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「凄いわ、3点もですよ?」


マドレーヌが興奮して帰りの自動車の中で喋り続けてる。


「フットボールを初めて観戦しましたけど、迫力が凄いです!もう飛び跳ねてしまいました」

「うん、思い出すだけでドキドキするね!」


そう、私達は抱き合ったり大きな声で声援を送ったりと、かなり騒いでしまった。

私達もだけど、もっと興奮している人がいる。


「いやー、凄かった!ネルソンは今までの中で一番の成績じゃないかな?ミールの奴らを叩き潰すなんて、ああ、いい気持ちだ!」

「お兄様、また連れて行ってくださる?」

「私も!お願いします!」


エドマイア先輩は素敵な笑みで返してくれた。


「ああ、そうしよう。ルミーアが見に行くだけでネルソンは頑張るだろうからね。そうすればケンフリットのリーグ優勝も確実だ!」


あ、なんだろう、急に胸が痛くなる。

先輩の言葉には棘はないのに…。





最近、私はネルソンに会ってない。

クラブで忙しくてネルソンが25寮に来てないから。


最近になって、時々考えていた。

私とネルソンの関係についてを。

ここに来た当初は保護者代理としか見ていなかった私だ。

けど、もしかして、ネルソンは?


けれど、それを確かめるのが怖い。

私はネルソンの気持ちを知らない振りしていいのかな。



いや、駄目なんだと思う。

このままじゃいられるわけが無い。

いつか、いつの日にか、私ははっきりとネルソンに言うと思う。


シャルのことが忘れられない、って。



きっと、そう言う。

だから優しくしないで、って言う。




気持ちが決まったのは、ペンダントのせいかも知れない。




そんなこと考えてたら、ボーっとしてたみたい。

急に声がした。


「え?」


エドマイア先輩の驚いた声が車内に響く。


「クッキーのお礼に、サファイアのペンダントを?」

「そうなんですの、変わった方でしょ?」

「そうだな…」


帰りの自動車の中。

マドレーヌが私の話をエドマイア先輩にしてる。

私が話してもいいよ、っていったから。

だって、不思議だもの。


「だからお兄様にも見ていただこうと思うのです。いいでしょ、ルミーア?」

「ええ、お願いします」


どうしてマドレーヌがそう言うのは分からないけど、彼女は私の為にそう言ってくれていると分かっている。

だから、私もそう願った。


「じゃ日を改めて伺うよ。とにかく、今日は汗を掻いてしまった」


そうなんだ。

応援に力が入りすぎて私達も汗掻いたから、シャワーを浴びたい。

けど、お願いしたいことがあるんだよ。


「じゃちょっと寮へ寄っていただけませんか?ネルソンに渡して欲しいものがあるので」


近いうちにネルソンに会う予定があるというエドマイア先輩にお願いしたいことがあったんだ。


「いいよ、なにかな?」

「なにというか、あの、クッキーです…」


なんか苦笑いされてる。

だよね…、作り過ぎてる私です。

25寮じゃ誰も食べてくれなくなった…。

エドマイア先輩ですらマドレーヌ経由で何度も渡しているからね。

ネルソンにも良く渡したしね…。


今は自分で出来る最高のクッキーを作ろうと奮闘中だからなんだけど、迷惑掛けてるよね?

だけど、ペンダント貰ったんだよ?

今度ヴァンに渡すときはちゃんとしたものを渡さないと、でしょ?


あ、けど実験台だね…、悪いことしてるな、私。

ネルソン、怒るかな?


「わかったよ、きっとネルソンは喜ぶよ」

「そうですよね?」

「間違いないさ」


良かったです。





数日後。

エドマイア先輩から連絡があってみんなで25寮で食事をする事になった。


「ナターシャ、申し訳ないんだけど、いいかしら?」

「お任せ下さい」


こんな大人数でもナターシャは1人で用意をする。


「正式な会食ではないと伺っております。1人で大丈夫ですよ」


プロは違うな。

ナターシャは忙しそうだ。

みんな、ナターシャが作る料理が好きなんだ。

ラルが言うには、お母さんの料理に似てるから美味しいって。

どれを食べても優しい味で、心がホッとするから。


どれもこれも美味しい料理を平らげて、私達は居間に戻った。

私、マドレーヌ、ラルにミリタス先輩、そしてエドマイア先輩だ。


「じゃ、本日の議題に入ろうかな?」


議題って、仰々しいな…。

でも、謎だもんね。


「それでは、ルミーア。そのペンダントを見せてくれるかい?」

「はい、持ってきます」


私は部屋に行って、置いてあるネックレスの箱を手に取る。

そっと開いてみた。


シャルの瞳、見入ってしまう。


いけない、先へ進もう。

どんな先か分からないけど、今よりも先に違いないから。





皆が待っている居間に戻り、そっとテーブルの上に箱を置いた。


「これです」

「ほう…」


エドマイア先輩はそう言って、ミリタス先輩がマドレーヌに話しかける。


「これって、バキャリーの箱ね?」

「はい、間違いありません」


バキャリーってなんだろうか?


「ルミーア、開けてもいいかしら?」

「はい」

「じゃ、」


ミリタス先輩の白くて綺麗な指で、ゆっくりと蓋が開けられた。


「わぁ、綺麗です。この様に繊細なチェーンは初めて見ました」


ラルが瞳を輝かせる。

上箱の中に書かれている文字は、確かにバキャリーと書かれていた。


「やはりね」

「はい…」

「やはり、そうだったのか…」


3人は何かを納得したみたい。

私とラルは置いてきぼり状態。

何が分かったのか知りたい。


「何か、わかりますか?」


3人が顔を見合わせる。

目配せをしてから、エドマイア先輩が話し掛けてくれる。


「ルミーア、聞きたいんだけどね。そのルミーアのクラスの同級生ってどんな人かな?」

「ヴァンのことですか?」

「そう、そうのヴァンの背格好とか雰囲気とか、知りたいな」


私はヴァンの外見と印象を伝える。


「えっと、背は高くてスラっとしてて、長い黒髪で目は青くて…。そうですね、静かな人です。ヴァンは物静かなんです」

「ふむ…、」


エドマイア先輩は考え込んでしまったから、代わりにミリタス先輩が私に尋ねた。


「ねぇ、これを頂いたとき、そのヴァンという方はなんて言ってたの?」

「私が知らない方からは貰えないって断ったんですけど、気にせずに受け取ってくださいって…、」

「それで?」

「えっと、その方はお金持ちだから気にしないでくださいって言われました」


隣同士に座っているエドマイア先輩とミリタス先輩は頷き合っている。

仲がいいなぁ。

あ、別に今思うことじゃないね。

でも、仲がいいって分かる会話が続く。


「エド…」

「ああ、ミリ。間違いなく彼は“あの”ヴァンだ」

「そうね…、そうなるわね…。けど、そうしたらルミーアを?」

「…、ああ。ミリ、その通りだ」


その言葉にマドレーヌが反応する。


「お兄様、私は?私はもういいの?」

「もし、そうならば、だ」

「エド、そうに違いない、でしょ?」

「…、そうだね」


マドレーヌの顔が明るくなった。


「私、もういいのね?」




わからない。

何が良いのか分からないんだ。

まったく話が見えないもの。





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