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ヴァンに送られて25寮に戻った。

そんな私を待っていたのは…。



マドレーヌだった。

私はさっきまでの高揚が伝わらないように、慎重にドアを閉める。


「ルミーア、いつもより遅かったですわね?何かありましたの?」


彼女は優雅にお茶している。


「う、ちょっとね、ヴァンと話をしてたの」

「そうでしたか…」


私にもお茶を入れてくれるナターシャ。

湯気が心を落ち着かせてくれる。


「ありがとう」


しばらくは黙ったままでお茶を楽しんだ。

その沈黙を破るようにマドレーヌが話し出す。


「そうです、」

「なに?」

「今度のシャルディ殿下との」

「え?」


その言葉に動揺してお茶を零してしまった!


「あ、あつっ!」


熱いよ…。

マドレーヌも慌てる。


「ルミーア?大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫だよ」


ナターシャが冷たいタオルを渡してくれる。


「これを」


そして急いで服を拭いてくれた。


「ナターシャ、ありがとう…」

「いえ、直ぐに着替えて下さいませ。代りのお茶を用意しておきますので」

「うん」


ナターシャは拭いたタオルを持って下がっていった。

2人きりに戻ると、なんでか、マドレーヌの瞳が輝いている。

嫌な予感しかしない。


「なにか、ありましたわね?」

「いや、べつに…、着替えてくるから!」


慌てて、部屋に駆け込む。

けど、勘のいいマドレーヌのことだ。

何かに気付いてしまったみたい、というよりも、私がわかりやすいの?

うーん。





着替えて階段を下りていくと、ラルが帰って来ていた。

クラブ帰りで疲れているみたいだ。


「お帰りなさい!」


私は話を逸らす為にラルを元気に出迎えた。


「う?うん、どうしたのですか?いやに元気ですよね?」

「そう?いつもと一緒だよ?」


マドレーヌとラルが目で合図するんだ。

2人の視線が、うん、怖い。


「まぁいいです。でね、ルミーア。明日のメリッサ訪問の時刻ですが」


そうだったマドレーヌは私にドレスを仕立ててくれるんだった。

けど、やっぱり申し訳ないし、それに、シャルがあの桜色のドレスが似合ってたって言ってくれたんだもの。


「その事なんだけね、ほら、入学式のダンスパーティの時の、あの、桜色のドレス。あのドレスをね、仕立て直してくれれば、それでいいよ」

「それは駄目です。ルミーアの事はオルタンスで仕度をするって決めたのですから、中途半端な事をすればオルタンスの名に傷がつきます」

「けれど、マドレーヌ。確かに、あのドレスはルミーアにぴったりでした」

「しかし、もうかなり前のドレスですよ?少し流行からズレているのに…」

「いいの、あれで。だって、シャルも似合っているって、…、あ、うん」


やばい。


「「ルミーア??」」


2人の瞳がこれ以上大きくなることがない位に大きくなる。

驚きから好奇心へと瞳の色が変わった感じ…。


「ルミーア、桜色のドレス、誰が似合っているって言ったのですか?」

「えっと、」

「なんだかシャルディ殿下が似合っていると仰ったように聞こえましたが?」

「それは…、」


口元がニヤニヤしているのは、何故でしょう…。


「なに?会ったのですか、殿下と?」

「あの…、それは、…」

「お兄様が知ったら、大変ですわ」

「あ、エドマイア先輩とミリタス先輩には言わないで!お願い!」

「認めましたね?」

「ええ、認めました」

「…、」


まったくもって、降参するしかない。


「怒るよね、先に会ったっていったら…」

「怒るとかよりも、ね、事実を話すべきじゃないでしょうか?」

「そうですわよ?」


その通りです。

けれど、マドレーヌとラル、気心が知れすぎじゃない?

その見事な連携プレーの誘導尋問には逆らえませんから。





仕方が無い。

私はついに白状する。


「ごめんなさい、会っちゃったの」

「いつ?」

「今日…」

「今日!」

「それで帰りが遅くなったんですね?」

「だってね、ヴァンが話があるからっていうから…」


ヴァンのせいにする。

ってか、ヴァンのせいだし。


「ね、寮の奥にある庭のベンチに座って話してたの」

「そこって、普通は入れないでしょう?」

「そう、だよね?」

「そうです、私もそこまで入ったことはありません。いつも学院の中にある殿下の控え室でしたから」


屋敷に女性を入れたことが無い、ってのは本当みたいだ。

なんだか嬉しい。


とにかく、話を進めて終らせよう。


「そう、で、ね、そしたら、いきなりシャルが来たの。来ちゃったの」

「まぁ、」

「どうしてそこにルミーアがいたことが分かったの?」

「それ、私も不思議だから聞いたのね。そしたら、シャルの部屋から庭が見えるんだって。だから私がヴァンと話してたのに気付いたって」

「よく殿下も気付きましたね、ルミーアのオーラでも見えたのでしょうかね?」


そんな事をいうラルの顔は好奇心でイキイキしてる。


「で、で、殿下とは何を話したのでしょう?」

「え?言わないと駄目?」

「もちろんですわ!」

「そうです、それを聞きたいのですから」

「…、まぁ、大したことないし…」


いや、大したこと、あった。

ありました。

けど、キスしたなんて言わない。


「いや、だから、あの時のドレスが似合ってたって、言ってくれたから…」

「なるほど、で、キスしたんでしょうか?」


いや、やめて…。

ラルったら、そこに言及しますか…。

顔が真っ赤に違いない…。


「え、っと、その、言わないと駄目?」

「もちろんですわよ?」


なんかマドレーヌの追求も怖い。

勢いに負けた。


「…、した…」

「したんだ!」

「殿下と?まぁ!」

「けど、ちょっとだけ、ちょっとだけだよ?それに初めてじゃないし…」

「初めてじゃない!ラル、聞きました?」

「聞いた、聞きました。じゃ初めては誰?」

「そんなの、シャルだよ。シャルしかいないもん!」


2人とも固まったみたいです。

いや、そんなに驚かなくてもいいでしょ?


「それは、いつですの?」

「シャルが王都に行く日、その日の朝…」

「凄いですね…」

「凄い?」

「純愛だってことです。殿下も真剣にルミーアのこと想ってるんですね?」

「その通りですわね。だから私にはあんな酷いことを言ったのですね、きっと」


あのことだ。


「そのこと、シャルから聞いたよ。酷いよね」

「殿下には何て言われたのですか?」

「それが聞いてください。初めてお会いして最初の言葉が『側室になりたいならなればいい、だがな、俺は決して愛さない』ですよ?どう思います?こっちは不安で一杯なのに、なりたければなれ、だなんて。なりたくてなる人など、あの側室の2人ぐらいです!」


珍しくマドレーヌが怒っている。

そうだよね、けど、シャルも反省していた。


「まぁ、落ち着いて下さい。側室にはならなくて済んだんだから、でしょ?」


ラルがマドレーヌを落ち着かせてくれる。


「まぁ、そうです。すみません、乱れてしまって…」


マドレーヌは冷えた紅茶を一口飲んでフーっとため息を付いた。

それにしても、酷い話には変わらない。

たとえシャルがした事でも、私の友人にそんな酷いことをするなんてね。

だから私はマドレーヌの味方をする。


「でもね、だってどう見てもシャ、いや、王子が悪い」


私はあえて王子って言ってみた。

だって、そうした方が悪口が言いやすいもの。


「ですわよね?」

「そうだよ、考えても見て?マドレーヌがどんなに必死になって王子の前に立ったかって…」


マドレーヌの瞳に涙が溜まる。


「まぁそうですよね、ウチの王子は、ちょっと極端過ぎますよね?」

「そうですわよ、あの時にルミーアの事を言ってくだされば良かったのに良かったのに、ウチの王子は、もう!」

「まだまだ子供だよね?ウチの王子」

「そうね、きっとそうなんですよ、ウチの王子は」

「なら、許すしかありませんね、ウチの王子のこと…」


もう、私達は笑いを堪えているんだ。

ウチの王子…、これは私達の間での内緒になるに違いない。


耐えられずに私は笑い出した。

そしたらラルもマドレーヌも笑う。

しばらく3人で笑い続けた。


「ねぇ、これは私達の秘密、ですわね?」

「異議なし」

「賛同!」





次の日。

私はマドレーヌに連れられてメリッサっていう店にドレスを直しに行った。

マドレーヌはホントにスタイルがいいから、私はサイズを緩める手直しが必要なんだって…。

落ち込む。

けど、仕方ないや。






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