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1人での朝食です。


もう慣れました。

元々、家でも1人での朝食が多かったので馴染んだものです。

けど、…。


3人で一緒の食卓は、楽しくて美味しくて。

懐かしくて、今を味気ないものにしてしまいます。


「マドレーヌ様、お茶をお持ちしましょうか?」


段々と食が進まなくなっていることを、ナターシャは心配してくれてます。

そんなこと心配させて申し訳なくなります。


「ええ、そうして」


決してナターシャの料理が美味しくないのではないのです。

きっとそれをナターシャもわかってくれています。

けれど、この寮は1人には広いんですね。



バタバタと日々が過ぎて行ったのは友がいたからですね。

1人では時間が経つのが遅く感じます。




それでもケンフリットを卒業しようと決めたからには、ちゃんと授業を受ける毎日です。

今日は午前から行われる授業に参ります。


いつもと同じ教室、同じ顔触れ。

変わらないことが安心できると同時に寂しくもあります。


ですが、授業を受けようと教室に入ろうとしている私を待っていたのは、ここでは会う事のない顔見知りの女性でした。


「マドレーヌ?」


1年上の彼女は、少し大人しい口調で話し出します。


「ちょっとお訊ねするんですけど、いいでしょうか?」

「はい、なんでしょうか?」

「あのですね、同じ寮にいらした方は何処に行かれたのですか?」

「同じ寮?」

「はい、いらしたでしょう?」


誰のことでしょうか?


「今は私が1人でおりますから、どなたの事かわかりませんと…」

「それはですね、あの、金髪の方です」


ルミーアです。


「ルミーア様でしょうか?」


私は他人と話すときにはルミーア様という事に決めています。

なぜならルミーアは陛下がお認めになった殿下の妃になる人間ですから。


「そうです、その方です」

「どのようなご用件で、ルミーア様の居所を知りたいのでしょうか?」

「それは、ですね、あの…」

「はい、」

「知りたいから、では駄目でしょうか?」

「むやみにお教えすることは出来ませんわ」

「そこを、曲げて、教えて下さい」


大人しい割には厚かましい態度だと思います。

なので私も厚かましく断ろうと思います。


「では理由をお教え下さいませんか?」


その女性は私の質問には答えずに、キョロキョロとあたりを見渡しました。

誰を探しているのでしょうか?

だいたい、人にモノを訊ねているのにこの態度とは。

お行儀が悪すぎます。

なので、ここで打ち切るのが良いと判断します。


「言えない程度の事でしたら、私も申し上げられません。それでは、授業がありますのでこれで失礼します」


私は女性にこれ以上の言葉を掛けられないように、教室に入りました。

これで諦めてくれればいいのですが。




けれども、これではすみませんでした。




授業が終わって寮に帰ろうと教室を出た時のことです。


「マドレーヌ?」


私を呼び止め、行く手を遮ったのは…。


「アリシア先輩…、どうなされたのですか?」


あの方でした。

お気の強い顔立ちは相変わらず、そうです、私が側室候補であった時から変わっていません。


「貴女に話があるの、付き合ってちょうだい」

「お話ですか?」

「そう」


私にはありません。

なので断ります。


「申し訳ありません、用事がありますので失礼します」


けれど、私が断るなど考えいなかった様子です。

一際デカい声が響きます。


「私は貴女に聞きたいことがあるのよ!時間は取らせないから!」

「いいえ、」

「強情ね、貴女は。じゃ、ここで話すのならいい?」


ここって、廊下ですよ?

かなりの人も行き来してます。

こんな所で、何を話すのでしょうか?


「ここですか?」


私は色々と心配ですから、そう申し上げましたのに。

アリシア先輩には周りが見えていないようです。


「いいじゃない、私は知りたいの。殿下がどうしてあの娘を手放さないのかを、よ?貴女、知ってるんでしょう?教えて?」

「教えるって言われても、困ります。それに、知ってどうするのですか?」

「決まってるわ。私もそうするのよ」

「アリシア先輩が、そうする?」

「だって、私はシャルディ様を誰よりも愛しているのよ?あんな娘より私の方が愛してるの!」


ここに殿下がいたら、氷点下までも下がった冷たい瞳でアリシア先輩を蹴散らすでしょうね。

けれども、私は殿下ではないのでちょっと迷いました。

するとアリシア先輩が話を続けていきます。


「いいから、どんな仕草に殿下が騙されたかを教えて。私が同じことをやれば、殿下はきっと振り向いて下さるもの。だって、ね、私が1番殿下をね、」


本当に呆れます。

そんなに簡単ならば殿下はただの色ボケ王子ではありませんか!

お2人の名誉に掛けて、私はちゃんと話さなければなりません。


「アリシア先輩?」

「なによ?」

「アリシア先輩が殿下を誰よりも愛してるのはわかりました」

「でしょ!なら!」

「ですが、それは殿下のお気持ちに何の関係があるのですか?」

「え?」

「殿下はルミーア様を愛していらっしゃいます。それこそ、誰よりも深く慈しんでいらっしゃいます。殿下のお気持ちは既にルミーア様にある。なのに、アリシア先輩が、声を大きくして私の方がシャルディ殿下を愛していると叫んだところで、殿下のお気持ちは変わりませんよ?」

「そんなの、変わるわ!私が、変えてみせる!」

「人の気持ちを変えるなど…、いいですか、アリシア先輩。あれ程手厳しくシャルディ殿下に拒絶されていても、まったく変わらずに殿下をお求めになっているのは先輩ですよ?先輩のお気持ちの様に、なかなか変われないのが人間だと思いませんか?」

「そ、そんなの…でも、」

「そうでしょう?ならば、シャルディ殿下のお気持ちも変わらないと思いませんか?アリシア先輩ではなく、ルミーア様の元にお心があるのですよ?」


アリシア先輩は唇を噛んだまま足元を見詰めます。

気付いたら立ち止まって話を立ち聞きしてる人が何人かいました。

廊下での話しです、しかも大声での興味深い話…。

聞きたくなるのもわかります、けど、止めて欲しいです。

早く切り上げようと、私は話の先を急ぎます。


「アリシア先輩。私が見てきたことを申してもいいですか?」

「なにかしら?」

「では、申します。ルミーア様はずっと殿下と一緒にお育ちになりました。その頃から互いに同じ気持ちを持っていたのです。ずっとです。それは私達には計り知れない絆の深さなのです。それでもルミーア様はそれを他人にいう事はありません。あの方は殿下の隣いられればそれで、それだけで輝くのです。とても美しく、とてもお優しく。そのお姿に憧れを抱くことはあっても、自分の方が優れているなどと思うことは出来ません。ですから、アリシア先輩?」

「…、だから、なによ?」


私はケイト姉様の真似をして深呼吸してから勢いよく言い出します。


「恋をしましょう!」

「え??、…、恋?」

「誰でも素敵な恋をする権利はあると思うのです。もちろん、アリシア先輩にも、です。どうでしょう、自分だけの素敵な方と恋をした方が人生は楽しいのではないでしょうか?」


アリシア先輩は口を開いています。

目もまん丸です。


「先輩、きっと私の方が先に素敵な方と恋をしますわ。それでは、お先に」


私は膝丈のスカートをフワリとさせて歩き出しました。



少しスッキリとしましたわ!





余談ですが、次の日からいろんな男性から、私宛のお手紙が届くようになりました…。

面倒臭いです。





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