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船旅が続いている。

ホッホーと海鳥の声がする。

海鳥の泣き声が聞こえるってことはきっと陸が近いんだろう。

巣からは遠く離れないから、どこかに近くに陸があるんだ。


俺は海を見ているルミーアの隣にいる。

ルミーアに叩かれた頬はまだ赤くて少しヒリヒリするけどな。


結局、俺はルミーアに何も言えずにいた。

シャルディのことなんか忘れてしまえって…、いや、違うな。

言えたとしても、俺は何を言うつもりだったのかは分からない。


ただ、あいつはケンフリットにいる。


あいつは俺の1つ上で普通に授業を受けている。

いつも取り巻きが周りを囲んでいて俺なんか近づけもしない。

もちろん、俺も近づく積もりもないけど。

それに愛人は2人いる。

俺ですら見かけた事あるくらいだから周知の事実だ。


俺は縁があってケンフリットのフットボールクラブに所属した。

今バルトンでは、フットボールが熱い。

バルトン王国内でリーグが結成されるって噂だ。

先輩の中でも強い人達には誘いが来ているらしい。

フットボールを仕事にして金になるんだろうか?と疑問に思うけど、なるらしい。

けれどもスポーツが金になることに関しては面白く思ってない人間も大勢だと聞いた。

いわゆるスポーツではなくて見世物だとね。


けど他の学校との試合になると観客が詰め掛ける。

両方とも物凄く熱く応援してくれる。

何かに熱くなれるっていいんじゃないかって俺は思う。

その人達の為に頑張ろうって思うんだ。


けれどもまだ将来をかける程の情熱はないな、きっと。




ルミーアはまだ海を見ている。



ルミーアがシャルディを想っている事は知ってる。

俺が気付いた時から2人は同じ気持ちだった。

けれども、そんなに長い間想い続ける事って出来るんだろうか?

しかもあれから一度も会ってないんだ。

互いに気持ちが同じなんてありえない。

思い出を美化し過ぎて拗らせているんじゃないだろうか?


ルミーアはどうしても会いたいんだろうな。

あんなに勉強出来なかったのにケンフリットに入学するまでになったんだ。

頑張ったんだな、シャルディに会いたい一心で。

その真っ直ぐさがルミーアなんだ。

一緒にいてもハラハラして目が離せない。


だけど、会ってどうするんだろう?

愛人どころか妃まで決まっている男だぞ?

幸せになんかなれるか?

どうして普通の幸せを求めないんだ?

他の男も見てみろよ…、いや、俺じゃないんならシャルディの方がマシかな…。



ああ、!



俺はどうして子供みたいにルミーアに絡むんだろう。

素直に自分の気持ちを言えば良い事ぐらい分かってるさ。


けど、良い格好がしたいんだ。



その点、あいつはキザだった。

ルミーアが好きだという事を隠すこともしなかった。

俺はそんな奴の様子が嫌いだった。

ルミーアもルミーアだ。

ルミーアが、奴の言葉に顔を赤らめていたことを思い出した。

手玉に取られているだけじゃないかって思いが消えないのはそのせいだろな、きっと。


好きな子にあんなに優しくなんか出来ないと、思っていた。

するもんかって思った。

それほどまでにシャルディはルミーアには優しかった。

今の冷たい奴からは想像も出来ないけどな。




海鳥がまだ鳴いてる。



俺の隣でルミーアは海を眺め思いに耽っている。

その姿に、俺も引き摺られるように思い出した。

奴と別れ際に交わした言葉を。





あの日、俺はお館様の屋敷にいた。

父親の仕事部屋に潜んでいた。

あいつが行ってしまう、そうルミーアに聞かされて会わなきゃいけないと思ったから。

夜も更けて当たりが暗くなった。

帰れば親に怒られるのは分かっていたけど、俺は動かずにいた。


1階にあったシャルディの部屋に明かりがついた。

俺は外に回りその部屋の窓を叩いた。

驚いたように奴が窓を開けた。


「ネルソン、どうした?何だ?」

「話があるんだ、来いよ」


奴は窓から飛び降りると俺の後に付いてきた。

誰にも邪魔されそうにない場所まで来てから、俺はシャルディを問いただした。


「お前、王都に行くのか?」

「何でそれを?」

「聞いたんだ。なぁ、お前、ここを離れるのか?」


黙ったままの奴が歯がゆかった。


「どうなんだよ!」


けど奴は俺を気にもしない様子でブッキラ棒に返事した。


「ネルソンに言わなくてもいいことだ」

「ふざけるなよ、ルミーアはどうするんだ?また会いにくるのか?」

「…、」

「いえよ!」


何も言わない奴の姿を見て会わないつもりなんだと悟った。

思わずシャルディの腕を掴んでいた。


「それで、いいのかよ!」


思わず見たシャルディの瞳は、見たことのないものだった。

子供の無邪気さなど消え去って心を閉ざし怒りを伏せた瞳だ。

あんな奴を見た事がなかった。


「だまれ…」

「シャルディ、?」


一気に奴との間に壁が現れたように感じた。


「手を離せ」


俺ははその気迫に手を離してしまった。


「王子の僕が王都に戻るだけだ。ネルソン、お前には関係ない」


それは王家の響きを含んだ言い方だった。

反論は許されないと思い知らされた。

それでもなんとか言葉を出した。


「俺に関係なくても、ルミーアには、あいつにはあるだろう?」

「構うな。誰にも関係ない。僕が決めたんだ。帰るって決めたんだ。だから…」


だけど、だ。

その続きを言わずに俺に背を向けて、奴は去って行った。



俺は追う事も出来ないで立ちすくんでいたんだ。

アイツには敵わないって悟ったんだ。





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