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ネルソンは可愛い青年だ。

あんなにもルミーア嬢のことを想っているんだから。


しかし、噂と実物は違うもんだね。

冷静に状況を判断するとの評判はグラウンドの上だけのようだ。


ネルソン・ルクレーオはクールな人物なんかじゃない。

心に秘めるタイプであって中身は熱いんだな。

ひたむきにルミーアに想いを寄せる彼は嫌いじゃない。


それどころか、応援したくなる。

しかしだ、彼等の間にいるのは誰なんだろうか?




さて、私はネルソンと一緒にパーティ会場に戻った。

今日は妹にとって重要な日になるからだ。


早速、妹は男共に取り囲まれている。

邪魔はどけないと。

私を見つけたマドレーヌ。


「お兄様!」


マドレーヌのドレスは藤色、髪型もアクセサリーも完璧だ。


「君達、離れてくれないか?私の妹が困っているんだよ」


取り巻きが離れて行く。

25寮のお嬢さん達が妹の両隣にいる。

ラル嬢の衣装は独特で、これはこれで目を引くな。

彼女の髪に合って素敵だ。

ルミーア嬢の桜色のドレスは、マドレーヌが着るよりも似合っている。

そうなるとマドレーヌはこのドレスを着ないだろう。

誰かが袖を通したドレスが嫌だというんじゃなくて、似合っている人に着られた方がドレスも幸せだって考える女性だからだ。

我が妹ながらいい女性に育ってくれて嬉しい。


「お兄様、ネルソン先輩は?」

「見てご覧?」


私の後ろからネルソンが現れた。


「や、ぁ」

「素敵…」

「本当だ、ネルソン先輩似合ってます」

「本当か?」

「ええ、ルミーア、そうでしょう?」

「うん、似合ってる」

「この2人が並ぶともっと素敵です」


ルミーア嬢の表情、いいね。

ネルソン、後は君の頑張り次第だ。

応援してるぞ?


「良いことをした後は良い気持ちだね。ネルソン、今日は頑張れ?」

「あ、はぁ」


ミールに関係すると私は意地になるからね。

どうでもいいこだわりだけど、ね。


「じゃ、ルミーア、行こう?」


と、ネルソンがスマートに誘った。


「うん、」


ルミーア嬢は嬉しそうに付いていく。

可愛いな。

あの素直さに男性は弱いよ。

もし彼女の思いが私に向いていたら、全力で守りたくなる…。


あ、いや、いや、そんなことはないから。

とにかく、大丈夫だから。


うん、視線を感じる、ラル嬢だ。

なんだか微笑まれた感じがした…。


「では、私は失礼しますね」

「ラル?本当にいいのですか?」

「気にしないで下さい。私はゆっくりと食事を楽しみたいのです」

「分かりました、それでは」

「一応、みんなの分も席を取っておきます。気が向いたらどうぞ」

「はい、」


ラル嬢、いや、彼女は嬢って柄じゃない。

しっかりしているのは喋っていても伝わるし、彼女もいい女だと思うよ。

だけどルミーアやマドレーヌとは違う。

ミリタスに言わせるとラルが1番女性らしいそうだ。


さて、本日の仕事を成し遂げないと。


「じゃ、マドレーヌ。いいかい?」

「ええ、兄様」


私達は奥のフロアーにある踊りの輪に加わった。

殿下のお目に留まりやすいようにだ。


音楽は踊りやすい曲が選ばれている。

マドレーヌにとっては簡単な曲だ。

私は最愛の妹と踊る。

我が妹ながら彼女ほど綺麗な女性はいない、と断言しよう。


あ、いや、もう1人いる。

前言は撤回だ。

その2人はどちらも美しいからね。

アハハ、何を焦ってるんだろうね…。


「お兄様?」

「なんだい?」

「あのお2人、お似合いでしょ?」

「そうだな」


私達の隣のフロアー。

あそこには変な思惑などない人間が踊っている。


ぎこちなく踊っている隣のフロアーの2人組。

ルミーア嬢とネルソンだ。

なんだろう目立っている、きっと2人とも人目を惹くんだろう。


いや、こうして見るとルミーア嬢に惹き付けられる気がする。

不思議だ。


そんな2人の動きを見てみると、ルミーア嬢はそれなりにこなしているが、ネルソン君は、まぁね。

この2人の姿を見て嬉しそうに微笑む妹がこう語る。


「私、あの寮にして良かったわ」

「そうかい?父上は1人の寮も押さえているんだけどね?」


妹は、軽く横に首を振る。


「1人だなんて、楽しくないもの。それにルミーアやラルと一緒は楽しいのよ?」

「そうか、なら良かったな?」

「ええ、それに、あの寮にいたら…、忘れられるもの」


今、目の前にいる妹は健気にしているが沈んでいる。


「やはり嫌か?」

「そんなこと、お父様に嫌なんて言えないわ、でしょ?」

「マドレーヌ…、止めてもいいんだぞ?」

「無駄よ!今のお父様は聞く耳をお持ちじゃない、そうでしょ?嫌だって言ったって、私のためだって怒鳴るだけだもの。思うように動かない娘など、必要じゃないんだから…」

「けれど、」

「いいの、いいから、」


妹は真っ直ぐに私を見詰める。


「お兄様、私、綺麗?」

「ああ、綺麗だよ」

「良かった、なら大丈夫ね?」

「ああ」


何事もなかったかのように踊り続ける。

まるで操られる人形のように、正確に。



話は2ヶ月前に遡る。


父は陛下の元、宰相を承っている。

私はいずれ父の後を継ぐ。

妹は何の関係もなかったはずだ。

なのに、父はそれ以上を望む。


マドレーヌがケンフリットに入るだけの学力があったことが原因だ。

父は何か夢でも見ているんだろうか。

自分の娘を王子の側室にしたいだなんて、頭がおかしいと思う。


父がマドレーヌを殿下の側室に差し出すと言い出した日。

ようやく私は父に逆らおうと決めて父に迫った。


「父上、あれほど嫌がっているのですよ?何故それほどまでに、」

「余計な口出しをするな!マドレーヌが可愛いからこそ、殿下に託すのだ。世継ぎだぞ?上手く子を成せば、なんでも思いのままではないか!」

「父上、それがマドレーヌの為ですか!」

「お前にはまだわからんのだ。マドレーヌには必ずわかる日が来る!」


それ以上を言えない私は、どこかで父の言う通りなのかも知れないと思ったのだろう。

逆らおうと決めたのに父の言いなりになって今日を迎えている。

私も情けないものだ。


それでも妹は聡明だ。

ニッコリ微笑んで「お父様、分かりました」と答えたんだ。

歯向かったって無駄なことを理解している。

その後、部屋に閉じ篭った妹は泣いていた。


母を亡くしてからの父は自分の殻に閉じこもる事が多くなった。

私達がそれなりに聞き分けが良い子供だったからだろうか…。

そうして、私達の為だと言っては結構な無理を押し付ける。

最初の頃は反抗もしたが、最近では大げさでも私達のためだからと我慢するようになってしまった。

その結果が、殿下の側室への推挙だ。




だいたい、シャルディ殿下には既に2人も側室がいる。

私は殿下とは同級生で友人でもあるが、彼の女性に対する扱いは見ていて気持ちの良いものではない。

ぶっきら棒で雑で思いやりも感じられない。



妹がそんな扱いをされるかと思うと、嫌だ。



それでもこのパーティーで殿下に妹を紹介して、一緒に踊るところまで進めないといけない。

父に念を押されているんだ。


ちらりと殿下の様子を伺う。


いない。


私は殿下が座っていらした席が空いていることに気付いた。

踊りながら周りを探す。


どこだ?

あ、。


どうやら気まぐれが起きたらしい。

隣のフロアーが見える場所にいる。

少し離れて、お1人で不機嫌そうに立っている、まったくの1人だ。

隣には側室さえもいない。

そして、そう、いつもの仏頂面。

笑う所なんて見たこともないな、そういえば。

あの冷めた深蒼の瞳は、深くて暗い闇の色だと言われてる。

決して人に心の中を見せないとも、だ。


いつもの彼がそこにいる。


きゃ、とルミーア嬢の声がした。

どうやらネルソンが彼女の足を踏んだみたいだ。

その声は意外に響いて聞こえる。

彼等は何かを喋っている。

きっと彼女が文句を言っているんだろう。

仲が良い事だ。

あれで恋人同士ではないなんて、不思議だ。


何気に殿下の方を見た。


うん?


殿下が彼女の方を見ている感じがする。

じっと見詰めているような…。


そして、一瞬だけ表情を変えた。

見た事もない表情だった。

だが、一瞬だ。

直ぐにいつもの表情に戻った。

まるで何も見ていなかった様に振り向くとその場所から離れた。




気になるな。

何かあったか?

何を気にしたんだ?




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