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癒されてます。
だって、本当に、可愛いの。
「ルミーアさまは、いいにおいがするね?」
「そうかしら?」
「うん!そう!」
私の目の前には、タリの妹たちがいる。
そして可愛い声で一生懸命に話してくれてる。
「だって、タリねーちゃんみたいにあせくさくないよ?」
すぐにルリはマリを叱った。
「マリ、ねーちゃんは私たちのために、働いているのよ!」
「しってるもん、でも、…」
「マリったら、…、ごめんなさい、ルミーア様」
「あら、どうしたの?」
「だって、マリが…」と上の妹がこの状況になっていることを謝るんだ。
マリと呼ばれた末の妹は私にくっついて離れない。
さすがに膝の上に乗るって事はないけど、隣に座ってる。
まだ9歳の彼女は子供特有の熱さを持って私にくっついている。
けれども、決して不愉快にはなれないのです。
だって、可愛いの!
タリと同じ明るい茶色の髪にクリンとした薄い青の瞳。
とっても可愛いの。
それでも、ルリが心配してくれる。
「ルミーアさま、熱くないですか?」
「大丈夫よ、マリは可愛いから隣にいてくれて嬉しいの」
「マリね、マリもね、ルミーアさまがだいすき!」
「嬉しいわ!」
私も一緒になって喜ぶ。
ギュって抱きつくの。
そしたらマリも抱きついてくれた、妹って可愛いんだ、きっと。
私に抱きしめられて満足したマリはルリに聞いてくる。
「ルリねーちゃんは?ルリねーちゃんもルミーアさま、すき?」
「もちろん、だよ…」
子供らしい感情をぶつけてくるマリとは違ってルリは控え目でしっかりしている。
タリが20歳でルリは13歳、一番下のマリは9歳。
年が離れているとは聞いていたけど、タリは本当に妹たちの親代わりなんだな、って思う。
そしてルリがしっかりしてるのは、タリがちゃんと2人の面倒を見ているからだ。
間違いない。
「ルリは頼もしいわね?」
「私がですか?」
「そうよ、13歳なのにちゃんとタリの留守を守っているもの」
ルリの頬が赤くなった。
照れてる、間違いなく誠実なんだね。
「あ、ありがとうございます」
ルリも可愛い。
「ねぇ、ルリ?」
「はい!」
「色鉛筆とノートは気に入ってくれた?」
「はい!それも、ありがとうございました!」
「ルリねーちゃんはね、たくさん絵をかいたからね、ノートなくなったんだよ!」
「マリ!」
ルリはマリの頭をコツンと叩いた。
叩かれた頭を両手で抱えてマリは泣き出す。
「いたーいー!えーん!ルミーアさま、ルリねーちゃんがぶった!」
「マリ!もう、ルミーアさまから、離れなさい!」
「やだ!」
「だめ!」
「ばか!」
「馬鹿は、マリ!」
あああ、喧嘩だ、始まってしまったわ。
そう言えば、兄弟喧嘩、私もたまにしたなぁ。
まぁ、ケイト姉様ともダニエル兄様とも年が離れていたからそんなに回数はなかったけどね。
でも喧嘩した時は、こんなだった。
懐かしいな。
けど、そろそろ仲介しないと、ね。
「ねぇ?」
私の声に、2人の手と口が止まった。
「「?」」
「今日は急に来てしまったから、ね、今度伺う時にはプレゼントを持って伺うわ」
「ほんと?」
「ええ、ルリは何がいい?
「あ、あの、ノートが、いいです…」
私はルリの手を握った。
「はい、わかりました」
「はい!」
「ルミーアさま、わたしには?」
「マリは何がいいのかしら?」
「うーんと、ぬいぐるみがいい」
「クマさん?」
「うさぎさん!」
可愛いなぁ。
「わかりました、ルリにはノート、マリにはうさぎさん。ちゃんと覚えました」
「はい!」
「ありがとうございます」
それからも私は2人と話を続けた。
だって、タリが帰ってくるまで絶対に外に出たら駄目なんだもの。
何かが起こっているのに、知らされてない。
もう夕方を過ぎた。
なんか、お腹がすいてきた。
それを見透かした様にルリが聞いてくる。
「ルミーア様、お腹すきませんか?」
「少しね、でも、大丈夫よ?」
「パンでよければ、あります」
「ねーちゃん、蜜のパン?」
「そうよ」
「わーい!」
蜜のパン?
なんて美味しそうなんだろう…。
けど、いいのかしら?
だって、きっと3人で生活するので大変なんだと思う。
見渡しただけでわかるもの。
「ルリ、私は大丈夫、本当よ?」
「ルミーア様、遠慮するほどのものではないので、心配しないでください。じゃ、待っててください!」
ルリは少し席を外す。
「あのね、おいしいんだよ?」
「そうなの?」
「うん、ルリねーちゃんのごはんはおいしいの」
「楽しみね?」
「うん!」
薄青の瞳がキラキラしてる。
「お待たせしました」
お盆の上には一口に切られたパンが盛られた皿が2皿乗っていた。
そのパンはまったく普通にまえるんだけどおそらく温かいんだ、だって湯気が出てるもの。
うん?いい匂いがする、とっても美味しそうな匂い。
甘くてちょっと柑橘の香りがする。
嬉しそうな声がする。
「みつのパンだ!」
「みつ?」
「そうだよ!あまくて、あったかくて、やわらかいの!」
「それは美味しそうね?」
「そうなの!」
「けど、そんなに立派なものじゃないので、ルミーア様のお口に合うか…、不味かったら食べなくてもいいので…」
そう言いながらルリは私にお皿を渡してくれた。
「ありがとう、」
私添えられたスプーンで頂くことにする。
パンにスプーンを入れると、すんなりと入っていく。
その位に柔らかだ、例えるならプリンかな?
そっとすくって口に入れた。
「わぁ!美味しい!」
私の声にルリの顔が明るくなる。
「本当ですか?」
「ええ、なんだか懐かしいわ。優しい甘さが…甘さがくどくなくて美味しい」
「実は、家の側に蜂蜜を作っている家があって、お手伝いすると少しだけ蜜を分けてくれるんです」
「そうなの?」
「はい、一度に使うと無くなってしまうので、水で薄めて、その家になってるユズが落ちているのを分けてもらって、少しいれて、それをパンに浸して温めてみたんです」
「手が込んでいるのね?」
「少しでも美味しく食べようって、おもって…」
これは完全にスイーツだ。
本当に美味しい。
ナターシャに食べてもらいたいな、きっと、驚くに違いない。
そういえば料理には閃きが必要だってナターシャが言っていた、きっとルリは閃きを持っているに違いないわ。
「ルリは料理が好きなの?」
「はい!好きです。だってマリが美味しそうに食べてくれるんです」
「だって、おいしいんだもの!あのね、ルリねーちゃんはね、ここにきてからおいしいもの、たくさん作ってくれるの!前いたお屋敷じゃね、そんなことできなかったんだ」
「前のお屋敷?」
「うん、貴族さまのおやしきにいたの。けど、あそこ、いやだったんだ。冷たいパンと水だけしか出なかったし、ソウジばかりさせられて、今みたいにねーちゃんと遊ぶじかんも、なかったもん」
マリは頬をプンプンにして怒ってる。
けど、貴族の屋敷に奉公してたなんて、タリからは聞いてないなぁ。
「貴族のお屋敷にいたの?」
「はい、前は3人で大きな屋敷に住み込んで雑用をしてました」
「マリもなの?」
「うん、ゾウキンでゆかをふいたり、にわをはいたりしたの」
「そう…」
「ちょっと大変でしたけど、それは皆同じなので大丈夫でした。けど、今は塾にも行けるようになったので、幸せです!」
ここでは子供が必ず教育を受けられる訳じゃない。
だから、通うことが出来る様になった子供は、取り敢えず塾で学ぶ。
そして学力を確認されてから、相応の学年に振り分けられて学校に行く。
「良かった…」
私とタリが出会ったことで、タリの家族は少しは楽になれたのかしら?
幸せになってくれたのならいいんだけどな。
ところで、なんていうお屋敷にいたのかしら?
「前のお屋敷って、どなたなの?」
「ゲイリー様です」
「そう…」
ゲイリーって、あれ?
タリ?




