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終わりました。

タリから知らされた奴らの計画は未然に防ぐことが出来ました。



ですが!ですが、ですよ!



本当に馬鹿馬鹿しい結末でした。

アイツ等は何をしたかったんでしょうか?



事の発端はルミーア様の護衛であるタリの告白です。

当初の彼女の告白は衝撃を持って私達を慌てさせたのです。

あの亡き王妃の亡霊かと、です。


ですが、まったくの買い被り過ぎでした。


陛下を振り回した女性は既に亡くなったおり、また、その彼女を王妃に仕立て上げ自ら影のように自分の都合のいいように物事を押し進めた公爵も亡くなっております。

そうだったのです。

物事を強引に推し進めたりまたは俯瞰して計画を立てられるような人物は、あの一族にはすでに存在しておりません。

それが真実でしたのです。

今回、ルミーア様を誘拐し殿下を誘き寄せて2人とも殺害するとの計画を、ゲイリー宰相の妻であるヒルダが考えたとされていました。

ですが、何処までの計画がなされているのか、どの程度の規模なのか、そのことすら分らないままの始まりでした。

ですので、私とエドマイア様とで慎重に探りを入れ情報を分析いたしました。



そして判明した事実は、この1件は計画すらマトモに立てられていない、でした。



まぁ、ゲイリー家は王妃のコネで伸し上がってきた家柄。

言われたことはやるけど、それ以上のことは出来ない当主です。

元々からよくもまぁ宰相が務まったものだと噂が流れてましたね。

その妻ヒルダに到っては昼から屋敷の使用人をとっかえひっかえ寝室に引っ張りこんで励むという色魔。

持っている雰囲気は父親を彷彿させたのですが、ただそれだけの女性でした。



ルミーア様がお1人で移動する時を狙ってタリがルミーア様を誘拐をする、その後の監禁先はタリに任せるとのこと。

ありえません。

タリを信頼しているのでしょうか?

いいえ、きっと違うのでしょう。

使用人ごときが自分を裏切る筈が無いと信じっているのでしょう。

それでもタリにはしつこく監禁先を確認したとの事ですが、そのようなものはシラを切れば良いだけのことです。

タリにはうまく演技をしてくれる様に頼みました。


「見破られませんでしょうか?」

「大丈夫です、貴女なら心配いりません」

「頑張ります」


いくら間抜けな奴らだとしても慎重になるのは良いことです。


「しかしながらルミーア様を何処へお連れすれば良いのでしょうか?」

「それは、そうですね…」


監禁先としてはタリの住まいを提供して頂きましょう。


「そ、そんな!私の家など、台所と1間しかありません。妹達と3人で眠ればそれで一杯ですのに?」

「仕方ありません、ルミーア様にはしばらく我慢していただきましょう」

「それに、妹達がご迷惑をお掛けしないかと心配です」

「そこは大丈夫ですよ、タリ。あの方はその状況すら楽しみますよ、きっと」

「そう、かもしれませんね」


そして、無事にルミーア様を監禁し、…。

変な話ですね、でも、そうなるのです。

幼い2人の妹さん達が監視してくれる訳です。


その後、ゲイリー家にタリが経過を報告して、そこからやっと彼らの仕事になったのです。

直ぐに殿下の元に手紙が届けられました。


≪ルミーア・ランファイネルを預かっている。彼女の命が惜しくばお前独りで来い≫


直球です。

ですが、これで充分です。

筆跡がゲイリー家の侍従のモノと判明したからです。


私達は指定された場所に向いました。

まず殿下がお一人で奴らの前に姿を見せます。

なにも気付いていなかった宰相が、大勢の部下を連れて、のこのこと出てきました。

一通りの粋がった言葉を殿下にぶつけた後に、合図によって現れた私達を見て、「卑怯者!」と叫び一斉に部下を私達にけしかけました。

その言葉はそちらを指しているのではないか、と呆れたものです。

当然の乱闘、ですが殿下の配下の方々は意識が違います。

結果はあっけなく終わり、宰相達は捕らえられました。



それにしても、安易な計画です。



殿下とて剣術は鍛えてらっしゃいますから、怯むなどありえません。

それにです、1人で来いなどと、無理な事です。

殿下には警護の人間が付いておりますし、いつもと違う行動をとれば不信がられて城から出ることすら難しくなります。

いったい、宰相として何を見てきたのでしょうかね。


まぁ、それも今日までです。

ゲイリーは宰相を解雇され、爵位も剥奪となります。

夫婦そろってデーバの塔に収監されたのですから当然です。





現場は先程とは違い、静かです。


「おい、ヴァン」


全てが終わり憮然とした殿下が私を呼ばれます。


「今日は婆様の所に行くからな」

「本日はお疲れでしょうが、城での執務が残っております」

「それが、なんだ?ミアの無事をこの目で確認しないと嫌だ」

「はぁ、」

「何と言われようと、俺は婆様の所に行くからな!」


そして殿下の愛馬に飛び乗ると、皆を置いて駆け出してしまいました。

警護の方が慌てて追いかけます。


「ヴァン様!」

「慌てないことです。本日は大目に見ましょう。では、参りましょうか」


私は城へと向かいます。

まぁ、エリザベス様の所であれば安心ですからね。

オルタンス宰相とエドマイア様に急ぎ報告です。

きっと陛下もご心配なさってますから。






後日です。

私は、エドマイア様と慰労を兼ねて食事を致しました。

初めての事です。

今までは何の爵位もありませんでしたから、その様な事はお断りしてきたのですが、いよいよ断ることも出来なくなりました。

しかしながら、気心を知っている方との食事です。

そこは安心しております。


あ、マドレーヌ様はおいでないのですね…。

気にするなど、どうかしてしまいました。

気が緩んだのでしょうね。


男2人でしみじみと言葉が出ていきます。


「私達は亡霊に騙されたのでしょうか?」

「女性の亡霊は男と違って性質が悪いのかもしれないな」

「その意味は、男と女、どちらが苦い思いを忘れられないか、でしょうか?」

「まぁ、そういう事です」


そう言い終わってから、エドマイア様はため息を付いて言葉を続けました。


「いや、やはり違うな、男女の区別ではないのでしょう。亡くなられた王妃はあの様な愛し方しか出来なかったお方。だとすれば、やりきれない気持ちを残された者達の中に植え込んで逝ったのでしょう」

「なるほど、そうですね。実態の無い思いだけが残った、そうなのかもしれません。あの者達もその様な陽炎みたいな思いなど忘れれば良かったのに」

「けれど、ヴァン殿。それを忘れることが出来るのは、きっと神と呼ばれる存在だけかも知れません」

「そうですね。人間の感情とは不可解で制御不能な時がありますから」


珍しく哲学的な会話が続きました。

エドマイア様は現実的な話に戻されます。


「ですが、どんな理由があるにしろ、あのような計画を許す訳にはいかないですからね」

「エドマイア様の仰るとおりです。まぁ、ルミーア様に気付かれないままで、あの2人を処分できたのですから良かったです」

「まったく」


お酒の酔いが穏やかに回り、少し口が軽くなります。


「しかし、タリも謙虚というか、」

「そうですね、でも、ルミーア様と離れたくないという気持ち、分かるような気がします」

「ヴァン殿もですか?」

「では、エドマイア殿も?」

「そうです、よ。あの素直な表情で、なんの疑いもなく感情を出される姿。段々とこの方の為に動くのなら、と思ってしまってます」

「同じです。今回の事も、こちらサイドはルミーア様には気付かれたくないと動きました。それは皆があの方が悲しむ姿を見たくなかったからでしょうね」

「そうでしょうね、私も見たくなかったですよ」

「その通りです。けれど、今回の働きに対して殿下が城での奉公を、しかも、今まで3倍以上の給金を約束したのに、それをタリは…」

「ルミーア様への恩だけで現状維持を願い出た、なかなか出来る事ではありません」

「私達に頼もしい仲間ができた、そうなりますか?」

「そうですね、タリならば安心してルミーア様を任せられます」


まったくその通りです。

これからルミーア様は表舞台に立たれる事になります。

そのルミーア様を我が身が砕け散ってもお守りすると誓った彼女ならば、やり遂げてくれると信じます。


「しかし、ですね…、」

「はい、」


私達の空気は少しどんよりとします。


「厄介になりそうです」

「その通りです。ですがなんとかしないと」

「全くです」


私達は違う憂鬱についてため息をついてしまうのです。

それはまだまだ先の出来事になるのですが。







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