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昨日、ルミーアは帰って来ませんでした。

ヴァンさんから連絡があった時には、そういう事なんだと理解したのです。


なんでもキレンド公爵の息子に目を付けられてしまったとか。

お兄様の時も揉めました。

しつこくミリ義姉様の元に通っていたのを覚えています。

だから、皆が危惧するんです。

殿下も不安になられて当然です、自分のモノにしてしまいたいと思われても仕方がありません。

もっとも、ルミーアも望んでいるように見えました。

想い合っているんですもの。



ラルはどうしているんでしょうか?

もうすぐ合宿を終えて帰ってくる時期です。

電話もなかなか掛けられないので、早く話がしたいです。

ラルとなら分かち合えるんですもの。





私の今日の授業は午前と午後に1時間づつ。

今は午前の授業が終わり、親しい方々とランチをご一緒している所。


他愛のないお喋りは楽しみの一つです。


「マドレーヌ様は、確か25寮でしたわね?」

「そうですわ」

「ラルディアさんってテニスクラブの方、ご一緒の寮と伺いましたが?」

「ええ、仲良くさせて頂いております」

「そうですか…」

「やはり、ね?」

「ええ」


歯切れが悪い言葉が続きます。

ラルに何があったのでしょうか?


「彼女に何がありましたか?」


渋々、だけど、どこか楽しそうに教えてくださいます。


「あの方、この合宿中にね、ネルソン先輩の部屋から朝帰りをしたそうですわ」

「あ、朝帰り??」


思わず、声が裏返りました。


「まさか、ラルが…、」

「びっくりですわね。ネルソン先輩といえばケンフリットの星。皆が注目するアスリートですから」

「マドレーヌ様、ラルディアさんって、どんな方?」

「どんなって、そう、真面目な女性です」

「真面目な女性が朝帰りですか?それは真面目ではないのでは?」


まぁ、朝帰りが事実ならば、そうですが…。


「それは、何か誤解なのではないでしょうか?」

「今朝ほど先に合宿から戻ったテニスクラブの方に聞いたんですから、間違いありません」

「となると、早々にネルソン先輩にご執心な方々が25寮に集うんじゃないかしら?」


それはかなり拙いのではないでしょうか?


「どうして、そのような方々が?」

「きっとラルディアさんがどの様な方か見てみたいのです」

「そうでしょうか?」

「ええ、見て本人に嫌味の一つも言いたいと思いますわ」

「はぁ…」


私がため息など、はしたない。


「申し訳ありません。彼女が可哀想になってしまって」


それはもう本当の事です。

ですが、その他の心配をしてしまいました。

もし殿下とルミーアが一緒の所を見られたら、と思ったのです。

既に知られているのかも知れませんが、実際に見ることはまた違うことですから。


ちょっと考え込んでしまいました。

目の前の方が私を心配して下さいます。


「同寮の方ならそうでしょうね」

「そうですわね、私達などはここの殿方には興味がありませんから、ネルソン先輩であろうと他の方であろうと、どうでもいい話なのですがね」

「他の方と言えば、ほら、昨日の?」

「そうそう、お聞きになりました?」

「ええ、あれでしょ?バキャリーの出来事」


もう、こんな所にまで噂が…。

まぁバキャリーの顧客層を考えれば、昨夜の内に電話で広まるのは納得できることです。


「確か、殿下と親しい女性にマーティス様が乱暴を働いたって聞きましたわ」

「マーティス様も乱暴な方ですからね」

「けれど殿下も似たり寄ったりと伺いましたけど、その女性には違っていたそうな」

「らしいですわ。どちらの方なのかしらね?」

「なんでも見慣れぬ方だったそうです」


まるで見てたかの様です。

けれど、ルミーアが25寮に住んでいることは知られてない様で安心できます。


「マドレーヌ様もご存知でしょう?」

「ええ、兄から少し聞きました」

「平気なのですか?」

「平気とは?」

「マドレーヌ様は殿下のご側室でしょ?なのに、別の女性とご一緒だったなんて、ね?」

「そうそう、しかも、今までに無く、あの殿下がお優しくしてらしたって」


やはり、見てきたのかしら?

いいえ、そんなことはありえません。

だとしたら…、そうです、噂は時に一人歩きを始めるんです。


「私が殿下の側室候補であったことは認めます。ですが、このお話はなかったことになりましたの」


父と兄とで話を決めました。

あくまでも側室候補であったけど、話は消えたと。


「まぁ!側室になられたのではなく、候補でしたの?」

「ええ、私と殿下との間には何もありませんでしたの。きっと殿下はお気に召さなかったんですわ」

「存じませんでしたわ…。ですがそれで、いいのでしょうか?」

「え?」

「マドレーヌ様は、それで納得されたのですか?」

「納得?」


私の言葉に2人が顔を見合わせます。

そして少し小声で話し出しました。


「ええ、もし殿下のお子でも身籠れば、それこそ、ね?」

「はい。御子であれば御生母としての地位が約束されますからね」

「私はそのような地位よりも、互いに信頼できる方がいいので…」

「堅実ですわ。さすがマドレーヌ様」

「けれども、その様に賢い方ばかりじゃないですから」

「それは?」


声を潜めて話が続きます。


「なんでも、アリシア様が殿下に物申しに参ったそうです」

「アリシア様は殿下を物凄くお慕いしておいででしたからね」

「やっぱり諦め切れなかったみたいです」

「けど、普通は諦められませんわ。急に関係を清算するっていわれてもね、納得出来るものではないですもの」

「そう、ですわね」


アリシア様のことは、今、初めて聞きました。

そういえば、先日何かがあったのではと思うことがありましたが、ルミーアが言いたくないのであれば無理に聞き出すことはやめようと思って何も聞かずにいたのです。


「私など、端からお相手にならないと思っておりましたから。けれども、アリシア様は違ったのでしょうか?」

「ええ、なんでも1年のクラスに殿下のお相手がいるらしいのです」

「それで、そのお相手の授業を殿下が一緒に受けられたと」

「まぁ…」

「それを見ていたアリシア様の親派の方が、さっそくご報告に行ったらしく殿下のお部屋の前で言い争いになったそうです」

「それで、アリシア様はお相手の方を?」

「お会いになったみたいですわ。あんな女よりも!って激怒なさっていたと噂が、ね?」

「物凄い剣幕で、どこの誰だって怒鳴ってらしたってね?」

「そのお相手の方もお気をつけにならないと、ね?」

「ええ、アリシア様は怖いですから」

「本当ですね…」


ルミーアは、今、寮かしら?

なんだか胸騒ぎがします。


「皆様、私、寮に忘れ物を致しました。授業に間に合うように取って参ります」

「それは大変」

「こちらのことはお任せ下さい」


出口でこの支払いはオルタンスに請求するようにお願いして、寮に向いました。





ラルのこととルミーアのこと。

色々と起こり過ぎですわ。

とにかく、25寮が今まで通り静かな事を願います。





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