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96 準備


「行ってきます」

「「「行ってらっしゃい」」」


ある冬の朝、ノアはいつものように妻たちとキスをした後すぐに家を出て行った。


「よし、それじゃあ準備始めよっか」


ノアの背中を見送った妻たちは扉が閉まるとすぐにリビングに戻り、その場にいる全員で一度集合をした。


「さて、私たちはこれからノアの誕生日パーティーの準備を始めるわ。みんな気を引き締めて取り掛かるように」

「「はーい!!!」」

「あら、メアリーとリーリアはやる気ですね」

「えへへ、パパの誕生日をたくさんお祝いしたいからねっ!!」

「あたしがパパをいっぱい笑顔にするの!!」

「ふふ、それはいいことね」


相変わらず元気いっぱいな双子に対して親である三人は笑みを向け、そして次に早速フェリスが各々に指示を出し始めた。


「さて、それじゃあ早速指示を出すわね。まずは元気一杯の双子から。あなたたちはアメリアママと一緒に部屋の飾り付けをお願いするわ」

「はーい!!」

「ママと一緒!!」


二人は返事と同時に片手を挙げて満面の笑みを浮かべていて、また母親たちがニコニコと笑みを向けた。


「も〜、二人とも元気だね」

「今日は私たちも二人を見習って元気にいかないとですねっ」

「そうね。折角の特別な日だから、明るくて楽しい思い出にした方がいいわよね」


いつもは二人の元気すぎる部分に若干呆れを覚えている三人も今日は見習ってテンションを上げていくことにし、フェリスは先程よりも声を大きくして次の指示を示した。


「じゃあ次、セリア。あなたはセリーママと一緒に家事の全般を頼むわ。できるだけノアが帰ってくるまでに全部を終わらせておきたいから、お願いできるかしら?」

「うん。ママと協力する」

「頑張りましょうねっ」


セリアは文句一つ言わずに頷いてくれ、フェリスはいい娘に育ったなと感心しつつ最後に自分の息子に目を向けた。


「そして最後はアノス。あなたは私と買い出しに行ってもらうわ。ケーキの材料や今晩のパーティーの食材を買いに行くから、ついてきてくれるかしら?」


フェリスは優しい口調で我が息子にそう語りかけ、アノスの機嫌を損ねないように心がけた。


するとアノスは何とか機嫌を損ねないでくれたようであるが、なぜか少し不安そうな目つきで小さく頷いた。


「うん…役に立てるかわからないけど」


アノスは自分が買い物について行ったところで荷物持ちにすらならないことに後ろめたさを感じていて、視線を下に向けて気まずそうにしていた。


確かにそれは事実であるのでアノスの不安もわかるのであるが、ここは母親としてしっかりとアノスを全肯定しておこうと三人が行動に出る。


「大丈夫ですよ。アノスはちゃんと役に立てますよ」

「この買い出しはね、アノスがいないと始まらないんだよ?」

「え、そうなの…?」

「ええ。今日はあなたがパパのために食材を選ぶのよ。そうすればきっとパパはとても喜んでくれるわ」

「そうかな…?」


アノスの心には未だに少し躊躇いがありまだ肯定的にはなれずにいた。


【…アノス】


だがそこでアノスの脳内にいつも話しかけてくれる父親の姿が浮かび上がり、アノスの心のモヤは一気に消え去った。


「うん…僕、頑張る…!パパのために、頑張って選んでみる…!」

「お、やる気になったね〜」

「少しパパに似てきましたねっ」

「じゃあは一旦の配置はこれで決まりね。これらがひと段落した頃に私たちは料理を作り始めるから、二人はちゃんとそれに備えて体力を残していて頂戴ね」

「うんっ!」

「はいっ」


アノスがやる気になったところで場の空気は一変し、いよいよ誕生日パーティーのために動き始める空気となった。


「さあ、私たちでノアの誕生日を盛大にお祝いしましょうっ!」

「いえーい!」

「頑張りましょう!」

「「おー!!」」

「私、頑張る」

「お、おー…?」


相変わらず掛け声に団結力が感じられないのだが、ノアを祝いたいという気持ちだけは同じであるため何も問題はない。


それが確認できただけでもこの集合には意味があり、そしてこれから待ち構える本番に向けていい準備となった。


ま、準備が始まるのは今からなんだけど。


「さて、私たちは早速家を出ましょうか。アノス、準備をしましょうか」

「うん」

「メアリー、リーリア!私たちで最強の飾り付けをしよう!!!」

「いえーい!!」

「ママと最強やる!!」

「さて、まずは今朝の食器を片付けましょうか」

「片付け、やる」


というわけでノアの誕生日パーティーのための準備が始まり、家族たちは一斉にそれぞれの持ち場に散らばって行った。


さあ、まずはフェリスとアノス視点から行こうか。


二人は早速市場に向かい、沢山ある食材の中からパーティーで必要なものを厳選していた。


「ノアはお肉が好きだから、それを中心に選びましょうか」

「だったらあの辺のお肉屋さんにいく?」

「そうしましょうか。絶対に手を離したらダメよ?」

「わかった…」


二人は親子で仲良く手を繋いで少し離れた肉屋に向かい、そのままいつもよりも上玉な肉を沢山買い漁った。


さあ、次はアメリアとメアリー&リーリア姉妹に行ってみようか。


三人はまず壁の飾り付けから始め、Happy Birthdayの文字を頑張って取り付けていた。


「えーっと、Bはいちばん右?」

「違うよ!いちばん上だよ!」

「それも違うよっ。Bは…ここ!」

「えー!!」

「ママすごーい!!」

「ふふん、これでも魔法学院の卒業生だからねっ」

「まほーがくいん?」

「そつぎょーってなに?」

「あ、それはね…」


このようにしてアメリアはあらゆる言葉の説明を始めてしまい、飾り付けは一向に進む気配がなかった。


さて、最後はセリーとセリア親子に行ってみよう。


二人は仲良く雑談をしながら食器をスポンジで擦り、少しずつ家事を終わらせていっていた。


「それで、パパは何と言ったのですか?」

「『大人になったら教えてあげるよ』って言ってた」

「ふふ、あの人らしいですね」

「パパが無理なら、ママに訊く。ねえ、子供ってどうやったらできるの?」

「ん〜、それは大人になったら教えてあげます♡」

「むぅ…」


セリアは母親が質問に答えてくれなくて若干拗ねるが、それでも手を緩めないあたりに娘の成長を実感するセリーさんであった。


と言った感じでノアの誕生日パーティーに向けて各々が協力して準備を続け、気づけばもうノアの帰宅の時間が迫っていた。


「そろそろですかね」

「準備オッケーだよ!!」

「みんな、クラッカーは持ったわね?」

「「うん!!」」

「「うん」」


全員がリビングの扉の向こうで待機し、玄関の扉が開かれるのを待ち続けた。


そして少しの時が流れた頃、いよいよその時がやって来た。


「!?」

「(帰ってきた!!)」


玄関の扉が開いた瞬間リビング内には緊迫した空気が流れ、サプライズをする側が謎の緊張感を放っているのだった。


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