99 愛言葉
「お、お父さん…!誕生日おめでとう…っ!」
ノアの誕生日パーティーの途中、息子であるアノスは少し恥ずかしそうにしつつも思い切った表情でプレゼントを渡して来た。
それに対してノアは優しく微笑み、可愛らしい我が息子の小さな手で持たれているプレゼントを手に取った。
「ありがとう。アノス」
プレゼントを片手で持ちながらアノスの頭を撫で、感謝の気持ちと労いの気持ちを手と表情で伝えた。
それは間違いなくアノスの心にまで伝わっていて、アノスは珍しくノアに対して顔を赤くしている。
「…どういたしまして」
常に視線が斜め下を向いているがそれでも口が少しだけ笑っていて、アノスにもこういう子供らしいところがちゃんとあるのだと再認識させられた。
(アノスも、これをきっかけに心を開いてくれるといいんだけどな)
今日が特別な日だからという理由で少し明るく接して来ているのなら悲しくて泣きそうになると考えつつアノスがこちらを親として認めてくれたことを祈る。
(いつかは…一緒に酒でも飲めるようになったらいいな)
さらに心の中では大きくなったアノスと共に盃を交わす姿を妄想していて、それによってノアはまた新たな幸せの道を見つけ出し、それに向かってこれからも頑張ることを決意した。
「俺はアノスたちのためにたくさん頑張るから、アノスもお兄ちゃんとして妹たちと仲良くしてくれよ」
ノアはアノスに強い男になって欲しいと考えているため自分も同じように頑張るからとアノスを頑張らせようと考え、アノスにそのような言葉をかけた。
「うん…!」
それに返事をしたアノスにはまだどこか緊張しているような雰囲気を感じたが、それでもアノスは芯の強い人間のため間違いなく返事の通りに約束を守ってくれるだろう。
そう考えたノアはさらに頭を撫でる手の強さを強め、アノスに自分の大切なものを託すように心を込め続けた。
「ふふ、親子仲良しですね」
「硬い絆で結ばれたって感じがするねっ」
「アノスも少しはノアのことを認めたんじゃないかしら」
ノアとアノスは完全に二人の空間に入っていて、それを周りから見ていた妻三人は二人に対して何かしらの強い絆のようなものを感じ、心を動かされていた。
「パパ…もう離して…っ」
「え、なんで?」
「だって…みんな見てるから…」
ノアは三人の視線に気づいていなかったがアノスはとっくの前に気づいていたらしく、今は頬を真っ赤に染めてみんなからの視線から逃れようと身体をキョロキョロと動かしていた。
それを見たノアは少し悪戯してやろうと企んでしまうがそれをするとせっかく紡いできた絆が引き裂かれるような気がし、その企みは喉に昇る前に消し去られることになった。
「わかったよ。アノス、プレゼントありがとな」
「う、うん…」
アノスはまだ恥ずかしそうに視線を逸らしていて、このままで強い男になれるのかは少し不安になってくる。
だがアノスは自分の息子であるためそこはなんとか乗り越えてくれるだろうと信じ、しゃがんでいた足を伸ばして立ち上がった。
「さて、次はメアリーの番だよっ」
そんなこんなしているとなぜかアメリアがパーティーの進行役になっていて、ノアはすぐ隣にいるメアリーの方向を向いた。
その瞬間メアリーは一歩前に来て可愛らしい満面の笑顔を向けて来て、こちらに向かって大きく口を開いてくる。
「パパ!お誕生日おめでとう!」
「ありがとう」
「はい!これあげる!」
メアリーはニコニコとのまま背中に隠していたプレゼントをめいいっぱい前に出してこちらにプレゼントを渡して来た。
ノアはメアリーの手にあるプレゼントをしっかりと受け取り、メアリーに負けず劣らずの笑みを向けながら頭を撫でてあげた。
「ありがとなメアリー。これからも俺と一緒にたくさん遊ぼうな」
「うん!」
メアリーはいつも通りの大きな返事をし、その後ニコニコと嬉しそうに笑いながら一歩下がった。
「じゃあ次はリーリアだね」
「うん!」
次は無邪気な笑みを浮かべているリーリアのようで、彼女は小さな足を一歩前に出してこちらに近づいてくる。
「パパ、お誕生日おめでとう!」
リーリアはそう言った直後に背中からプレゼントを出し、手を伸ばしてこちらに差し出して来た。
それをノアは優しく受け取り、リーリアの頭を撫でながら感謝の気持ちを伝え始めた。
「ありがとうリーリア。これからもたくさんパパに甘えてくれよ」
「うん!」
甘え上手なリーリアはこれからもたくさん甘えてくれるらしく、今も頭を撫でられるのを心底楽しんでいる様子だった。
そうなってくると父親であるノアの手が止まらなくなってしまうのは必然なわけだが、今はなんとかその気持ちを抑えることに成功して数秒後に手を頭から離すことに成功した。
「あ…」
その瞬間リーリアは寂しそうに声を上げたがすぐに笑みを浮かべて嬉しそうに一歩下がって行った。
「じゃあ最後、セリア」
「うん」
母のセリーに言われてセリアは一歩前に進み、右手に持っていたプレゼントを差し出しながら言葉を放った。
「パパ、お誕生日おめでとう」
「ありがとう」
「これからもすえながく?よろしくお願いします」
「あ、ああ…」
セリアは言葉の意味もわからずに数分前の母親の言葉をパクったようで、ノアはまた修羅場になるのではと感じて反応を躊躇していた。
だがその間セリアからは怪訝そうな目を向けられてしまい、咄嗟にノアは話を逸らしにかかった。
「よろしくなセリア。それにみんなも。これからたくさんの出来事があるだろうけど、どうか俺と一緒に過ごして欲しい」
そうやっていい感じの言葉を放ってみるとこの場にいる全員が大きな声で返事をしてくれ、ノアの話逸らし大作戦は珍しく成功を収めた。
「よし、次は何する?ゲームでもするか?」
そして気づかれる前に完全に話を変えてしまおうと考えたノアは勝手に誕生日パーティーを過ぎの段階に進めようとするが、どうやらその案は間違っていないらしく、フェリスは驚いたように口元を押さえながら話し始めた。
「…そ、そうね。私たちもそのつもりだったわ」
「マジか。じゃあ何する?」
「それは…」
ゲームの内容について訊いてみようとフェリスに声をかけるが、彼女はなぜか頬を赤く染めたまま黙り込んでしまった。
そしてその近くにいたアメリアとセリーも同様に目を逸らしてしまい、ノアの疑問は深まって行った。
(ん?なんで目を逸らすんだ?一体どんなゲームを…)
ノアの疑問は深まるばかりで、もう一回訊いてみようと口を開こうとしたのだが、ちょうどそのタイミングでメアリーの可愛らしい声がリビングに響き渡った。
「あいしてるゲームするんたよ!ね?ママ」
「そ、そうね…」
「え?」
「じゃあ私から始めるね!パパ、あいしてる!」
「っ…!」
突然娘からこれ以上ないほど嬉しい言葉をかけられ、ノアはつい頬を真っ赤に染め上げてしまう。
するともちろんメアリーから指を刺されてしまい、さらには他の子供たちも喜んでいる様子で。
「あ!パパてれてる!」
「あたしたちのかちー!」
「パパ、このゲームよわい」
「…」
まさかこれ、一対七だったりするのか…?
はっきり言って一対一でも結構しんどいのだが、相手が七倍もいるとなればこちらに勝ち目はなかった。
だがノアはこれ以上ないほどの幸福感に包まれていて、特にゲームを終わらそうとせずに続行の意思を見せた。
「いや、今のはちょっと驚いただけだ。次やろう次。絶対に負けないぞー?」
「ふーん、わたしたちに勝負をいどむんだ」
「いいよ!あいてになってあげる!」
「パパ、まだ負かせる」
「んじゃあ次は…フェリスから行ってみるか」
「え…?」
その瞬間フェリスの頬はさらには赤さを増していくが、数秒後には目線を逸らしながらも愛の言葉を囁いてくれるのであった。




