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殿下とルミーア様が陛下にお目に掛かってから暫くが過ぎた。

そんな頃にネルソンが出場した試合が行われたんだ。


そのフットボールの試合は凄かった。

ミールを相手に5点差で勝つなんてね。

もう、ネルソンの迫力は凄いものだった。

何しろ気迫に押されて相手が道を譲るくらいだから。


まぁ、そう見えただけだけど。


色々とあったからね。

彼も大変だとう思うよ、けど、それを言葉には出来ない。

なにしろ女性達に反感を買ってしまったんだから。

愛しのミリは歯に衣を着せずにモノを申したみたいだし、妹にいたっては二度とラルディアの前に現われるなって言い放ったそうだ。

まぁ、男として同情するけど、何もして上げられないな。

不甲斐なくて申し訳ないけれどね。



それはそれとして、グラウンドは熱狂した。

やはりアスリートとしてのネルソンは素晴らしい。



しかし、この熱狂は人の心を浮つかせるのだろうか。

今回は殿下とルミーア様が観戦していた為に、色々とトラブルが起きてしまったんだ。


例のアリシア殿はまだ諦めていなかったのか、お2人の姿を見ると掴みかからんばかりの勢いで側にやって来てしまった。

幸いな事に警護の人間が弾いてくれて大事には至らなかったが、このままではルミーア様に危害を加えるのは想像できる。

早々に何とかしなければ。

何か効果的で変わった策がないものか、ヴァン殿と語らうことにしよう。


あと、マーティン・キレンドもいたから話はややこしくなった。

ミール戦だからいても当然なのだが、貴賓席を巡って揉めた。

どう考えても殿下とルミーア様のお2人のみでの使用しかありえないのに、割り込もうとするなど、いったい何を考えているのだろうか…。

先日、陛下がキレンド公爵に釘を下さった筈なのにね。

マーティンといえば、私が毛嫌いする男だ。

そう、私の許嫁だと知った上でも彼女に付き纏った男なんだ。

俗に言う下種な野郎なんだ、まったく恥を知って欲しい。


彼については私達だけでなく、宰相も巻き込んでの話にしなければならない。

そう、彼の叔父でもあるゲイリー宰相をね。




とにかく、全ての出来事が1日に起きた。


殿下は早急にルミーア様を王太后様の元へ行かせる事を決めた。

王太后様のお屋敷は警護が厳しい事で有名だから、殿下も安心したいのだろう。

その日は3日後と決まる。





さて今日は、ネルソンをねぎらう為に、ケンフリットの中にあるレストランにいる。

目の前の彼は、そうだな、少しスッキリしたようにも見えた。


「いつもすみません」

「気にしないことだ。先日の活躍は凄かったね、興奮したよ」

「ありがとうございます」


元からあまり喋らない性質だったネルソンだが、益々口が重くなっている。


「ルミーア様の姉上とミリタスに絞られたらしいね?」

「ええ、絞られました」

「それについては同情する部分もあるな」

「無理しなくてもいいですよ、どうせ、俺は最低の男ですから」

「そこまで卑下しなくともいいのでは?」

「いいえ、そう思いたいんです」


相当言われたのだろう。

あの2人から同時に言われるなんて、大変だったと思う。


「結局、俺がラルを追い詰めたんですから」

「けれども、ラルディアは城で元気にしてると聞いているよ?」

「そうなんですか?」

「あれ、知らなかったのかい?」

「…、誰ともラルの話をしてませんから」

「そうだね…」


私は彼のグラスに酒を注ぐ。


「城にね、殿下の剣術指南役がいるのだけども、どうやらラルディアの知り合いだったみたいなんだよ。それで彼女は指南役を頼って城に入った」

「25寮を出たんですか?」

「ああ、ケンフリットを離れた。クラブを辞めたかったみたいだ」

「テニスクラブをですか?!」

「そう、マドレーヌに聞いたんだが、ラルディアはポーツで争うのが苦手なんだそうだ。決めたらスッキリして明るくなったって言ってたよ」

「…、それで、良かったのかな…」

「うん?」

「ラルはそれで後悔してないのでしょうか?そんな言い訳して、だって、俺のせいでクラブにいられないんだから、」


ネルソンの顔は苦しそうだ。


「俺のせいなんだ」

「ネルソン、もう気にしないことだ」

「え?」

「君が気にすれば気にするほど話が拗れる。どうやら君の方が弱いみたいだね」

「…、」


途方にくれている少年のようだ。

私は救いの手を差し伸べようと思う。


「ネルソン、君はラルディアに会うべきだと思うよ?」

「けど、」

「うん?」

「ラルには、俺の謝罪なんて必要ないんです」


会うのは謝罪だけじゃないんだよ…。

仕方がないなぁ。


「そうだね、まぁ、あの2人に絞られてかなり罪悪感を感じているんだろうね。けどだ、お仕置きは済んだんだ。そうだろう?」

「は、はい…」

「ラルディアは先に行こうとしている。なら、君はそれを手伝えばいい。そうだろう?」

「俺、それで、いいんでしょうか?」

「いいんだよ。君はラルディアを応援するだけでいいんだ。そうじゃないか?」


私は大きく頷いてみせた。

彼は何か考え込んでいるようだ、これでネルソンの背中を押せればいいのだけどね。

さて、話を逸らしてみよう。


「そう言えば、この間の試合には殿下とルミーア様も来ていらしたね」

「ルミーア様?」

「殿下のお側におられる方だ。失礼のない呼び方をしないとね」

「…、そう、そうですけど…」


戸惑うか…、まぁそうだろうな。


「お2人がいたことに、君は気付いていたのかな?」

「はい、聞いてました。ロッカールームで知らされて、仲間は張り切ってましたよ」

「ネルソン、君は?」

「…、競技場にいると、目が探すんです。馬鹿ですよね?で、高そうな席にいる姿を見て、安心したというか、嬉しかったというか…」

「そうか…」


照れたような、はにかんだような、そうだな、まだ好きなんだな。


「実は、あれから1度、25寮に行ってみたんです」

「ほう?」

「誰もいなくて…。ラルに謝るって口実で、俺はルミーアの顔が見たくて行ったんです。きっと…」

「…」

「神様が見てたんですよね。俺の浅ましい気持ちを」

「浅ましくなんかないよ、ネルソン」

「そうでしょうか?」

「ああ、長い間、君はルミーア様を見てきたんだ。いきなり無かった事には出来ないだろう?」

「はい」

「時が解決するよ、きっと」

「だといいんですけれど」

「大丈夫さ」


私は彼のグラスに酒を注いだ。


「エドマイア先輩」

「なんだろうか?」

「ルミーアは幸せだと思いますか?」

「ああ、そう思うな。ずっと慕っていた殿下の元にいる。それに渋々ではあるけれども陛下もお2人の事を認めた。ご卒業を待って一緒に城でお暮しになるとなれば、あの殿下のことだ。何があっても離すことはないだろう」

「ですよね、わかってたんですよ。俺も」

「そうだろうな」

「俺、きっと忘れますよ」

「うん」

「忘れてみせます。それが俺の意地です」

「わかった」


今夜の酒は心地いい酒だった。

何でだろうか?

それはきっとネルソンと語れたことが嬉しかったからなんだろう。





私はネルソンのファンなのだからね。

それも1番のだ。




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