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「やはり、皆で頂く食事は美味しいですわ」


マドレーヌがシミジミと言う。


「そうですね、私は小父様と一緒ですから寂しくはないのですけど…」

「なに?どうしたの?」

「小父様が五月蝿いんで、困ってます」

「食事の時も、あの調子なの?」

「…、はい」


それは大変だ。

同情しちゃう。


「でも、良い人なので、はい…」

「それはわかるわ」

「私も、わかる」


けど、その方がラルにとっては気が紛れていいんだと思う。




マドレーヌが私の方を見る。

その瞳は、からかいが混ざっている。


「で、ルミーアはどうなのですか?」

「私?」

「そうです、王太后様と暮らすなど望んでも出来ませんからね」


そう、取りあえずの2週間は過ぎてしまった。

だけど、私はまだお婆様と暮らしてる。

気心も知れてきて、これが毎日になっているのに苦にならない。


「そうだよね?でも、楽しいよ?」

「それは良かったです」

「本当です」

「うん、心配してくれて嬉しい。私は良い友人がいるし、お婆様にも優しくして頂いるから、幸せなの」

「殿下も相変わらずでしょうからね?」

「ま、まぁね」

「良かったです」


ラルが思わず口にする。

その言い方がちょっと不思議だったから訊ねた。


「ラル?どうかしたの?」

「ええ、まぁ。ルミーアが幸せだって知ったら、先輩も喜びますから…」


おおお?


「ラル?」

「先輩って、ネルソンのこと?」

「あ、はい…」

「なんで?どうしてネルソンの名前が出るの?」

「そうですわ、不思議ですわ」


少しラルの顔が赤くなった気がした。


「ラル、何かあったの?」

「あったといえば、まぁ」

「まぁって?」

「さぁ…」


マドレーヌと2人首を傾げる。

そして、私達はラルを見るんだ。


「実は、あのですね、その、」

「「うんうん」」

「ネルソン先輩と会ってるんです」

「「会ってる!?」」


私とマドレーヌは出したことがない様な声でシンクロした。

でも、驚くよ。

そうでしょう?

ラルとネルソンが会っているなんて!

聞いてないよ!


「驚かないで下さい」

「驚きます!」

「驚くよ!」


でも、先が聞きたい。

だから促してみる。


「で?」

「先輩は私に会いに来てくれたんです」

「どうして?」

「どの顔で?」

「いや、あの、普通にです」

「普通って、」


マドレーヌが怒りそうになったので、拙いって思って止めに入ることにした。


「ラル、ネルソンは謝ったの?」

「先輩はもう謝ってくれているんです。だから、それ以上の謝罪は要りません。だから、普通に話をしました」

「まぁ!都合のいい!」


マドレーヌのお怒りはごもっともだ。

でもラルは普通に話を続ける。


「エドマイア先輩が先輩に言ってくれたそうです」

「お兄様が?何をでしょうか?」

「あまり何度も謝っても私が喜ばないからって。それよりも私が先を見ようとしているなら、それを手伝った方がいいって言ってくれたそうです」


なるほど…。


「さすが、エドマイア先輩だわ。だってその通りだもの。でしょう、マドレーヌ?」

「まぁ、そうですわね」

「私もそう思うのです」


2人が話している姿が目に浮かぶ。

お似合いだと思うのは私だけかな?


「なので、時々、話を聞いてもらうことにしました」

「そうなのですか?」

「はい、マドレーヌ。だって、ネルソン先輩と話してると楽しいんですもの」

「まぁ!」

「あ、これは…」


そうだ、これは、心にポッと火が付いた感じだ。


「なに、なにですか?ルミーア?」

「マドレーヌ、ぼやぼやしてると…ねぇ、」

「え?」

「ラルに置いてきぼりにされるよ?」

「えええええ!」

「そ、そんなことないです!」

「いやいやいや、」

「も!」

「ないない!」


その内に私達は笑い出してしまった。

だって、こんなに思いっきり喋るのは久し振りだから。


「お腹が痛いよ、」

「もう、私達が揃うといつもです、」

「本当です、」


夜も遅いというのに、私達の話は続いた。




今は違う話をしてる。


「王太后様が?」

「ええ、そうなの」

「お国に、想い人が…」

「昔の話だからって仰っていたけれど、辛い想いをされたんだと思う」


本当ならこの話は誰にも出来ない。

けれど、この2人になら言って大丈夫だから。


「けど、素敵って思ってしまうのは、自分の事じゃないからね」

「そうですね」

「うん…」


ところで、と私はシャルから聞いた話を始める。


「マドレーヌ、今、モテモテなんだって?」

「誰が言ってましたか?」

「え?エドマイア先輩がシャルに言ったみたいだよ?」

「もう、お兄様ったら!」

「いいじゃない、教えて?」

「私も知りたいです、マドレーヌ」

「けど、大した話ではないのです、恥ずかしいくらいの話なのですから」


ちょっと言いよどんだけど、教えてくれた。


「実はアリシア先輩と話しているところを、色んな方に見られてしまいまして、ですね。その時に私が素敵な恋を探していると言ったものですから、お手紙が、沢山…」

「手紙だけじゃないって、聞いた」

「え?あ、ええ、プレゼントなども、」

「プレゼントもですか?」

「…、そうです」

「まぁ、」

「それは…」


ふーとため息。

本当に困っているみたいだ。


「お手紙は、まだ良いのです。けれど、プレゼントには困ってしまって」

「頂いてしまうのは?」

「それは私が好意を持っていると思われてしまいます」

「そうだね…」

「返すしかない、ですね」

「そうなんです。でも、皆様にはプライドがおありみたいで一度渡したのだからと、頑なに受け取って頂けないのです」

「マドレーヌが持っていけば何をされるかわからないですね」

「ええ、中には私が来るのが礼儀だろうと侍従を脅す方もいて…、」


困った話だ。

けれど、急に、「そうです!」とラルが輝いた顔をする。


「屈強な男性が返せば受け取らざるおえませんね?」

「まぁ、そうです」

「小父様にお願いしましょう」

「ジルバートさん?」

「はい、小父様の所には屈強で強い男性が沢山いますから、日替わりでも大丈夫です」

「意外に良い案だって思えてきた」

「そうですわね…」

「そうしましょう!」


ラルが楽しそうに言うから、私達も頷いた。


「練習場に通ってくる男性は紳士な方が多いです。マドレーヌ、安心して下さい」

「はい」


良かった、良い方向に纏まったから安心だ。




そうやって近況報告は進んでいく。

女の子の話しだもの、あちこちに話が飛んでいくんだ。


「で、殿下は会いに来てくださるんですか?」

「時々ね、一緒に夜、食事したり出来てるよ」

「お泊りになられるんでしょう?」


もう!好きなんだから…。

けど、これが女子会の醍醐味だものね。


「そりゃ、もう、ね」

「そうだと思いました。なにしろ、殿下はめっきりお優しくなってしまって。この所、殿下がお優しいから皆が不思議がってます」

「練習場にお出でになる時もです。私を見かけると必ずお声を掛けて下さって、気遣って下さって」

「最近じゃ、ルミーア様ってどなたなの?って聞かれるこも増えました」

「私のこと?」

「そうです。他にルミーアって方はいませんもの」

「そっか、けど、いいのかな…」

「いいんです」

「そうです」


マドレーヌが言ってくれる。


「ルミーア、もっと自信持っていいのですよ?ルミーア以外に殿下のお相手が務まる人物はいないのですから」

「そ、そうだね?」

「そうです、あんな惚気を言い放っているカップルなどは他にいないのですから」

「なんか、あんまりな気がする…」

「その位がちょうどいいのです」

「そうです!」



そう言って笑い合う。

友人っていいな。




私、強くなった気がする。





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