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桜色のドレスを着た私は、さっきとは大違いだ。

まるでベルーガ育ちのお嬢様のように見える。


居間に降りてきた私を皆に見てる。


「そのドレスはルミーアの方が似合います」


満足げなマドレーヌ。

なんだかすみません…。


「マドレーヌ、ありがとう。アクセサリーから靴まで借りてしまって…」

「いいんですのよ、ね、お兄様?」

「ああ、マドレーヌがいいのだから、気にしないで着て下さいね」

「え?」


びっくりした。

気付かなかった。

マドレーヌの隣に男の人が立っている。

そんなマドレーヌのお兄様は正統派のいい男。

慌ててお辞儀をした。


「あ、すみません…」

「妹には友人には親切にするんだよって教えてるからね、気にしないことだよ。ルミーア嬢」

「けど…」


これは親切の範囲を超えている気がする。

だって、このドレスは試着しかしてないドレスなんだって聞いた。

今日の日の為に誂えた何着かの内の1着だって…。


「ルミーア、似合ってます」


けど、なんだかラルまで嬉しそう。


「そう?」

「はい、壁の花は勿体無いかも知れませんよ?」


バタバタしている時にも、人は尋ねてくる。

ナターシャが来客を告げるんだ。


「ルミーア様、ネルソン様がいらっしゃいました」

「え?ネルソンが?」

「お連れしてもよろしいでしょうか?」

「うん、おねがい」


しばらくして居間の入って来たネルソン。

思いもしない人数に驚く。

そして、私を見てもっと驚く。


「よ、って…え?」


ネルソンは私の姿を眺めて絶句している。


「ルミーアか?ルミーアなのか?」

「ネルソン、どうしたの?」

「どうしたって、今日の相手いないだろうから、俺がなってやろうって…、けど、」


ラルがニヤニヤしてる。


「ネルソン先輩、びっくりしてますね?ルミーアが綺麗だからでしょうか?」

「いや、なんだ、そんなドレス持ってたか?」

「持ってないよ。これはねマドレーヌが貸してくれたの」

「いえ、そのドレスはルミーアに差し上げたんです」


差し上げるって、そんな簡単に貰えるものじゃないよ…。


「そんなの駄目だよ、ちゃんと綺麗にしてお返しするから」

「いいえ、私よりルミーアの方が似合ってるドレスです。私はもう着ないですから」


なんだか、凄すぎる。

何度でも何度でも何度でも、言う。

マドレーヌって、物凄いお嬢様なんだ。


そこにマドレーヌに似ているお兄様が参加する。


「そうなると、だな…」


私とネルソンを見比べてる。


「彼の服装が問題だな?ルミーア嬢のパートナーなんだろう?」

「そうです!どうしましょうか、お兄様?」

「よし、お前たち先に会場へ行ってくれないか?式典の間に彼をルミーア嬢に相応しくしてから届けよう」

「素敵!お兄様!」

「だろう?マドレーヌ?」

「ええ、楽しみだわ。ねぇ、ラル、そうでしょ?」

「本当です、この2人が揃ったところ見てみたいです」

「では、このエドマイア・オルタンスに任せてくれ。では行くぞ?」


この3人の盛り上がりに私とネルソンは無言になっている。

そして、いきなりネルソンは連れて行かれた。




で、私達は式典会場に向う。

時間に間に合うかどうかのギリギリみたい。

急がないといけない。


「じゃ、私の馬車で参りましょう」


オルタンス家の紋章の入った馬車で会場に向った。

会場はそんな馬車で一杯だったけど、私達の馬車は会場の側まで入ることができた。

紋章の威力は凄い。

結構余裕で会場入りした。


「では、」

「ええ、また後で」

「はい」


私達は式典に参列する為に別れた。

席は…、恒例試験の成績順だから。


式典の行われる会場は厳かな雰囲気で溢れている。

天井は高く、天窓から差し込む光とステンドガラスの色鮮やかな光が差し込んでいる。

屋内なのにそれを感じさせない程明るい。


周りを見渡す。

男性も女性も、皆、正装だ。

マドレーヌのドレスで来て良かった。

やはり式典には陛下がお出でになったから、だから皆正装に近かったんだ。

そうだよね、冷静になれば当り前だと分かる。


けど、だ。


去年、ネルソンはどんな格好で参加したんだろうか?

本当に私を迎えに来たときの、あの格好だったんだろうか?

場違いな自分が恥ずかしくなかったんだろうか?

保護者代理として、どうなんだろう?


今度あったら確認しないと。


式典が粛々と進んでいく。


私は遠くに見える陛下の姿を見ながら考えた。

あの時、遠くから拝見しただけだったな、って。


恒例試験の結果順に座席は決められていて、私達の中ではマドレーヌが最前列に、ラルは真ん中当たりにいる。私は、ラルの後ろ…、うん、かなり後ろ。

私の頑張りの結果だもん、受け入れるます。

けどね、遠すぎる。

シャルのいるらしい場所は遥か彼方に思えてくる。


そう、いるのは分かるけど見えもしない。

せっかく同じ会場にいるのに、だ。


その距離が私とシャルの距離なんだと思うと、会うことなんか叶わないって…。

そう思えてきて切なかった。




私、何しにケンフリットに入ったんだろう?

シャルに近づけるって思ったのに、まったく逆だ。

手を伸ばしても届かなくて、同じ空間にいる筈なのに見えなくて。

お父様達には諦める為にって言ったくせに、なんだろう。




色々考えていても時間は過ぎる。

無事に式典が終わり、私達3人はパーティ会場に向おうとしてる。

けど、なんだか大変な状況に陥っている。


「マドレーヌ様、お相手が見えないようですが?」

「私がお相手を」

「いや、私が是非!」


私達は男性達に取り囲まれてしまっていた。

正確にはマドレーヌが取り囲まれているのに、私とラルが巻き込まれたんだけどね。

なかなか前に行けない。

さっきからマドレーヌは同じ言葉を繰り返している。


「皆様、ご好意は嬉しいですわ。ですが、本日は兄がおりますの。父からも兄以外の男性とは踊るなといわれておりますから」


だけど、しつこい。


「オルタンス宰相が…」

「ならば仕方が無いですが、」

「しかし、1度くらいはいいのでは?」

「そうです、せめて1曲を、私と」


まったく、しつこいなぁ。

そんなにマドレーヌと踊りたいなら、事前に申し込めばいいのに。

あ、断られたのかな?

そうだと思う。


そこへ。


「君達、離れてくれないか?私の妹が困っているんだよ」


颯爽と現れたエドマイア先輩だ。

少し長い金髪が風に揺れてる。

いい男オーラ全開だ。

その威圧を纏った言葉に、マドレーヌの取り巻きはすごすごと離れていった。


「お兄様、ネルソン先輩は?」

「見てご覧?」

「まぁ!」


びっくりだ。

先輩の後ろから現れたネルソンはきっちりと正装の姿をしてた。

けど、ネルソンの黒い髪に薄い空色の正装は似合っていた。


「や、ぁ」

「素敵…」

「ネルソン先輩似合ってますよ」

「本当か?」

「ええ、ルミーア、そうでしょう?」

「うん、似合ってる」

「この2人が並ぶともっと素敵です」


エドマイア先輩はニコニコしている。


「良いことをした後は良い気持ちだね。ネルソン、今日は頑張れ?」

「あ、はぁ」


何を頑張るんだろうか?





そんな正装姿で食事は難しいだろうに。






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