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賑やかだった食事が終わって、そしたら、だ。
私とシャルは、急に追い出されそうになった。
だって、「私達、これから女子会なの」ってケイト姉様が言うんだ。
「ね、ミリタス。そうでしょう?」
「あ、そ、そうよ。マドレーヌ、そうだったわね?」
「あ、はい。では、お兄様もお帰りくださいね?」
「え?ミリ?」
「そうなの、エド。お願いね」
「あ、…」
そして3人に言われた。
「シャルディ、邪魔だからルミーアと一緒に帰ってくれる?」
「そうですわ」
「従兄妹として申します。お引取りを」
なんだろう、嬉しくて心に染みた。
「さあさあ、早くして」
「ケイト?」
「いいからね。シャルディ、ルミーアを頼んだわ」
「あ、ああ、わかった」
皆が2人きりにしてくれたんだ。
甘えていいのかな?だって、ヴァンまですまし顔で言うんだもの。
「殿下、明日の用意はこちらで整えておきますので、ご安心を」
「ヴァンは来ないの?」
「はい、私はエドマイア様とお話がありますから」
「参ったな…」
私はシャルを見上げた。
苦笑いの愛しい人はそっと私の手を握ってくれる。
「じゃ、好意に甘えるか?」
「そうだね?」
「わかった。ヴァン、俺の屋敷は行っても大丈夫か?」
「もちろんです。ご安心を」
「なら、行こうか?」
「うん」
皆に挨拶をして、私達はシャルの寮に行くことにした。
しばらくシャルがいなかった屋敷は、セバスチャンが整えてくれたからちょっとヒヤッとしてるだけだ。
静かな部屋で2人きり。
「ケイト達も優しいな?」
「そうだね、優しいね…うん…」
「どうした?」
「あのね、シャルは会いたくて来てくれたの?」
「そう、会いたかった」
シャルの部屋で私達は互いを見ている。
シャルの手が私の髪を撫でてくれる。
「ミア、俺にキスを強請ってくれ?」
「どうして?」
「ミアが色っぽいから、好きなんだ」
「もう、仕方がないんだから…、ねぇ、私にキスして?」
1度目のキスは軽くて少し甘い。
シャルの潤んだ深蒼が私を見る。
「俺を愛してるか?」
「もちろんよ、愛してるわ」
「俺もだ」
「私に触れていいのは、シャルだけだからね?」
「俺の心に触れられるのはミアだけだ」
「シャル…」
「俺が許すのは、お前だけだよ」
そう言って、キスしてくれる。
そのキスは何度も繰り返されて、深くなっていく。
体が火照る。
シャルにしがみ付いていないと立てなくなる。
「あ、立てないよ、あん、」
もう私は…。
差し出された手を掴むのがやっと。
「そんなに色っぽい瞳で見詰められたら、止められないよ?」
寝かされて、慣れた手つきが私を裸にする。
そして、とても素敵な声で囁いてくれる。
「何度見ても綺麗だよ?」
「うん、あ、」
「俺のミアは綺麗だ…」
その指に、舌に、翻弄されてしまう。
愛してる、その事を伝える為に私達は肌を合わせる。
言葉ではなくて、感触が気持ちを伝えてくれるから。
求めて求められて、私はシャルの中に落ちていく。
そして、シャルを私の中に受け入れる。
シャルの満ち足りた声が耳元で囁く。
「ああ、ミア、素敵だ、このまま眠りたいよ…」
「いいよ?」
「抱いていて、くれるかい…?」
「うん」
「おねがい、だから…、ね…」
無理をしてきてくれたからか、シャルは私よりも先に眠ってしまった。
月の光が綺麗で私は眠れなかった。
だから、シャルの寝顔をずっと見ていた。
綺麗だったから。
「起きてたのか?」
急に目が開いて喋り出すから驚いた。
「え?」
「寝てないんだろう?」
「どうしてわかったの?」
「なんとなく」
「じゃシャルも寝てないの?」
「寝てたさ。ミアが隣にいるんだぞ?安心して眠れた」
「なんか、不思議だわ」
「そうか?」
そう言って私を抱きしめる。
素肌と素肌がくっつく。
「シャルの匂い…」
「俺の?」
「そう、安心するの」
「なら、良かった。明日は早い、寝よう?」
「うん、このままでもいい?」
「いいよ」
「嬉しい、きっと、眠れるから…」
暫くして、シャルの寝息を聞きながら私も眠りについた。
そして、次の日。
私とシャルはヴァンを連れて、ベルーガの外れのお屋敷に向った。
大きくはないけれど、格式が高いお屋敷。
そこにはシャルのお婆様が住んでいる。
今日からタリはお休みだ。
ここはお婆様の自宅、警護は厳重で心配が要らないから。
昨日、タリがお休みの連絡に来た時に話をした。
タリの家には妹さんが2人いて、両親がいないからタリが家族を支えている。
「妹さんとゆっくりできるわね?」
「いえ、他の仕事を探さないといけませんから、」
「あら、お休みの間もお給金は出るはずよ?」
「え?」
「ヴァンにね、そうしてってお願いしたわ」
「ルミーア様、そのようなこと、護衛の人間には、普通はしません…」
「だって、タリは私にとって必要な人だもの。他に行かれると困るから、だから心配はいらないのよ」
「けど…」
「ヴァンに確認してね?絶対に私の護衛は辞めないでね?」
「はい!」
「だから妹さん達とゆっくりしてね?」
「ありがとうございます!」
そんな会話を昨日した。
今頃は妹さん達と何してるんだろうな?
「どうした?」
シャルの声が今に引き戻す。
「え?あのね、タリがね今日からお休みなの。だから何してるのかなって」
「休みの時も給金を払うってヴァンが言ってたな」
「そうよ、タリは優秀だもの」
「ああ、そうだった」
暫くして馬車が止まる。
降り立ったシャルは大声を出しながら屋敷に入っていく。
「婆様、いるか?」
「婆様、って、もう!シャル!失礼よ?」
ヴァンは笑っている。
「ルミーア様、大丈夫なのですよ」
「え?」
その時上から大きな声がした。
「静かになさい、未熟者が」
そう言って現れるお婆さん…、ううん、背がシャンとして、綺麗に年を重ねてきた女性。
「婆様、俺の妻を連れて来た」
「お前の妻、」
シャルから視線が私に映り、凝視された。
息が出来ない。
凄い迫力…。
ゆっくりと言葉が続く。
「ルミーア・ランファイネルですか?」
「あ、はい」
それ以上の挨拶が出来ない。
「そう…、」
そのままシャルディの側に行って、ボソッと何かを呟いた。
「あ、うん…」そんなシャルの声だけが聞こえた。
けれども、私に微笑み掛けて下さる。
「わかりました、引き受けましょう」
「すまない、婆様」
「けれど、最低でも2週間は留まってもらいます。いいですね?」
「はい」
先日の事もあるから、私は大人しく王太后様の元で過ごす。
それがシャルとの約束。
「ミア、婆様はキツイが性根は悪い人間じゃないから、安心しろ?」
「シャルディ、お前は何を言うのですか?」
「あ、悪気はなかったんだ、」
「この孫は、相変わらず言い回しが下手ですね。直りませんか?」
「…、努力します」
「よろしい」
シャルが苦手な女性は他にもいたんだ。
可笑しくて笑いそうになるのを堪えた。
「それじゃ、連絡は毎日するから」
「うん」
「これ、シャルディ。少しは堪えなさい」
「婆様、ミアをよろしく」
「まったく話を聞かない子です」
「俺の大切な人だから」
「わかってますよ」
「ああ」
ヴァンがシャルを急かす。
「殿下、そろそろ時刻です」
「わかってる」
「なら、お早くして下さい」
「ああ、」
不機嫌そうに、子供みたいに、シャルが返事をする。
そう、とても名残惜しそうにシャルが屋敷を後にした。
それから王太后様が付きっ切りでの行儀作法の指導が始まった。
理不尽なことなんかないけど、厳しい。
今日は陛下にお目通りする為の礼儀を教わっている。
「もっとゆっくり、ですよ?」
「はい、」
部屋に入るだけでも、この駄目だし。
わかってはいる、わかっているけど、自分の無作法振りが歯がゆい。
「失礼致します」
入室の際に軽く一礼。
ゆっくりと前に進み、陛下の前で頭を垂れてお言葉を待つ。
シャルがいればまた違うし、他の人だとまた違う。
これは決まりではなくて礼儀だから、私に相応しい行動で構わない。
そう王太后様は教えてくれる。
「顔を上げてご覧なさい」
無言で顔を上げて、しっかりと目線を合わせて、微笑む。
「まぁ、様になってきましたね」
「ありがとうございます」
「では、もうお仕舞いにしましょう」
「はい…」
そういわれて少し楽になった。
勧められた椅子に腰掛ける。
「ルミーア、」
「はい、王太后様」
「指導の時間は終わりました。婆様でいいですよ?」
「けれども、」
「貴方の夫がそう呼んでいるのでしょう?」
夫って、あ、。
「え、っと、」
「違うのですか?」
「いいえ!」
「でしょう?フフフ…」
王太后様は豪快優雅に笑う。
私にだって分かる。
王太后様、お婆様は素敵で優しい方だって。




