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俺はフットボールで毎日が忙しい。

シーズンだからな。

あちこちで試合がある。


そのせいで俺はルミーアの保護者代理が出来ていない。


だが、不思議なことにあのエドマイア先輩がちょくちょく俺の所に顔を見せるんだ。

そして、いつも必ず上手い飯をご馳走してくれる。

そんなのにつられる俺も単純だ。

まあ、今もそうなんだけど。


「いつもすみません」

「いいんだよ。君の様な有名なアスリートを応援できて私は嬉しいんだから」


ケンフリットの敷地内にあるちょっと高級な店。

俺達みたいな身分では通うところか入るのも躊躇する店だ。

美味しそうなものが並んでいる。

肉も上等そうな顔をしてる。


「それにだ、今の私は君の代わりにルミーアの保護者代理になってしまったみたいだ。そうなれば君に報告しておくべき事があるからさ」

「何かあったんですか?」

「ああ、あったよ」


いったい、何があったんだ?

また変な女共に絡まれたんだろうか?

いや、あの女達には釘を刺したんだ、変な真似をするなって。

だから違う筈だ。


「そんなに怖い顔をしないでくれるかな?」 

「あ、すみません」


俺はそんなに怖い顔をしてたんだ。


「それでは、まずルミーアが君の試合を見て感動してたよ。また見たいと言ってた」

「そうですか?それは良かった」


ルミーアが見に来てたことは、俺も気付いていた。

俺を呼ぶ声が聞こえたからな…、ありえないって思われるから先輩には言わない。


優雅な仕草で食事をしながら、先輩は話を続ける。


「私としてはルミーアが応援に行けば、君が張り切るから毎回でも連れて行きたいんだけどね…」

「え?出来ないんですか?」

「そうだね、そうなるかもしれないな」

「はぁ、」


この人はいつも話を回りくどく話す。

これが貴族の話し方なんだろうな?


「そうそう、ルミーアがこれを君に渡してくれって」


そう言って出てきたのはクッキーだ。


「あいつ、また焼いたんだ?」

「そうだね、美味しいけど、毎回は飽きてしまう。マドレーヌはもう断っているらしいよ」

「なんか、あいつって凝り性なところがあるんで、すみません…」

「君が謝ることはないよ?」

「ですけど…」


俺は受け取ってテーブルの隅に置いた。

帰ったら食べよう。


「ところがね、ネルソン」

「はい?」

「君以外にも、このクッキーを喜んだ男がいたらしい」

「は?」


男?誰だ?


「ルミーアと同じ授業を受けているヴァンという男性にね、ルミーアがプレゼントしたそうだ」

「ヴァン?聞いたことない名前ですね」

「これから聞くことになるだろう」


どういう意味だろうか?


「そのヴァンがクッキーのお礼にってルミーアを食事に招待したんだ」

「2人で?ルミーアと?」

「ランチだから許してやって欲しいな」

「俺の許可なんていらないですから…」


俺の顔を見てニヤけるのは止めて欲しい。


「そうかな?」

「ええ、」

「じゃ、そうしよう。けど彼はそのクッキーを1人では食べなかった。とある友人男性と一緒に食べたそうだ」


なんだか、ややこしい。

男が男とルミーアのクッキーを食べたのか?

なんか変な話だ。


「その友人がとても喜んでルミーアへのプレゼントを贈ったそうだ」

「プレゼント?」

「そう、サファイアのペンダントだ。それも普通のサファイアではない特別な石みたいだ。かなり高価な品であることは間違いない」


サファイアのペンダントだって?

たかがクッキーのお礼だぞ?

なんでそんなものに化ける?


あ、まさか…。


「どうかしたかい?」

「い、え…」

「まだ実際に見ていないから、これは私の想像なんだけどね。あの石を使ってペンダントを作れるのは1人しかいない」


嫌な汗がでる。


「けど、そうだとして、どうしてその方がルミーアを見初めたんだろうか?」

「見初める?」

「ああ、そう言えば今年の入学式の時だったな。殿下は君と踊るルミーアを見て、一瞬だが表情を変えた事があった」


そうなのか?

俺は殿下というフレーズが入っているのに驚いた顔すらしなかった。

だが、聞いてしまう。


「本当ですか?」

「ああ、間違いない。その直ぐ後に予定にはなかったのに、帰られてしまったんだ」

「あいつ…」

「あいつ?」


俺の顔は、真っ青になっていたに違いない。


「誰のことかな?」


俺は諦めるしかないのか?

あいつが入学式の時からルミーアを見てたとしたら?


あいつのことだ。

ルミーアに後ろめたい所がなくなるまでは会わない、が、会うと決めた瞬間から絶対に会う。

あいつはそういう奴だ。

会うからには、堂々と会うんだ。


ペンダントを送ったのが奴なら、もう準備が出来たってことになる。


「エドマイア先輩はペンダントを送ったのが、シャルディ殿下だと思っているんですね?」

「そうだね、そう思っている。かなり不思議なんだけどね」

「不思議?」

「どうして殿下がルミーアを知る機会があったんだろうか?入学の時は初対面のはず。なのに反応も対応も早い」


それは、…。

俺は諦めた。

俺に何が出来る?

ルミーアとあいつは…、好き合っているんだから。


俺は、想いを、ルミーアを、全てを諦めるしかないのか?


けど、言葉が勝手に口から出ていく。


「それは、あいつだからですよ。あいつなら、仕方が無いんです」

「あいつって、まさか?」

「俺達は同じネルダーで育ったんです」


エドマイア先輩の顔つきが変わった。


「君達は、君達3人は初対面ではないのか?」

「そうです。シャルディは、彼はネルダーにやってきてから、ずっとルミーアと一緒に育ちました。同じ屋敷に暮らして、いつも一緒に行動して…。俺はそれを見てただけです。いつも2人を見てたんです」


俺を促すように先輩は頷く。


「あいつはキザな奴でした。直ぐにルミーアに甘い言葉を言うような男だったから、俺は気に入らなかったんですよ。けど、…ルミーアは奴を好きでした。もちろん奴も。だけど、あいつが王都に戻る時に、あいつはルミーアを諦めたみたいでした」

「諦めたって聞いたのかい?」

「いいえ、けど、結婚する相手が決まっているってのは俺も聞かされましたから」

「そうなんだ…」

「だけど、ルミーアは忘れられなかったんですよ」

「なるほど、じゃ、ルミーアは見初められたんではなくて、再会したんだね?」

「はい、そうです。多分、入学の時からですね。だけど、先輩はそのペンダントが本当にあいつが贈ったと思いますか?」

「間違いない。今度見せてもらう事になっているが、話を聞いただけでわかるよ」

「なら、あいつが今頃になってそんな行動を取るなら、ルミーアと会うつもりだと思います。その時は、あいつは堂々と振舞うはずです。ルミーアの恋人として…」


エドマイア先輩は「そうか…」と呟いた。

そしてから俺を優しく見てくれた。


「ネルソンには辛いことになるな?」

「いいんです、ルミーアがここに来るって分かった時から足掻いてみましたけど、無理だったので…」

「君はいい奴だな?」

「そうでもないですよ」

「いや、」


グラスには酒が注がれた。


「付き合うよ」


その一言で、俺はその晩は意識が無くなるまで飲ませてもらった。




その後直ぐに、エドマイア先輩からあいつとルミーアが会うことになったと電話で聞かされた。

俺は「そうですか、」と返事し、2人を避けようと決めたんだ。






忘れられるんだろうか?

俺もルミーアやシャルディと同じネルダー育ちだからな…。







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