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賑やかな夜も終わり、少し寝不足の朝が始まりました。

私は寝ぼけた頭を起こすために、居間で冷たいミルクを飲むことにしました。


「あら、ルミーアは?」


ケイト姉様が着替えを済ませて居間に顔を出します。


「殿下のところへ行きました」

「まぁ、早いのね。もう少し待てないのかしら?」

「恋は人をせっかちにするみたいです」

「名言ね」


私はすっかり姉妹のように話してます。


「で、ラルディアは?」

「まだです。まだ寝てるのでは?きっと疲れているんだと思います」

「そう」


ケイト姉様は何かを考えていたみたいです。


「マドレーヌ?」

「はい、」

「私、ネルソンに会いに行こうかと思うの。貴女もどうかしら?一緒に行かない?」

「今日ですか?」

「ええ、ただ、勉強がこれ以上遅れると、貴女が困ると思うから強くは言えないわ」

「大丈夫です。今日は午前の授業が終われば全て終わります」

「そう、じゃ一緒に行きましょう」

「ネルソン先輩に会って、どうするのですか?」

「何もしないわ。けど、話を聞くだけ」

「約束は、してあるのですか?」

「いいえ、でも、あの子は会ってくれるもの。心配は要らないのよ」


その根拠が何処から来るのか分からなかったのですが、そうだろうと思いました。

そして、寝坊してるラルを置いて、私達は午後の予定を立てました。






午後のこと。


学院内のレストランです。

私達は個室でお茶を楽しんでます。


「やはり茶葉はドルシファの物が好みなの、私」

「私は故郷の茶葉が安心できるわ」

「ネルダーの茶葉?珍しいわね」

「市場には出回らないからね。昔から特別に作らせてるのよ」

「まぁ、」

「その昔はこれほど海上網が発達してなくて、なんでも島で作らないとなかったから」

「オリジナルね?」

「まぁね」

「益々ネルダーに興味がわいてきた、1度伺いたいわ」

「じゃ新婚旅行で来て下さればいいのよ?」

「それ、いいわ。エドにお願いする」

「その時は私の家に泊まるといいわ。父も母も歓迎するから」

「素敵、殿下とルミーアが幼い頃を過ごした場所を巡るのも、いいと思わない?ね、マドレーヌ?」


声を掛けられた時、私は目の前の光景の凄さに意識を奪われてました。


私の目の前で話してるのは、ミリ義姉様とケイト姉様。

ミリ義姉様は黒い髪を伸ばしたままで、ケイト姉様はルミーアと同じ金髪を軽く束ねて。

なんだろう、1人でも迫力があるのに、2人が揃うと益々増していく気になります。


「どうしたの?」

「いえ、圧倒されてしまって…」

「あら?」

「そんなに私達が怖い?」

「そ、そんな!違います!」

「まぁ、可愛い。そんなにムキになって否定しなくてもいいのに、ね、ミリタス?」

「そうよね、私達みたいに優しいお姉さんはいないのにね?でしょう、ケイト?」


この2人はさっき出会ったばかりなのです。

なのに何十年も知り合いだったかの様に話が進んでいきます。

そして、ここに、今からネルソン先輩がやってきます。

かなり先輩に同情するのは…、うん、仕方が無いことです。


「なんだかマドレーヌはルミーアみたいなことを言うわ」

「仲が良いから、互いに感化されてるのかもね?」

「そうかも知れないわ。だって、ルミーアはああ見えても少しは落ち着いたみたいだから。それはマドレーヌのお陰ね、きっと」

「そう?」

「ええ、ちょっとは周りを気にすることを覚えたみたいだし」

「まぁ、これからは王太后様の元で仕来りや作法を学ぶのですから、もっと様になってくるんでしょうけどね」

「そうよね…、王太后様はルミーアを気に入って下さるかしら…」


私は大丈夫だと思っています。


「大丈夫です。殿下は大丈夫だと仰ってました」

「そう、でも…」

「ケイト、私も大丈夫だと思うわ」

「そう?ミリタスがそう言ってくれると安心できるわ」

「ルミーアは真っ直ぐだから。きっと気に入られる」

「そうね…」


ようやくドアが開いて、ネルソン先輩が来ました。


「遅くなりました、って、ミリタス先輩も、いるんですか?」

「あら、お邪魔だったかしら?」

「いえ、そんな…」


タジタジです。

けど、仕方ないですよね。


「ネルソン先輩、私達がこの店に入ろうとした時にミリ義姉様と偶然に出会ったのです」

「そうなの、でね、一目見て気が合うのがわかったからお誘いしたのよ」

「嬉しかったわ。ケイトと知り合いになれて、今年1番の収穫だもの」

「あら、嬉しい」

「私も」


そして、同時にネルソン先輩を見るのです。


「「さ、掛けて」」


あのネルソン先輩が少しオドオドと席に着きます。


「聞きたいことは山の様にあるのだけど、」

「そうよね…、妹さんのことだものね」

「まぁね、じゃ、」


怖い、です。


「そうね、まず、今度のニール線は勝てるの?」


ネルソン先輩はホッとした表情になりました。


「勝ちますよ」

「それは良かった。必ず勝ってね?」

「もちろんです、けど、どうして?」

「ルミーアよ。嫌な奴に目を付けられたみたいなの」

「嫌なやつ?」

「マーティン・キレンド。噂ぐらい聞いたことあるでしょう?」


ネルソン先輩にも心当たりがあったようです。


「噂ではシャルディ殿下と同じ位に女性を乱雑に扱うと聞いたことがあります」

「シャルディに関しては嘘だって知ってるくせに」

「それはルミーアに対してだけですから」

「そうね、昔の通りね。シャルディはルミーアには優しかったもの」


ネルソン先輩の顔が少し苦しそうに見えるのは、きっと気のせいではありません。


「昔からって…、あの、ケイト様」

「なに?」

「俺、シャルディよりも先に自分の気持ちに気付いて、それで、その気持ちをルミーアに言ってたら、何か変わったんでしょうか…」

「そうやって後悔してるのね?」

「…、はい」

「ネルソン、それは無かったって言うわ。たとえ貴方が妹に告白しても、何も変わらなかった」

「…、」

「それは貴方が1番知ってることよね?」


ケイト姉様は鋭く突っ込む。


「そうですね…、俺はあの2人の間に入ることは出来ない、そうです」

「じゃ、2人を祝福して上げられる?」

「無理ですよ、ルミーアを今すぐに忘れるなんて出来ないんです」

「そうね…。ルミーアを想っていた時間はシャルディと同じ長さだものね」

「そうなの?じゃ、苦しいわね」

「そうなのよ、この子も不器用だから」

「スタジアムにいる人と同じとは思えないわ、…、まぁ、そんなものかも知れないけど」


2人の姉様達が話を進めます。

なぜでしょう、なにかを企んでいるって感じがするのは。

ケイト姉様はミリ義姉様と初対面のはずなのに、なんだろう、打ち合わせ済みのように息が合っています。


「まぁ不器用な割には、簡単に女を抱くんだから分からないわよね…」

「あ、あの…」

「まぁ、あのネルソンが?」

「そうなの、それもよ、ルミーアの友人よ」

「まさか、ラルディア?」

「そのまさか」

「まぁ…」


お姉様達はゆっくりと同時にネルソン先輩を見詰めるのです。

先輩は何も言えません。


「…、」

「馬鹿ね」

「本当に、馬鹿は直らないわ」

「まったく」


そして、言葉も強く問い詰めます。


「どうして、合宿先でラルディアを抱いたの?」


ストレートです。


「それは、…、俺の我が儘です」

「我が儘ですって」

「それじゃ済まされないじゃない?」

「そうよね、ラルディアは貴方が彼女を部屋まで送って行ったことで、クラブの人間から無視されたり中傷を受けたりしたんでしょう?」

「あら、まぁ、酷い…」


ミリ義姉様がため息をつきました。


「ねえ、ネルソン?」

「はい」

「フットボールクラブの男子が簡単に女を手に入れられるのは、誰も知っている事実だわ。だから、テニスとの合同合宿では、きっと貴方達以外にもそういう関係になった人間はいると思うのよ。けどね」

「…、はい」

「貴方はラル以外の女性にすべきだったわね」

「…、けど、」

「なに?」

「俺は、ラルだったから、」

「なにを言うの?」


ケイト姉様が大きな声を出しました。


「ラルディアだったから、なんなの?」

「彼女だから、なんです。他の女なら何もなかったんだ」


無言が続きました。

なんだろう、腹が立ちます。


「ネルソン先輩!」


私、怒ります。


「ラルは私とルミーアの大切な友人です。だから、昨日、初めてラルの口から事実を聞いた時、私はネルソン先輩を軽蔑しました」

「マドレーヌ…」

「まぁ、そうよね」

「当り前ね」

「わかってましたよね、ラルなら拒まないって。ラルが私達の中で1番女性らしくって優しくって気配りが出来るんだって。あんなに頻繁に寮に来て話してたんです。ラルなら許してくれるって知ってましたよね?」


先輩は黙ったままでした。


「卑怯です。ラルだったから我が儘できたって、なんなんですか!先輩はスッキリしたかもしれませんが、ラルは、ラルは…、物凄く悩んだんですよ?それを…、先輩は最低です」


みんなが私を驚いた目で見てます。


「二度と25寮に来ないで下さい。ラルの事、忘れて下さい。ラルは、ラルには私達いるんですから!」


思わず立ち上がり、先輩を睨みました。


「もう!帰ります!」


私は1人で店を飛び出しました。





もの凄く腹が立ったんです!







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