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97 感謝と祝福


「ふぁ…今日も疲れたなぁ」


いつものように仕事を終えたノアは毎日と同じ帰り道を辿り、そしていつもと同じような時間に家に到着した。


(今日は…なんかあるかな?)


これまでの流れはいつも通りであったが今日はノアにとって特別な日であり、心の中では家族たちが祝ってくれることを期待していた。


(いや、今年はそういう話も無かったし、期待しすぎか)


例年は誕生日が近づくにつれて誰かがパーティーの話を持ち出すのだが、今年はその流れがなかったためノアの心の中には悲しみの感情が生まれ始めた。


(ま、祝いの言葉でもあればそれで十分か)


流石にあの妻たちが誕生日を見逃すはずがないが今年は忙しくて準備に手がつかなかったのだろうという理由を自分のなかで決めつけ、期待をしすぎないように自分を抑えながら玄関の扉に手を伸ばした。


(俺の愛しの家族は何してるかな)


そんなことを考えつついつものように静かな玄関に足を踏み入れ、靴を脱いで家に上がった。


だがノアはここである違和感に気づいた。


(ん?なんかいつもより静かだな)


ノアが感じた違和感とはいつもうるさいぐらい騒がしいリビングから声の一つも聞こえてこないという今までに経験したことがないものであり、頭の中には疑問符が渦巻き始めた。


(子供が寝てるのか?いやそれでも料理の音ぐらいは聞こえるだろうし…)


ノアはリビングの中で何が起こっているのか予想を立てるが、それは見てみないとわからないため考えるのを諦めて真実をこの目で確かめるべくリビングの扉に手を伸ばした。


「ただいま」


いつものように扉を開き、中で何が起こっているのかを確認しようとした、その時だった。


「!!??」


リビングに一歩踏み入れて前を見るとそこには満面の笑みを浮かべている家族が並んでいて、みんなは同時にクラッカーを鳴らした直後に声を揃えた。


「「「「「「「ノア(パパ)、誕生日おめでとう(ございます)!!!」」」」」」」

「え…?」


ありえない。


ノアの頭にはその言葉が飛んできて、今も現状の理解を拒んでいた。


「どういうことだ…?」

「ふふっ、どうやらサプライズは大成功のようですねっ」

「パパめっちゃ驚いてるー!!」

「サプライズ…?」


ノアはまだ現状を理解しきれていなくて、今も目を見開いて驚きを露わにしていた。


するとみんなからは大きめの笑い声が上がり、綺麗な顔をくしゃりとさせながらこちらに近づいて来た。


「すっごく驚いてくれたみたいだねっ!準備した甲斐があったよっ!」

「パパかわいー!!」

「これは私たちの勝ち、ぶい」

「ふふ、みんなあなたのためにたくさん準備したのよ。飾り付けも料理もプレゼントも、ノアのために精一杯のものを用意したわ」


フェリスがある程度のことを説明してくれたあたりでノアがこれは自分のためのパーティーであることをようやく理解し、ノアはとうとう笑うことしかできなくなってしまう。


「あはは…マジか…。みんな、俺のために…?」

「そうだよ」

「そうか…」


いっぱいになって涙を漏らしそうになる気持ちをグッと抑え、それを誤魔化すように大きく笑みを作る。


「みんな、ありがとな!」


そんな風にみんなに感謝の気持ちを伝えた後、ノアは早速主役の席に案内された。


「さ、主役はここだよ〜」

「みんなも席に着いて料理を食べましょうか」

「「うん!!」」


子供たちも席に着いたところで、妻たちは料理の蓋を開け始めた。


「おぉ…!!めっちゃいい肉じゃん!!」


蓋を開けてみるとそこには皿一杯の肉料理が数種類並んでいて、ノアは柄にもなくハイテンションになってしまった。


すると妻たちからは喜びのような笑みを向けられ、特に料理を担当していたフェリスが嬉しそうに笑顔を向けて来た。


「ふふ、今日はお祝いだからいいお肉をたくさん買ったの。料理も腕によりをかけて作ったから沢山食べて頂戴ね?」

「ヤベェ、全部一人で食ってしまうかも」

「それは少し困ってしまうけれど、あなたがそれだけ喜んでくれるならそれでも構わないわ」

「いや流石にしないよ。みんなにも楽しんでもらいたいし」

「別に足りなくなったらまた作ればいい話だから、あなたは何も気にせず食べていいのよ?」


フェリスからは謎の強い意志が感じられ、ノアはそれに押し切られて今日ぐらいは存分に料理を頬張り尽くそうと決意した。


「じゃあ、遠慮なく食べさせてもらうよ。食費が大変なことになっても後悔しないでくれよ?」

「ふふ、望むところよ」


稼いでいるのは自分しかいないから結局自分が苦しめられることになるという現実からは目を背け、今はただ楽しむことだけを考えるようにして一度周りのみんなに目を向けた。


「ねぇママ、もう食べていい?」

「まだダメだよ。ちゃんと乾杯してからにしないと」

「かんぱい?」

「お腹すいたよ〜」

「ふふ、みんな食いしん坊さんですね」

「私、早く食べたい」


家族たちはみんながパーティーの始まりを待ち望んでいて、それを察知したフェリスはグラスを手に取って席から立ち上がった。


「そうね。じゃあ早速だけれど、始めましょうか」


パーティーの主催者らしいフェリスは立ち上がるとすぐに一同を見回し、そして最後にノアと目を合わせた。


「ノア、お誕生日おめでとう。私たちは全員、あなたが産まれてきたこの日を心の底から祝福しているわ。だから、私たちの気持ちを全部受け取って頂戴ね」


フェリスはこの誕生日会に対する気持ちを端的に述べ、ノアもその言葉をしっかりと受け取る。


「ああ。一ミリも残さず受け取らせてもらうよ」

「ふふ、あなたは相変わらずね。じゃあ私たちも、いつも通りの感謝の気持ちと、お祝いの言葉をたくさん伝えましょうか」

「うん!!」

「パパありがとー!!」

「フライング、だめ」

「ふらいんぐ?ってなに?」

「わかんなーい」

「こら、静かにしなさいっ」

「「「はーい…」」」


相変わらず娘たちは騒がしくていつものようにアメリアに怒られているが、彼女らは本音しか語らないためこちらに対して感謝してくれていることはしっかりと伝わって来て、ノアは家の天井を突き破るほどの幸福感を得ていた。


(マジで、幸せだな…)


こんなに幸せでいいのだろうか。


誰かに幸せを分けなくてもいいのだろうか。


そんな不安が芽生えそうになるがもうそんな考えすらできないほど心は高揚していて、ノアは自然と笑みが溢した。


「こちらこそ、みんなありがとな」

「ふふ、どういたしまして」

「まあ感謝を伝え合うのはとりあえずまで後にしましょうか。とりあえず乾杯しましょう」

「そうですね」


一応まだパーティーは始まっていないため、こういった話はその最中にすべきだと考えたフェリスは乾杯の音頭をとった。


「それでは、乾杯」

「「「「「「「乾杯!!」」」」」」」


フェリスの声に合わせて全員がグラスを掲げ、いよいよノアの誕生日パーティーが本格的に幕を開けた。


恐らくあと3話ほどで最終回にしようかなーと考えております。

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