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今日は久し振りに25寮で、みんなで食事してる。
久し振りに気の置けない会話を楽しんでいるんだ。
「やはり、ナターシャの料理はホッとするわね」
「そうよね、時々ね、食べたくなるの」
そんな会話をミリタス先輩とケイト姉様がしている。
そう、なんでか、ケイト姉様がいる。
ミリタス先輩とケイト姉様は気心の知れた仲の良い友人同士になっているんだよ。
この2人がタッグを組んだら、誰も叶わない。
「ところでエドマイア様、ミリタスとの式は来年ですか?」
「そうなりますね、ケイトさんも出席して下さいますか?」
「あら、私など出席しても、よろしいのでしょうか?」
「それはもちろんよ、ケイト。貴女はルミーア様の姉君だし、私の大切な友人なんですもの。是非に出席してもらいたいの」
「嬉しいわ。私、喜んで出席させて頂くから」
「是非、そうなさってね。嬉しいわ。あ、ねぇ、エド?」
珍しくミリタス先輩の顔がキラキラしてる。
「私、ケイトの店で色々と購入したいのよ。構わないでしょう?」
「もちろんだよ」
「ありがとう、エドは優しいわ」
「だけどね、お願いがあるんだよ」
「何かしら?」
「何を買っても構わないけど、オルタンスの屋敷に入るだけにして欲しいんだ」
「まぁ!」
マドレーヌと私も、ちょっと呆れた。
ケイト姉様が慌てたように喋る。
「エドマイア様。当店の品々でオルタンス家を満たすとしたら、今の在庫は全て無くなってしまいますわ!」
「そうかい?なら、良かった。ミリ、好きなだけ買うといいよ?」
「フフフ、嬉しいわ」
なんだか話が凄い方向へ行っている。
私は隣に座っているマドレーヌと小声で話す。
「2人が揃うと、なんだか、迫力だよね?」
「本当に、です。気が合いすぎのような…」
「そうそう、話がドンドン進んでいくね。タイプが似てるのかしら?」
「きっと、間違いないです」
「だよね?」
私は、何だか怖い視線を感じる。
「なに、2人で喋っているの?」
私達は慌てて言い訳をする。
「別になんでありませんのよ?」
「そうです、あ、それよりも、エドマイア先輩。ネルソンは元気でしたか?」
「まぁね、それなりに元気だったよ。だけど、参っているみたいだった」
「当然です!少しは落ち込んでいただかないと!」
「我が妹はネルソンに対しては厳しい」
「あら、お兄様。私はかなり寛大ですわよ?」
「そうだったな、すまない」
そしてエドマイア先輩が話を続ける。
「思うところがあるのか、女性を遠ざけているみたいだったよ。とにかく、反省してるよ」
「反省って…。あ、そう言えばケイト姉様が言っていたお仕置きって終わったのでしょうか?」
「あ、あれね…、終わったわ。まぁ成功ね。そうでしょう、ミリタス?」
「そうね、成功したわね、きっと」
なんでミリタス先輩が知ってるんだろう?
「どうしてミリタス先輩が知ってるんですか?」
「まぁね、一緒にお仕置きしたから」
私とマドレーヌは顔を見合わせた。
この2人のお仕置きってなんなんだろう…。
エドマイア先輩は苦笑いしてる。
「お兄様、知ってるの?」
「ああ、ミリから聞いたからね。あれはつらいよ」
気になって仕方がない。
「ねぇ、ケイト姉様。教えてくれてもいいでしょう?」
「いいけど、つまらないわよ?」
「それでもいいです!」
ちょっと照れたように姉様は教えてくれた。
「私たちの惚気話をお店が閉まるまで聞かせたの」
「姉様の?惚気?」
「そうよ、欠伸が出そうになったら眠気覚ましのお茶を飲んでもらってね」
「出会いから今まで、全部ね?」
「そう、全部」
ケイト姉様とミリタス先輩が笑いあう。
相当だな…。
「この話の続き、聞きたい?」
私とマドレーヌは首を横に振った。
「そうよね…」
「まぁね…」
2人の笑みは奥が深くて怖かった。
「でも、ネルソンにルミーアとシャルディの惚気を聞かせる訳にもいかないしね」
「それはダメージが強すぎるもの」
「よね、そんなことされたら立ち直れないわよね」
「怖いなぁ」
エドマイア先輩が震えた気がした。
「ミリと結婚しても絶対に怒らせないようにするからね?」
「あら、嬉しいわ」
「私はいい夫でいたいんだよ」
エドマイア先輩は女性の扱いを良く知っているわ。
美味しかった食事が終わって、みんなで居間でくつろぐ。
ケイト姉様は隣に座ってくれている。
今日は、私の準備を手伝ってくれる為に来てくれた。
「明日からね?」
「うん、」
「心配なんて無駄よ?ルミーアは私の自慢の妹だからね?」
「ありがとう、嬉しいわ、姉様」
明日から私はエリザベス王太后様の所へ行く。
だからこうして集まったんだ。
それに、手ぶらで行くわけには行かないから、ランファイネルの威信を掛けて両親が姉様に色々と託してくれた。
その荷物と共に、明日伺うんだ。
だけど、姉様は来ない。
それは違うんだそうだ。
「けど、殿下がいないから寂しいでしょう?」
「まぁ、ちょっと、ね、」
明日はヴァンと2人で伺うことになっているんだ。
シャルは行けない、だって忙しいから。
フットボールの試合の後から色々と忙しくなったシャルは、ケンフリットの屋敷に戻れなくなってしまっていた。
城でする仕事が増えてしまって閉じこもり状態だ。
「ルミーア様にはお寂しい思いをさせてしまっているね?」
エドマイア先輩は常に紳士だ。
「いえ、私は大丈夫です」
けれど、マドレーヌは時々意地悪になる。
「お兄様、そんなに寂しくはないと思うんですよ?だって殿下とは、毎晩、電話で長く話しているんですもの」
「マドレーヌったら!」
「けれど、事実ですわ」
「そ、そうだけど、」
「それも、なかなか切り上げずに、ずっと喋ってます」
真っ赤になって許してください。
だって、寂しいから受話器を置けないの。
ちょっとシュンとしたマドレーヌは済まなさそうにする。
「ごめんなさい、ちょっとヤキモチでしたわ」
そんな時でもマドレーヌは可愛い。
けど、ちょっと強気で言ってみる。
「いいよ、だって本当のことだもの」
「あら、開き直ったわ」
「だって、姉様。全然会えないんだもの。ちょっと位、寂しくても仕方ないでしょう?」
「まぁ、そうね」
「それによ、本当は今夜は来てくれるって言ってたのに来れなくなったんだもの。明日から王太后様の所に行くから会いたかったんだけど、会えなくなったんだよ?」
自分で言っておきながら、永遠に言ってそうなことに気付く。
「あ、いけない。ごめんなさい」
ところが、です。
「いいのよ。たくさん惚気なさい?」
「え?」
姉様は笑ってくれてる。
「明日からしごかれるんだもの。惚気るくらい聞いてあげる」
「うん!」
他の皆も頷いてくれた。
そうだね、ここにいるみんなが励ましてくれるから、頑張れる。
涙が出そうなくらいに嬉しくなる。
ヴァンが入ってきた。
「失礼します」
明日の打ち合わせだ。
持っていくものや王太后様への品々の確認や、警備の状況のこと。
最終の打ち合わせは、ちゃんとしないと。
「ヴァン、遅くなのにごめんね?」
その言葉をさらっとかわした。
「ルミーア様、色々と報告はあります。ですが、それは明日でも間に合います」
「え?」
「それよりも、こちらの方を」
少し遅れて、シャルが「すまない」って言いながらやってきた。
びっくりして、暫くは幻かと思って眺めていたの。
「どうした?」
「だって、今朝は来られないって、そう言ったわ?」
「なんとかしてきた。会いたかったから」
ビックリして立ち上がってしまった私を抱きしめてくれる。
そして最高の笑顔で言ってくれる。
「ミア、明日は一緒に行こう?」
「うん!」
姉様がようやく口を開いた。
「そこまでよ。まだ皆いるの、わかる?」
「あ、そうだな」
「ゴメンなさい」
そういってもシャルの手は私の腰を抱いたままだ。
嬉しい。
「これで安心した。で、ナターシャ?」
「はい」
「俺の分はあるのか?」
「なんとか、ご用意いたします」
「頼む」
「貴方、本当にナターシャの料理が好きね?」
「懐かしいんだ。なんだろうな?」
「それは、私たちも同じです。時々ここに来て食べたくなるんですもの」
「そうなの。だから何があってもマドレーヌにはここにいてもらわないと」
「あら、私はそのためだけにいるのですか?」
「そうではないわよ、もちろん」
「冗談です」
「まぁ!」
笑い声が響く。
こんな居心地がいい場所とも、しばらくお別れだ。
シャルの手の温もりを感じているのに、私はちょっと泣きたい気分になっている。
そう、私は25寮が大好きだから。
ケンフリットでの、25寮でのこと、忘れないわ。




