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私はシャルの屋敷の居間にいる。
シャルが隣に座っている。
なんだろう、まだドキドキしてるんだ。
だって、この少し前に、シャルったらあんな事言うんだもん。
「咽喉、渇かないか?」
「そうかも、」
「中に入ろう?」
「いいの?」
「もちろんだ。ミア以外の女性は入れないから」
「え?」
「当り前だろう?」
なんか意味が分からなかった。
けど、胸が熱くなる言葉だ。
「さ、行くぞ?」
そう言って差し出された手は、当り前のようだった。
だから私も当然の様に、その手を掴んだ。
そして、私は隣にいるシャルの手に触れている。
甘えてるのです。
「入学式の時のシャルは、怖かったわ」
「そうか?」
「そうよ、だって、近寄るなってオーラを出して、凄く怒っていたもの」
「当り前だろう?ミアがネルソンと仲良さそうにしてるんだぞ?」
「シャルのヤキモチ焼き!」
「好きなように言えばいい。これからは俺以外の男に近づくなよ?」
そんな無理を言って、もう。
「じゃ、シャルも私以外の女性を近づけないでね?」
「わかってる」
約束のキスをする。
けど、私の約束が叶えられるかどうかなんて、気にしないんだ。
しばらくして、冷たいジュースが運ばれてきた。
「ありがとう」って言ったら、ニッコリと微笑まれた。
「こいつはセバスチャン。俺の侍従だ」
「初めまして、」
「ルミーア様。お会いできて光栄です」
「私の名前、知っているんですか?」
「当然でございます。貴女様のお名前は、私がシャルディ様にお使えした時から聞かされておりましたので」
その暴露にシャルは慌てるんだ。
「おい、それは、言わない約束だろ」
セバスチャンはまたニッコリと笑った。
「それでも言った方がいいときもあります」
「それじゃ俺がルミーアの話しかしなかったみたいじゃないか…」
「そのような記憶しかありませんが?」
「セバスチャン…」
私はシャルの隣で笑いそうになるのを堪えたんだ。
だってセバスチャンは攻撃の手を緩めない。
「シャルディ様のお顔が緩みっぱなしです」
「え?そうなの?」
「はい、いつも気難しいお顔をなさる事が多いのに、ルミーア様の前ですと、まさに腑抜けのようにお優しいお顔です」
腑抜けのように優しい顔って…、褒め言葉でいいんだろうか?
そこへヴァンが入って来た。
「シャルディ様、その様にセバスチャンさんを責めない事です。セバスチャンさんは嬉しくて堪らないんですよ?」
「だからと言って、ルミーアの前で…」
セバスチャンさんは畏まった。
「そうでしたね。では、ルミーア様、これからは毎日尋ねて来て下さい?」
「いいんですか?」
「貴女様がいらっしゃるとシャルディ様がご機嫌ですから」
そういって部屋を出て行った。
なかなかの策士とみた…。
「ルミーア様、」とヴァンが私の名前に敬称をつける。
慣れない。
物凄く慣れない。
「ヴァン、ルミーアでいいよ?」
「いえ、シャルディ様の前ではルミーア様ですから。仕方が無いことです。諦めましょう」
諦めるんだ…。
頷いてしまった。
「この件ですが、オルタンス様には内緒でお願いしますね?」
「もちろん、分かってるよ」
シャルはヴァンに我が儘を言う。
「なぁ、ヴァン。内緒なら明日も会っていいだろう?」
「駄目です。この1回だけで我慢しましょう」
「参ったなぁ…」
シャルは私を見て、おどけるんだよ。
「ヴァンで怖いだろう?俺のお願いなんか聞いてもくれない」
「その位で丁度いいんです。シャルディ様は放っておくと暴走しますからね」
「まぁ…」
私は2人のやり取りが嬉しかった。
シャルが1人で王都に行ってから寂しくなかったのかどうか、不安だったんだ。
けど、2人を見てると分かる。
シャルは王都でも決して不幸ではなかった。
そのことが嬉しくて、顔が緩みっぱなしだと思う。
「どうした?嬉しそうだ」
「あのね、シャルがここで幸せを見つけていたんだって思えたから、嬉しかったの」
「幸せか?うーん、そうだな。全てがそうとは言えないけど、この屋敷の中では幸せだな。ヴァンもセバスチャンも俺の幸せだけを考えていてくれる」
「よかったね?」
「ああ、良かった」
気付いたらヴァンは俯いている。
笑ってる?ううん、違う…。
「どうしたの?」
「い、え」
シャルが声を掛けた。
「ヴァン、しばらく俺達を2人にしてくれ?」
「はい、」
ヴァンはそそくさと出て行った。
「ねぇ、ヴァンはどうかしたの?」
「泣きそうだったんだ。ミアの言葉に感動して涙をこらえてたのさ」
「ほんと?」
「あいつは普通の幸せに弱いからな」
「でも、それは、みんな同じだと思うわ」
「そうかな?俺はな、ミアに弱いよ?」
「もう!」
急に私の頬にシャルの手が触れた。
「ミア、キスしていいか?」
「いい、よ」
シャルの唇がゆっくりと触れる。
愛おしい。
互いの想いを確かめたいから、決して深くはならないけど、愛されてるって安心できる。
私達はまだ片手ほどの回数しか触れてない。
けど、それで、今は充分だと思う。
「ミア、やっぱり一緒にいたい」
「それは、止めとこう?私はシャルとのこと、みんなに祝福されたいもの」
残念そうな顔、それも可愛くて好き。
「そうだな、ああ、」
「シャル?」
「辛いな、辛い」
「ごめん…」
そう言って昔みたいに笑ってくれる。
「いいよ、ミアだから我慢する」
「ありがとう」
「その代わりに抱きしめるからいい」
もう凄い力で抱きしめられた。
壊れるかと思った。
けど、物凄く嬉しかった。
私の場所は、やっぱりシャルの隣にあったから。
そして、私はようやく25寮に戻った。
シャルが送ってくれるっていったけど、断った。
なんの為に内緒で会ったか分からなくなるじゃない。
だから、ヴァンが送ってくれた。
それも大げさな気がして断ったら、怒られた。
「ミア、これからは状況が変わるんだ。今日はヴァンが送って行くのを許すけど、機会が過ぎれば俺が送る」
「駄目だよ、シャルは忙しいんだから。それにそんなに過保護は良くない」
「過保護なくらいが調度いい。いいな?」
「シャル、いいって」
「駄目だ」
「どうして?1人で行動出来るんだよ?」
「ミアが綺麗だから心配なんだ。お願いだから」
無言にしかならない。
こんなに心配症だとは思わなかった。
けど、シャルがいてくれた。
好きって言ってくれた。
幼い頃の願い、叶った、よね?




