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私達はマドレーヌの涙が止まるまで待った。

だって、幸せな気分だったから。

皆同じ気持ちだったと思う。


「マドレーヌ、ありがとう。俺達を出会わせてくれたのは、マドレーヌ、君だ。この恩には必ず報いる」

「殿下、そのような勿体無いお言葉を…」


宰相が独り言を呟いた。


「ワシは、何を見ていただろうな、」


シャルは優しく語り掛けた。


「オルタンス、エドマイアの働きをどう思う?」


宰相はしっかりとシャルを見て、答えた。


「そうですな、今の殿下のお顔を見ていれば分かりますな」

「そうか?」

「ええ、息子はいい仕事をしたのだと分かります」

「そうだろう?俺もそう思う。だから、俺はエドマイアに宰相補佐として城で働らいてもらおうと思った」

「殿下!それは誠で?」

「もちろんだ。直ぐにでも父上に報告する」

「陛下へですか?」


宰相は物凄く驚いているみたい。

けど、シャルはちょっと意地悪に言う。


「ああ、そうだ。何か不満か?」

「いえ、とんでもない。思ってもない事ですので、ただただ、驚いております」

「お前が育てた息子だ。間違いないだろう?」


オルタンス宰相は、穏やかだった。


「いや、殿下。いつの間にか私は息子に教えられる様になってしまいました。エドマイアは私よりもいい仕事をしてくれると思います」

「そうか、なら卒業次第に働いてもらおう。いいな、エドマイア?」

「は、父の名に恥じぬように努めたいと思います」

「よし、これで決まったな」


シャルはヴァンに告げる。


「ヴァン、このこと父上に進言する。準備を頼む」

「畏まりました」


ようやく場が和む。

無事に終わってホッとしてるのは私だけじゃない。


オルタンス宰相は暫く無言で俯いていた。

けど、顔を上げた時、その顔は柔らかで明るかった。


「お前達、すまなかったな。落ち着いたら話がしたい。いいだろうか?」

「もちろんです!ね、お兄様?」

「もちろんです、父上。そうだ、今度ペヂュクヤの別荘に行きませんか?母上が大好きだった萩の花を見ましょう」

「そうだな、あそこの萩は美しかったな」

「ええ!」


今、私の目の前にいるのは普通に仲の良い親子だ。

良かった。




嬉しくなると同時に、私の両親の顔が浮かんだ。




私だって、ちゃんと話し合わなければ、すれ違ってしまう。

分かってもらいたいから、ちゃんと話そう。


「私もお父様とお母様とに話さないといけないね?」

「そうだな、俺達の事、ちゃんと許してもらわないとな」

「そうだね」


シャルの瞳が優しいから、嬉しくなっちゃう。


「そのことですが、殿下?」 


ヴァンがシャルに声を掛けた。


「ランファイネル伯爵ご夫妻には早々にこちらへお出で頂いた方が良いかと考えまして、既に準備に入っております」

「すまないな」

「当然でございますから。ですので、ルミーア様にお願いがあります」

「何かしら?」

「ご両親にお手紙を書いて下さいませ」

「そうね、そうするわ」


取り敢えずは手紙で知らせよう。

それから、だよね。


「ヴァン、その時に父上に会って貰えばいいんじゃないか?」

「そのように急がない事です」

「そうかな…」


そうそう。

いきなりは心臓に悪いもの。

マドレーヌが心配そうにしてくれる。


「殿下、あまり急に物事を進めるのはルミーアの為になりません。これでもルミーアは誰よりも心配症ですもの」

「マドレーヌ、そこまでルミーアのことを見抜いたのか?」

「当然です、私の大切な友人ですから」


嬉しかった。


「けれども、意外に大胆で向う見ずな所もありますから」

「その通りだ。ミアは変わってないな」

「えっと、それは褒め言葉でいいのかしら?」


私は隣の愛しい人を見上げる。

困った様な瞳も、可愛い。


「そう、だ。そういうことだ」

「なら、いいの」


私の機嫌も直る。


「ルミーア、さっきはありがとう」

「気にしないで。だって、私達は友人でしょ?」

「そうです、大切な友人ですもの」

「そうよ」


私は思わずマドレーヌに駆け寄ってその手を握って、そして、抱きついた。


「ルミーア!」

「これからもよろしくね?」

「私もです」


嬉しかった。

不安がどこかに飛んでいきそうだから。


けれど、肩を軽く叩かれる。

もう、ヤキモチ焼きめ。


「う、うん、え、だな」


シャルが咳払いをしながら私達の会話に入ってくる。


「ミア、その位にしとけ。たとえ女性でも、ミアから抱きつくなんて、な、うん」

「殿下、焼もちはその程度で」

「ヴァン!」

「大丈夫、ルミーア様は逃げませんから」

「ああ、俺って…」

「ことルミーア様の事になると、見境がつかなくなります」


その場にいた全員が頷いた。




…、シャル…。





何となく場が丸く収まった。


宰相の侍従が部屋に入って来た。


「恐れながら、ザルファー様より至急城に御戻りになられるようにとの連絡が入っております」


それはオルタンス宰相への伝言。

バルトンには3人の宰相がいる。

オルタンス宰相、ザルファー宰相、そして、ゲイリー宰相。

この3人の合議が元になって議会が動く。


「わかった、」


やっぱり宰相となると学生の王子よりも忙しいみたい。


「殿下、後のことは息子と娘に任せます。何卒…」

「分かっている。何度も繰り返すが、おれは2人には感謝している」

「ありがとうございます、では」


マドレーヌは宰相の元に駆け寄った。


「お父様、また、後で?」

「ああ、マドレーヌ。また昔みたいに話をしてくれるかな?」

「お父様…、もちろんです!」

「うん、ではまたな」


宰相は急いだ風でこの場から消えた。




しばらく無言になる。




その沈黙をミリタス先輩が破る。


「殿下、ルミーア様の護衛ですが、やはり専任でどなたかが御付になりますわね?」

「そうなる。そうだろう、ヴァン?」

「はい、殿下に代わって報告致します。今後の予想としてはキレンド公爵サイドと前側室サイドからの接触が考えられます。ですので、至急に人選を行っております」

「その方は女性?」 

「その方が良いかと」

「なら、25寮に空き部屋ができるからその方を住まわせてあげて」


ミリタス先輩?


「え?」

「それって?」


ミリタス先輩はニッコリと笑う。


「もうマドレーヌの為にあこに留まる必要もないから。それにルミーアの護衛の方が大切だもの、そうじゃない?」


エドマイア先輩も嬉しそうだ。


「そうそう、やっとミリが決心してくれたんだ」

「エドマイア先輩、何をですか?」

「ミリが別宅に来てくれるんだよ」


あ、一緒に住むんですね。


「同じ屋敷って言ったって、オルタンス家の屋敷ですもの。見ての通り、大き過ぎて迷子になるくらいでしょ?なので両親の許可も下りたのよ」

「ミリ、ミリ義姉様、そんなの寂しい…」


マドレーヌは泣きそうだ。

いずれエドマイア先輩とミリタス先輩が結婚すれば義姉妹になる彼女達は、本当の姉妹のように仲がいい。


「私も25寮を去るのは寂しいわ。でもね、時々遊びに行きますから」


マドレーヌはグッと我慢したみたい。


「わかりました、けど、約束です。ミリ義姉様必ず25寮に来て下さいね?」

「ええ、約束するわ」

「はい!」

「では、マドレーヌ。ここを案内して下さらない?」

「もちろんです。さぁ!ミリ義姉様、参りましょう?」


私達を置いてきぼりにして、2人は出て行ってしまった。

それから、ヴァンがエドマイア先輩に話しかける。


「本日はこの位でしょうか?」

「そうですね、父も納得してくれましたので」


改めて先輩はシャル方に向いた。


「殿下、私達親子の仲を修復して下さり、ありがとうございました」

「俺は何もしてない、お前たちが話し合った結果だ」

「いいえ、殿下が後押しして下さらなければ、父が納得したかどうか…」

「気にするな。俺はルミーアと誰の目も憚らずにいたいだけなんだ。その為に必要だったから相談に乗っただけのこと。オルタンス、もう言うなよ?」

「…、殿下…」


エドマイア先輩はどう返事をしていいのか迷っているみたいだ。

ヴァンがいいタイミングで先輩に話しかける。


「オルタンス様、よろしければこの後ご相談したいことがありまして」

「もちろんです。ヴァン殿、では場所を変えまして続きを?」

「お願い致します」


そんなヴァンは私達を見ていう。


「それでは暫くお待ち下さい」


なんだか、意味有りげ、です…。


「え?」


慌ててシャルの方をみた。



「わかった、早く行け」

「はい、では」





そして、この広い居間に2人きりになるんだ。





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