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あ、ドアが開いた。

シャルとケイト姉様が来た。


「何があったの?」

「笑い声が響いてたぞ?」


怪訝そうな2人。

慌てて話を誤魔化す私達。


「なんでも、ないです」

「そう、だよね?」

「もちろんです」


言えないよ、言えない。

これは私達3人の内緒だ。

言葉で確認する必要もないくらいに、目で合図。

それを見たケイト姉様。


「まぁ、楽しそうだから、それでいいわ。そうでしょ、シャルディ?」

「そうだな」


シャルは座っている私の隣に腰掛けた。

そして、残念そうに言うんだ。


「ミア、今晩は俺1人で帰るよ」


あら?一緒に帰るって言ってたのに?


「どうして?」

「嫌か?やっぱり、俺の屋敷に来るか?」


急に嬉しそうになる。

姉様といったい何を話してたんだろう?


見ていた姉様が静かに名前を呼ぶ。


「シャルディ?」

「いや、なんでもない。やっぱり…」

「姉様に怒られたの?」

「ああ…」

「シャル、ごめんね?」

「いいよ。俺も少し反省したから」


姉様のお小言が続く。


「シャルディ、もう少し慎重に行動するって約束したわよね?」

「ああ、約束した。けどな、」


シャルの気持ちは痛いくらいに伝わる。

私も一緒にいたい…、けど、ね。


「シャル、今日はゴメンなさい」

「ミア?」

「今日はね、マドレーヌとラルの3人でいたいの。お願い?」


今夜を逃したくないの、ごめんなさい。

そっとシャルの手を握る。


「わかったよ」

「うん」


シャルが握り返してくれた。


「熱いですね?」

「本当に、熱いです。こんなに当てられては、どうしたらいいのか…」

「まぁ、今が一番恋しい恋人達ですから、ねぇ」

「仕方が無いのでしょうね…」


マドレーヌとラルだ。

開き直ったんだ。


「ところで、ケイト姉様。今夜は私の部屋に集まりませんか?夜通しでお話しがしたいです!」

「私も!是非に教えを請いたいですから!」

「あら、貴女達、可愛いことを言うじゃない?いいわよ?乙女同士で語りましょう?」

「「はい!」」


いやだな、なんか置いてきぼりだ。


「ルミーア、殿下と一緒に行って下さい。今夜はケイト姉様と語りますから」


それは嫌かな。

あ、シャルとは居たいけど、でもこの機会に乗り遅れたくないもの。


「私も入れてよ!仲間外れは寂しいもの」

「えー、どうします?」

「そうね、ね?」


なんで、3人で楽しそうにするわけ?

入れてよ!


「私も入れてよ!お願いだから!」


あ、シャルを置いてきぼりにした。


「ミア、別にいいじゃないか?せっかくなんだから、うん?」

「シャル、今日は友情を優先したいの。ごめん、わかって?」

「けど、ミア、」


そんなに悲しそうな顔をしないでよ?

けど、そんな顔を見せるのは私だけなんだから、可愛いわ。


「その代わり、明日は朝からシャルのお屋敷に行くからね?」

「本当だな?朝からだぞ?」

「うん!」


シャルのご機嫌が直った。

姉様が呆れる。


「貴方達、ちゃっかりとそんな約束なんかして!」

「姉様、お願い見逃して!」

「ケイト、今夜は我慢するんだから、頼む」


渋々、承諾する姉様。


「もう、しょうがない子達だこと。みっともない真似はしないでね?いい?」


頷く私達。

まるで昔みたいだ。


私とシャルは顔を見合わせて笑った。

声を出して笑ったんだ。


そして、シャルが私にだけ聞こえるような小さな声で言う。


「声を出して笑うなんて、久し振りだな」

「シャル?」

「いや、なんでもないよ」


もしそれが本当なら、私はもう絶対にシャルから離れないって思う。

毎日毎日、沢山お喋りをして、シャルを笑わせるって思う。

シャルが笑顔になるんなら、そのためなら、ずっと側にいたい。

だって、やっぱり愛してるもの。





そして、渋々とシャルが屋敷に戻っていった。






ようやく乙女のパーティが始まるんだ。

私達はパジャマに着替えてマドレーヌの部屋に集まった。


マドレーヌの部屋は私の部屋の倍の大きさ。

それでもマドレーヌは普通だっていう。


「本宅の部屋はここの倍の大きさになりますから、ちょっと手狭です」

「私はこれほど広いと寝付けません、きっと」

「私も…」


姉様は早速ベットのスプリングを確認してる。

なんでかな?


「うーん、やっぱり丁度いいくらいの反発力ね…、これはどちらのベット?」

「はい、確かエル工房のものだと思います」

「そうよね、やっぱりエル工房よね…」

「どうしたの?」

「あら、ごめんなさい。実はねラッザリオが腰を痛めちゃってね。良いベットを探してるの」

「ラッザリオさんが?」

「心配はいらないのよ、大したことないから」


ラッザリオさん、仕事がハードだから腰を痛めちゃったんだ。


「ラッザリオさんって、ケイト姉様の夫なのですか?」

「そうよ」

「どんな方?」

「そうね、強くて優しくて、私の我が儘をみんな聞いてくれるわ」

「わー、素敵!」

「憧れます!」


姉様は満更でもなさそうだわ。

そうだ、話を盛り上げよう!


「あのね、姉様達の馴れ初めもね、凄いのよ?」

「本当ですか?」

「是非、教えて下さい!」


私は姉様が無言なのを良い事に2人の馴れ初めを話し出した。


ケイト姉様がラッザリオさんに出会ったのは、ネルダーで一番大きな港だった。

そう言えば姉様は港の喧噪が好きで、学校帰りに良く遊びに行っていた。

そんな学生の頃、ラッザリオさんに出会ったんだって。

段々と釘付けになって行ったって聞いた。

ラッザリオさんは自分の船を何艘も持っていて全てを自分で指揮していた。

船を操り船員を纏め次々に荷卸しの支持を出していく、自分の船で大勢の人間を従えて。


そんなラッザリオさんの働く男の姿に、一目惚れしたんだ。


「え?ケイト姉様から好きになったのですか?」

「そうよ、」

「女性から、好きに?」

「悪いかしら?」

「「いいえ!」」


で、私の話が続く。


毎日の様に港に通い、ようやくラッザリオさんと話をするまでにこぎ着けた姉様は、直ぐに気持ちを伝えた。

けれど、ラッザリオさんは断った。

伯爵の娘だからって、年が離れすぎているからって。

それに長年独身だったのには訳があったんだ。

航海が長くて女性と一緒に暮らすことが難しかったから。

だから、断って、そして、そのまま航海に行ってしまった。

普通ならそこで諦める、けど、姉様は違った。


手紙を書き続けた。

手紙を運ぶ船は週に3日に1回のペースで王都に向かう。

その船に、必ず間に合うように、書き続けた。

ラッザリオさんの船は常に王都に戻るからね。

航海で帰る度に、姉様からの大量の手紙がラッザリオさんを待っていたそうだ。


「それで?ラッザリオさんは、どうなさったのですか?」

「折れたの。ネルダーに戻って来た時には、ね?」

「凄い量のプレゼントを姉様に贈ったのよ!」

「素敵!」

「憧れます!」

「そう?若かったから出来たのね。でも、間違ってなかったもの」

「今でも仲が良いもんね?」

「当然でしょう?私にとっては、ラッザリオが一番素敵な男性なんですから」

「「「ご馳走様です!」」」


姉様の恋の話も十分にロマンティックだと思う。


「好きになったら、自分から言っても良いのですね?」

「まぁね、でも、無理はしなくていいのよ」

「無理ですか?」

「そう、だってね、本当に伝えたかったらね、気持ちが口から勝手に出てくるの。自分でも止められないのよ」

「自分でも?」

「ああ、素敵です。そんな恋、憧れます」


マドレーヌとラルの瞳がキラキラしてる。

今夜はみんなとお喋りできて、嬉しい。





あ、明日の朝は早起きしないと!

出来るかな?

まぁ、愛しい人に会いに行くから大丈夫、きっと。








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