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シャルと内緒で会った日から3日後。

約束の日なんだ。

ようやくシャルと皆の前で会える。

なのに、変に緊張してる。


あの日以来会えてなくて、電話を掛ける勇気もなくて。

シャルも忙しかったのか電話くれなかったから。



だから、シャルと会ったあの日が夢だったんじゃないかな、なんて思ってしまう。




けれど、どうやら現実みたい。

だって、私は25寮に迎えに来たオルタンス家の自動車で、マドレーヌと一緒に学院郊外のオルタンス家の別宅に伺ったから。


丁寧に迎え入れられ、直ぐに控えの間に通された。

なんと湯浴みから始まる本格的な支度が始まってしまった。


ああ、緊張する。

こんなに大事になるなんて、いったい、私はどうなるんだろう…。


「ルミーア様、お締め致しますね?」

「あ、はい」


私はマドレーヌの所のケルさんに支度をしてもらっている。

くびれたウエストが乙女の命なんだそうで、今回もギュギュウに締め上げられた。


「少しお痩せになったのでは?以前よりもお美しくなられましたわ?」

「そうかしら?あんまり変わってないのよ」

「ご自分ではお気づきにならないものなのでしょうね、きっと。では御髪の方を」


そう言って、私の金髪を梳いてくれる。 

少し髪が輝いた感じになる、やっぱり手入れって大事。

それにあの時よりも髪も伸びたから、今度は綺麗に結い上げてくれて宝石も飾ってくれる。

シャルに褒められた桜色のドレス。

胸元にはシャルからプレゼントされたディープブルー。

髪留めにもディープブルーが輝いている。

これはシャルから届けられたの、今日付けて来て欲しいって。


こうして桜色のドレスを身に纏とうと、なんかだ入学式が昨日のように感じる。

でもね、全身を鏡で見ると、やっぱり時間が過ぎているって実感する。


「自分じゃないみたい…だわ」


思わず呟いた時、マドレーヌとミリタス先輩が部に来た。


「ルミーア?」


2人とも王子に会うからそれなりの姿。

着慣れている2人には敵わないって感じた。


「綺麗ね?」

「本当です」


そう言ってくれるのが嬉しい。

でも、言ってしまう。


「けど、マドレーヌの方が細くてスタイルもよくて、綺麗で…、」

「殿下には、そんなこと関係ないのよ?」

「そうです、ルミーアでなければならないのですから」

「うん…」

「じゃ、参りましょうか?」

「はい」


2人に連れられて、オルタンス家別宅の居間へ移動した。





居間では私の支度を待っていてくれたエドマイア先輩がいた。


「やぁ、ルミーア嬢。一段と綺麗だね。これなら殿下もお喜びになるよ」


なんだろう、エドマイア先輩の言葉に安心する。

うん、少し安心できた。


「エドマイア先輩、色々とありがとうございました」

「気にしないことだ。今回のことは殿下と君のためだよ。それに、妹も救われるんだ。そうだろう、マドレーヌ?」


マドレーヌが笑っている。


「はい、お兄様。ルミーアのお陰です」

「言うなれば、君は私達兄弟の救い主だからね。感謝するのはこちらの方さ。だから、…」


エドマイア先輩が言葉を止めた。


「エド?」

「あ、ミリ。ちょっとね、段取り通りに行くことを祈っているところだ」

「そうね、私も祈るわ」


親子喧嘩の仲直り、上手く行くといいな。

何かお手伝いできること、ないかな?


「あの、私に手伝えることは、ないでしょうか?」


皆が笑った。


「何もしなくていいよ」

「そうよ。ルミーアは直ぐに顔に出るからね、何もしなくて大丈夫」


あ、当たりです…。


「すみません。なんか単純で役に立たなくて」

「ルミーア嬢はそれでいいんだよ?」

「え?」

「ただ殿下の側で幸せそうにしていればいいって事さ」


マドレーヌがちょっと咎めるように言うの。


「お兄様、それって、ルミーアに幸せそうな振りをしろってことかしら?」

「まぁ、そうなるのかな、」

「お兄様、それは心配いらないですわ!だって、ルミーアはね、振りなんかしなくても殿下の側なら幸せなのです。もう、呆れるくらい…、」

「マドレーヌ、」


私の言葉に、あ、って顔をした。


「いえ、あの、そう、きっとそうなんです、ね、ルミーア?」


マドレーヌ、エドマイア先輩にはシャルと会ったことは内緒なんだから…。

けど、必死に目力で訴えてくるマドレーヌを庇わないと。


「そう、私はシャルの側にいられるだけで、いいの」

「ね、」

「うん」


私達は必死に頷き合ってしまう。

私達の会話に先輩2人は、なんだか苦笑いしてる。


「なんだろう、ね?ミリ?」

「そうね、」


やばい、話をずらそう。


「けど、ラルがいないのは残念よね。マドレーヌ、そうでしょう?」

「そう、そうです。ラルと一緒に見ていたかったんですの。けど、大丈夫ですわ。ちゃんとラルには報告するって約束しましたから」

「報告、するんだ…」

「当然です。合宿で頑張っているラルへのお土産ですからね」


お土産なんだ…、そうなんだ。




そこへ、オルタンス家の侍従が知らせにきた。


「エドマイア様、殿下がご到着なさいました」

「わかった」


どうしよう…。


「それじゃ、お連れするからね」


エドマイア先輩が出迎えに行った。

ドキドキが止まらない。

私はどんな顔で出迎えるんだろう…。


「ルミーア?」

「マドレーヌ、どうしよう、緊張してきた…」

「大丈夫です、今のルミーアならどんな男性だって好きになりますから」

「あ、ありがとう」


ノックだ。


「いらっしゃいましたわ」

「うん…」


ミリタス先輩が私の身だしなみをチェックしてくれる。


「大丈夫よ、とっても綺麗だから」

「はい、」


この間は普通の格好で会った。

だから大丈夫なはずだけど、不安。

とっても不安。

ああ、ドキドキする…。






そして扉が開いた。

エドマイア先輩が先に部屋に入って来た。


「ルミーア嬢、お待たせしたね」


けど、私はその直ぐ後ろを見てしまう…。

そして、声を聞いてしまう。


「ミア!」


シャル、シャルがいる。

正装姿の愛しい人は、私を見つけると、ニッコリ笑って真っ直ぐに来てくれる。

皆が見ているのに、全然気にもしないで、私の腰に手を回した。


「ミア、会いたかった」


そして、直ぐに抱きしめられた。


「綺麗だよ。ミアが世界中で一番綺麗だ」


言葉は嬉しいのに、苦しくて、返事が出来ない。


「シャル、離して、」

「いいから、」


何が良いんだろうか?

皆の視線が怖い。

呆れてるなんて言わないでね?


「苦しい、のよ」

「あ、ごめん」


この呆れた私の王子は、少し体を離すと私の耳元で小さく囁いた。


「キスしていいか?」


なんだ?え?


「だ、駄目だよ、だめ!」

「意地悪だな…、」

「そうじゃない、皆が見てるのよ?」

「だから?」

「もう、離れようよ?」

「どうしてさ?」

「シャル!」

「ごめん、わかったよ、」


そういって離してくれた。

でも、私の手を握ったまま離さないんだ。

嬉しい。


「殿下、もう宜しいのでょうか?」


ヴァンだ。

こんな突っ込みを入れれるのはヴァンしかいない。


「まだ物足りないけどな、我慢するさ」

「それが宜しゅうございます。皆様が呆気に取られて、それでもお待ちになっておりますよ?」

「そうだな」


ようやく皆を見てくれる。


「こうしてルミーアと再会できた。この様に幸せなことはない。皆のお陰だ。ありがとう」


エドマイア先輩が深々とお辞儀をした。


「お気になさいますな。殿下のためならば、このエドマイア・オルタンスなんでも致しますので」

「ああ、オルタンス。これからが厳しいのはわかっている。皆の協力がないと乗り越えられるかわからない。よろしく頼む」

「はは、」


ミリタス先輩もマドレーヌも臣下の礼をする。


「私達にお任せ下さいませ」

「ありがとう。まぁ、そのついでだが、皆に見届けて欲しい事がある。ヴァン、あれを」

「は、」


ヴァンは手にした小さい箱をシャルに差し出した。

開かれた箱の中には…、え?


「これをミアに、」


そう言ってシャルは指輪を手にしてる。

それは大粒のディープブルーの指輪。

周りにはダイヤが2重に囲まれている。


その指輪を私の左手の薬指につけてくれる。

左手の薬指、それは結婚の約束の証。

シャル…、いいの?


「似合ってる、やっぱりこの石はミアしか似合わないな」

「綺麗…、」


もの凄く元気にキラキラと輝いている指輪に見とれてしまって、言葉にならない。


「サイズもピッタリだ」

「本当…、ねぇ、どうして?サイズが分かったの?」

「え?このあいだの時に、」

「殿下?」


エドマイア先輩がシャルに突っ込む。


「まるでルミーア様と最近お会いになったみたいですね?」

「あ、いや、ミアのことならば、なんでも分かるんだよ」


エドマイア先輩とミリタス先輩は忍び笑い中。


「殿下、お二方は機転の利く方々です。もう察したのではないでしょうか?」


ヴァンが降伏するように進言した。


「そう、だな。オルタンス、すまなかった。先にミアに会ってしまったんだ」

「そんなことだろうと思いました。殿下が大人しくしているなんて、ありえないと思っていたところです」

「おいおい、俺はそんなに無茶はしないぞ?」

「あら、殿下。聞こえてくる噂は暴走ぎみだと?」

「ミリタス、そ、そんなことはない、から…」


その言葉に皆が笑ってしまい、シャルもつられて笑い出してしまった。

ここには素敵な空気が流れている。

私はシャルの隣で、安心して笑っている。




私はやっとシャルと再会したって実感できた。







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