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ラルが、25寮から去ってしばらくが過ぎた。


そして、ついにやってきた。


お父様とお母様がネルダーから来てくれた。

わざわざラッザリオさんの船に乗ってだ。


私はシャルとの事をちゃんと認めてもらわないといけない。

2人で勝手に進めることは出来ない、それくらいわかってる。

だから、ちゃんと話をしないといけない。


久し振りに会ったお母様が私を見て言う。


「ルミーア、元気そうね?」


お母様は少し複雑そうな顔をしてる。


「うん、元気よ?安心して?」

「そう、良かったわ。けれど、ここでは、なんだか緊張するものね…」


実は私も緊張してる。

だって、場所が場所だから。


私達は城にいる。

陛下へのお目通りの為にだ。

この会見は急に決まったんだ。

本来なら私の両親とシャルとの話し合いだけの予定だった。


「やはりお会いしなければならないのか?ザルファー?」

「仕方が無いだろう?だいたい陛下の許可がなければ、この話は進められない」

「まぁそうだが…」

「それにだ、急ではあるが、陛下がその気になって下さったのだ。この機を逃すことは出来ない」

「そうだろうな」


お父様とお母様は、取り敢えずザルファー小父様のところにお世話になっているそう。

ザルファー小父様なら大丈夫だからって。

その理由は私には分からないけれど、お父様の決めたことなら間違いない。

姉様は家にくれば良いのにって言ってたけどね。

娘の結婚先には行きにくいんだろうって思う。


「それにしても、だ。ルミーア?」


お父様は優しい笑顔だった。


「え?」

「お前達は、とうとう出会ってしまったんだな?」


とうとう、に力が入っていた。


「ごめんなさい、お父様、お母様」 

「謝らないでいいわよ」

「そうだぞ」

「けど、こうやって迷惑も掛けてるもの。私ってやっぱり、我が儘な娘だわ」

「まぁな、我が家の娘はどっちも我が儘だからな…、」


そうだけど、ゴメンなさい。

ケイト姉様は自由だものね、私は頑固だし。


「けれども、2人共、大切な娘だ。その幸せを願っているだけだよ」

「うん!」

「だが、な…、この状況は思ってもいなかった。こんなに急に呼び出しがあるなんてだ。ザルファー、どうにかならなかったのか?」


私達は陛下からの呼び出しを待って、城の中のザルファー小父様の部屋にいる。

ただ過ぎていく時間が不安にさせるんだ。

私は陛下にとって余分な人間だから、きっと。

だから、お父様もお母様もどこか不安げだ。


「ランファイナル、そう責めるな」

「責めてはいない、けれどな…」

「ザルファー様、デンタームは責めているのではなくて、途方にくれているのです。それは私も同じですわ。だって、娘達が遠くに行ってしまうなんて考えたことがなかったですもの。上の娘はたまにしか戻らないので、この娘は、ルミーアだけは、ずっと手元に置いておきたかったんです」


お母様は真っ直ぐに私を見て言う。

だから泣きそうになる。


「お母様、ゴメンなさい」

「ルミーア、私はね、やっぱりケンフリットには行かせたくなかったのよ」


その思いが痛い。

心がズキズキする。


「アリサ、今さら言ってもはじまらない」

「そうね、そう…。ルミーア、あれほど願っていたシャルディとの再会だものね。一緒になりたいわよね?」


そっと私の手を握ってくれるお母様の手は暖かい。


「これからをシャルディと生きていくのね?」

「うん、そうするって決めたから」

「わかったわ、だとしたら母として送り出すわ。ルミーア、願いが叶って、良かったわね?」

「うん」


ちょっとしんみりしてきた、やだ、涙が出そう。

私はバキャリーがくれた服の中で1番正装に近いドレスを着ているから、泣けないんだけどね。


そこにヴァンがやってきた。


「失礼いたします」


いつの間にか、ヴァンは男爵になっていた。

ベルーガの中心部に屋敷を持つヴァン・スタンレー男爵。

それでもスタンレー男爵は私をこう呼ぶ。


「ルミーア様、もう直ぐ殿下がいらっしゃいます」

「はい」


そして、優雅に挨拶を始める。


「ランファイネル伯爵、伯爵夫人。お初にお目に掛かります、私、ヴァン・スタンレーと申します。これからはルミーア様のお側でシャルディ殿下とルミーア様にお使え致します。お見知りおきの程、よろしくお願い致します」

「ああ、こちらこそ、娘を頼みます」

「お願い致します」


そして、シャルは本当にすぐに来た。

座っていた全員が立ち上がる。


「そのままで、いいから」


凜とした声が響く。

だから、再び椅子に腰掛けた。


シャルは正装ではないけど、いつもなら肩が凝ると言って敬遠する服装だ。

それはメリッサが考案した正装に近い服。

シャルのためだけに仕立てられたスーツ。

これがまた似合うから、私は嬉しくなって見詰めてしまう。

そんな私を見てくれる。

お母様の隣にいる私を見つけると安心したように微笑む。


「ミア、今日も綺麗だよ?」

「シャルも素敵よ?」


そして私の隣に来ると「今だけは昔に戻ることを許して欲しい」と前置きをしてからお父様に話しかけた。


「お館様、ルミーアと一緒に暮らすことを許して下さい」


そう言って頭を下げる。

慌てて止めそうになるのは私の両親だけだ。

だって、こうしないとシャルの気持ちが治まらないことを私達は知っている。


「殿下、お止めになって下さい、」

「お館様、俺は何時だってあの頃に戻りたかった。ずっとミアと一緒に生きていきたかった。だから、今回のことはあの時の俺の我が儘です。許して下さい」


まだ頭を上げない。

静かな時間が過ぎていく。

ゆっくりと流れていくように感じる。


「わかった、シャルディ」


お父様が諦めたように言う。


「もういいから、頭を上げて欲しい。願いを聞き入れるから」

「ありがとうございます」

「色々と聞きたいことはあるが、聞いたところで何かが変わるわけでもないのだろう。だが、約束して欲しい。娘を不幸にしないと。必ず幸せにしてくれると、な」

「もちろんです」

「なら、いい」


ザルファー小父様が皆を促した。


「では、今に戻りましょうか?このままではランファイネルが辛いでしょうから」

「そうして欲しいものです、殿下」

「俺は名残惜しいが…、そう言うのなら仕方が無い」

「そうです、もう勘弁して下さい…」


なんとなく笑い声が上がる。

私達は腰掛けると空気がリラックスした感じへと流れた。


「それで、ルミーア。学院はどうするんだ?」


お父様の言葉はもっともだ。


「暫くは休学します」

「せっかく入ったのに?」


お母様の言葉にシャルが答える。


「アリサ、ミアはしばらくエリザベス王太后のところへ行くことになったから」

「エリザベス様、ですか…」

「そうだ。だからケンフリットにはいられないんだ。けど大丈夫、心配は要らない」

「要らなくても心配します」

「アリサ?」


お父様が代弁してくれる。


「まぁそうだな。殿下、親なんてそんなもんですよ」

「…、そうかも知れないな」

「貴方…」

「アリサ、もうなるようにしかならない。そうだろう?」

「分かっているんだけど」


お母様は心配症じゃないけど、やっぱり心配してくれるんだ。

それが嬉しかった。

それからは簡単な言葉が交わされた。





暫くして、呼び出しが掛かる。

私達は陛下にお目通りするために部屋を出ようとする。


「さぁ、ミア?」


差し出されたシャルの腕に、そっと手を添えて私は歩き出した。





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