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プンプン!なマドレーヌだ。
あんなにも怒っている彼女を初めて見た。
ちょっと可愛いって思ってしまう、美人って得だ。
そして、マドレーヌはラルを見つけると言いたいことを言いのける。
「ラル!あんな卑怯な男の事なんか、忘れてしまって下さい!だって酷いんです!だから、もうクラブになんか行かなくてもいいです!そうです、なんだったら25寮も出ましょう!」
その勢いにはシャルも圧倒されたみたいだ。
完全に周りが見えていない。
「ラルのこれからは…、そうです、我が家で面倒を見ます!お父様にお願いしますから、遠慮はいりませんわ!」
私はワザとゆっくり話しかけた。
「落ち着いて、ね?マドレーヌ?周りが見えてる?」
ようやく気付いたみたい。
「あ、」
シャルと目が合って慌ててしまってる。
「殿下…、みっともない所を…、」
「いつも静かで冷静なマドレーヌが、どうした?」
「いえ、あの、」
「いったい何があったの?」
「…、」
絶対に何かあった。
「教えて?」
マドレーヌはいつもよりは少し早口で話し出す。
「私は怒ってるんです。だって、ネルソン先輩が身勝手で都合が良い事ばかり言って、そう、不誠実なんですもの」
「どうしてネルソンが出てくるの?」
「それは、あの…」
一瞬迷ったみたいだけど、マドレーヌは話し出した。
「実は今日、ネルソン先輩に会ったのです」
「先輩にですか?」
「はい、今朝、ケイト姉様に誘われて。ネルソン先輩に話があるからって」
「姉様に?」
「それは、うん、奴に同情するな」
「え?殿下はネルソン先輩の味方なのですか!」
「い、いや、そうじゃない。マドレーヌ、まぁ落ち着け」
「え、は、はい」
「ケイトに説教されることに同情しただけだ」
「まぁ、そうですね…、けど、そこにはミリタス義姉様もいたんです」
ケイト姉様とミリタス先輩が?
「あの2人がか?」
「はい、偶然出会いまして、すっかり意気投合して、2人でネルソン先輩に話を聞いてました」
「…、やっぱり、同情する」
「私も、少しだけ…」
「実は、私も」
「まったく同意見です。可哀想になりました」
私達4人はネルソンに同情してしまう。
あの2人がタッグを組んだんだ、逃げられない。
「けれど、先輩は酷いんです。ラルだから甘えたんだなんて言うんです。馬鹿にしてます」
「そんな事、言ったの?」
「はい!」
「なに、それ!」
「でしょう?酷いでしょう?」
「酷いよ!」
「だから、私はもう2度とラルの前に現れないで下さい!って言ったんです。けど、…言い過ぎましたでしょうか?」
「そんな事ない、言い足りないくらいだよ」
シャルが私の手を握って話を止める。
「ミア、マドレーヌ。お前達は暴走気味だぞ?」
「けれども、」
「だって、ね、酷いじゃない?」
「そうかどうかはラルディアが決める。そうだろう?」
そうだけど…。
「けれども、ラルの周りはラルの事を悪者扱いしてます。だから、あんまりで…」
「そうだよね、皆は誤解してるもの」
マドレーヌの言葉に賛成するしかないよね。
けれど、ラルは違う事を言葉にした。
「ありがとう、マドレーヌ、ルミーア。嬉しいです。皆を巻き込んでしまって申し訳ないですし、人の悪意に晒されることが無かったので、なんでしょう…、私、真ともに受け取ってました。でも、私にはマドレーヌもルミーアもいます。私には貴女達がついてます。だから、何も知らない他人が何を言ったって大丈夫です」
「本当ですか?大丈夫ですか?」
「はい。それにこれからの事、決めたんです。私はどうしたらいいのかを」
「決めたって、あの?」
「どうするの?」
「しばらくここを離れようと思います」
「ここって、ケンフリットをですか?」
「はい、この25寮をです」
ラルが笑った。
とっても素敵な笑顔だった。
「あの、殿下」
ラルはシャルに尋ねる。
「なんだ?」
「ジル小父様の所へ行きたいのですが、大丈夫でしょうか?」
「ああ、それは任せてくれ」
「ありがとうございます」
「ジル小父様?」
「シャルの剣術指南でラルのお父様の知り合いなんですって」
「そうなの…」
「ジル小父様は大雑把な人間なので、側にいれば元気になるしかないのです」
「ジルバートはそうだな、けど、あれはあれで疲れる時がある」
「まぁそうですが、今の私にはちょうどいいかと思います」
「言えている」
「はい」
ラルの背筋が伸びている。
きっと決めたんだ。
「しばらくここを離れてジル小父様のところに行こうと思います」
マドレーヌがちょっと困った様な顔をした。
「どうしたの?」
「いえ、」
「でも、」
「そうですね、ルミーアは王太后様の元へ行ってしまうし、ラルもここを離れてしまって、私は25寮に独りになるので、寂しいなぁと」
「マドレーヌ…」
「昔は独りでも大丈夫だったのですけどね、皆と毎日を過ごしてきたので、いろんなことを喋るのが癖になってしまって…」
「マドレーヌ。大丈夫です、ずっとではないのですから。それに、私達が友人であることは、これから一生変わりません」
「そうです、わね。何処にいても私達は友人ですものね?」
「もちろん!電話するから、ね?」
「はい!」
そう、何処にいたって私達は友人だから。
それに、シャルが約束してくれる。
「それでは、ラルの身柄は俺が預かろう」
「殿下?」
「暫くは城で過ごせ。ジルバートの補佐にでもなってノンビリすることだ」
「ジル小父様の側ではノンビリ出来ません」
「まぁ、そうだな…」
その方って、どんな方なのかしら?
「私達も会えるの?そのジルバートさんに?」
「会おうと思えばな。1度、見にくるか?」
「ええ、ね、マドレーヌ?」
「はい、是非に!」
ラルは明日にでも城へと出向いて、これからのことをジルバートさんに相談することになった。
それぞれに時間が動いていく。
私達3人はそれぞれの場所に移っていく。
本当は少し寂しい。
けれども、いつだって会える。
いつだってお喋りできる。
マドレーヌ独りでは広い25寮。
けれども、彼女はそこから動かない。
「私がここにいれば、ルミーアもラルも戻ってこれるでしょう?だから、私はここで待ってます」
彼女の気持ちが嬉しかった。
ラルが落ち着いたら私とマドレーヌは城に行くことを約束した。
けれど、その前にやらなきゃいけないことがある。
私とシャルが一緒にいる為に、だ。




