を降りるころにはいつもタリに戻っていた。





お婆様の屋敷にはシャルが待って居てくれた。


「ミア!」


力一杯に抱きしめられて、息が出来ない…。


「く、くるしい、よ…」

「いいから、」

「よく、ない、シャル!」


緩くなったと思ったら、キスされる。

いきなり、濃厚で、ああ、もう…。


「心配いらないからな?俺がいるからな?」

「うん、」

「良かった、安心した。ミア、愛してるよ?」

「シャル?」

「なんだ?」

「ありがとう」

「え?」

「嬉しいの、愛してくれるから」

「なんだ??」

「いいの、私も愛してる」


私からキスをする。

とっても愛してるから。




そう、やっぱり愛してるもの。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ