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マドレーヌの顔が輝いている。

何かいい事を思いついたみたいだ。


「それでは、ルミーアから教えてもらうために、本日はこの屋敷で乙女同士語り合いましょう?」

「語り合う?」


マドレーヌの顔が、とっても嬉しそうになるんだ。

ワクワクしちゃう。


「そうです。今夜は、ここに泊まっていって下さいますね?2人で語りましょう?」

「賛成です!」


乙女の語らいだ。

楽しみ。


「じゃ、決まりです!ケル?」

「はい、支度いたします」


ケルさんが呼ばれて私のお泊りの為に準備をしてくれることになった。


「この別宅に友人が泊まりにくるなんて初めてです」

「ラルもいたら良かったのにね?」

「本当です」


私達は乙女の語らいに向けてテンションが高くなっていく。

けど…。


取り残されている人がいた。


「ミア、…ここに泊まるのか?」


そんなに不機嫌そうに尋ねられても困るよ。

きっと25寮まで私を送ってくれるつもりだったんだと思う。

マドレーヌがすかさずに言う。


「殿下?」

「うん?」

「今日はルミーアを私に下さいませ。今後の為にも、よろしいですね?」


なんか、マドレーヌの迫力が増した感じだ。


「けどだな、25寮でも出来るだろう?」

「いいのです、ここの方が広いですし準備もしておりますから」

「あ、ああ。…、」


自分のやりたい事が通らないから、昔みたいに拗ねている。

シャルは変わってない。

でも、そんな所も可愛いって思える私は物凄くシャルを好きなんだ。


「ねぇ、シャル。私達はいつでも会えるんでしょ?」

「会える」

「なら、今日はマドレーヌとお喋りさせて?お願い!」

「…わかった」


まだ、拗ねてる。


皆は驚いている。

氷のようだって言われ続けてきたシャルが、感情を全開にして話してるから。

きっとこんなシャルを見た事がないんだと思う。


でも、私には見慣れたシャルの姿なんだ。

私は可笑しくて笑いそう。



見かねたエドマイア先輩が提案する。


「殿下、よろしければ夕食をご一緒にいたしませんか?」

「そうだな、そうさせてもらおう」


そして我が儘が炸裂する。


「ミアは俺の隣だ、いいな?」

「もちろんです」

「うん」


呆れた顔になる皆なんか、まったく気にも留めていない王子。

さっと私の腰に手を回して、ギュッと抱きしめる。


「帰りまでこのままだ」

「無理だよ?」

「無理でも、だ」

「もう、」


こうして、私達は夕食を共にした。

さすがオルタンス家の料理。

とても美味しい料理でシャルの心も少しは満たされたみたい。





ちょっとだけ機嫌良くして屋敷に帰って行く。

お小言を残して…。


「じゃ、明日。迎えに来るから」

「うん。待ってる」

「ここからは出るんじゃないぞ?」

「わかってる」

「俺が来るまでだぞ?」

「うん」

「だから、」


見かねたヴァンが声を掛ける。


「殿下、参りましょう」

「あ、いや、だが、」

「参りましょう」


シャルがヴァンに引きづられるように帰って行った。

私とマドレーヌは思わず笑い合ってしまった。

そして、ミリタス先輩はエドマイア先輩と何処かに消える。

気付かないうち、だった。






私とマドレーヌは彼女の部屋の大きなベットの上。

絹のお布団はフワフワだ。


寝巻きは未使用のものを頂いた。

いいのかな…。

マドレーヌは気にもしてない。

私は気になって仕方がない。

だってドレスも頂いているのにね。



だけど恐縮ばかりしてられないよね?



そんなこと、って感じで、別の話を始める。

もちろん、恋愛についてだ。


「今日の殿下は、初めて見る殿下でしたわ!」

「そう?」

「そうです、だって、普通でしたもの。あの殿下が、普通の男性になるんですよ?驚きしかありませんわ」

「普通って、いつものシャルだったし…」

「いいですか、氷ですよ?氷みたいに冷たい目つきで、睨むんですよ?それで息も凍るような言葉を吐くんです」

「怪物みたいだね?」

「その位に、周りはピリピリしたんです」


そっか…。


「ルミーアは特別なんです」

「特別?」

「そうです、殿下を普通に変えるなんて特別です。もう…、」


マドレーヌがため息をついた。


「あんなに熱い方だなんて、知りませんでした」

「うん、…」

「ねぇ、ルミーア。恋愛って、どうやったら始められるのでしょうか?」

「どうやって、って…?」

「キッカケが分かりません」


私も知らない。


「私も分からないよ」

「じゃ、ルミーアはどうやって殿下を好きになったのでしょうか?」

「え?うーん」


初めて家に来た時から、シャルは私の心の中に住みだした気がする。


「気づいたら好きになってた」

「そうですか…」


キッカケも覚えていない。

私達、何時からこうなることを決めていたんだろう?

互いに離れたくないって思うようになったんだろう?

そんな事考えた事もなかった。

出会った時から当り前の様にシャルがいたから、いない時の方が苦しかった。

だから、会いたいって願ったんだ。


けどそれは私達が特別なだけ?

あ、身近にもいた。


「ミリタス先輩達は?お2人はどうなのかしら?」

「ミリ義姉様はお兄様とは幼い頃からの許嫁でしたから。それにあんなにズバズバと言いませんもの。殿下とは違うと思います」

「でも、とっても仲が良いじゃない?」

「それは、時間を重ねてきたからですね。きっと」

「それも恋愛なんだと思うよ」


そうだと思う。

2人の間に流れている空気は特別だと思うわせるもの。


「出会いなんて色々だよ。100人の恋愛があったら100通りなんだと思うよ」

「そうですね、ああ、」

「うん?」

「私も素敵な恋愛がしたいです」


急にマドレーヌが背伸びをした。


「きっと羨ましいんです、私」

「どうして?」

「殿下があのように熱い方だとは、きっと誰も知らなかったと思います。それだけの想いを寄せられるなんて、素敵ですから」

「うん、でもね」

「はい」

「本当にネルダーにいた頃のシャルと同じなの。いつも私には優しかったもの」

「そう、でしたね」


マドレーヌは恋愛もしたことがないんだ。


「マドレーヌ?」

「はい」

「きっと素敵な男性が現われるよ、マドレーヌだけを愛してくれる、素敵な人が」

「まぁ、…」


夢見る乙女の表情になった。


「素敵です。そんな素敵な殿方は、今、何処にいるのでしょうか?」

「きっと、近くかな…」

「近く?そうですか?」

「だって、近くにいなかったら出会えないもの」

「そうですね、そうです。ルミーアだって殿下の側近くに来たからこそ、こうして再会できたんですからね」

「うん!」

「けれど、」


急にいつものマドレーヌ戻る。


「私達、こうやって時間を過ごす事も難しくなるかもしれませんね」

「え?どうして?」

「ヴェンさんが言ってましたでしょ?殿下は一途な方だって。きっとルミーアを側に置いて離さないでしょうから」

「それは、私が25寮を離れるってこと?」

「そうです」


それがとても寂しいことに思うのは、同じ気持ちだと思いたい。

25寮は私達の家だもの。


「でも、私達はずっと友人同士だよね?」


マドレーヌが笑った。


「もちろんですとも!」

「よかった!」

「本当です。ケンフリットに入った時には、これからの人生を共に過ごす友人が出来るとは思ってませんでした。けれど、嬉しいものですね?」

「そうだね、嬉しいね?」


そして、私達が思うことは同じだ。


「けれども、ラルがいないことが、寂しいですね?」

「うん、そうだね。そうそう、私、シャルのお婆様に会うんだって」

「それは、王太后様ですよね?」

「うん、凄いよね…。私も信じられないんだ」

「けれど、考えてみたら当然の話です。殿下が側に置きたいって願っているんですから」

「そう、だね」

「けれども、王太后様は滅多に人前には現われません。ですから、お目に掛かれる人間は限られております」

「光栄だね、ドキドキするけど」

「はい」


マドレーヌが手を握ってくれた。


「これからルミーアは新たな人生を歩くのです。でも、私の友として堂々と振舞って下さい。私達が付いています。きっとラルも同じことを思ってます」


嬉しい、友がいるって強くなれるんだね。


「うん、ありがとう!早くラルとも喋りたいね?」

「そうですね」


やっぱり私達3人は最高だと思う。


「ラル、今頃、何してるんだろう?」

「きっと練習でクタクタですよ」


そうだろうな。

テニスクラブの練習はきついって言ってたもの。


「ラルが戻ってきたら、恋愛初心者同士で知恵を出し合います。ルミーアに負けないくらいに素敵な恋愛をしたいですからね」

「私も、いれて?」

「駄目です」

「ツマンナイ…」

「もう!」

「ハハハ…」

「フフフ…」


話は尽きない。

けれども、私達は眠ることにした。




きっと翌朝にはシャルがやってくるから。





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