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「わたし、将来はパパと結婚する!!」


その瞬間リビング内の空気が凍り付き、数秒の沈黙が流れる。


「…え?」


全員がこの状況を理解できずにいて、頭の上には?が浮かび上がっていた。


「えーずるい!あたしもパパと結婚する!!」


だがどうやらこの話についていけている人物もいるらしく、彼女は無垢な眼差しでノアを見つめた。


そうなってくると流石のノアでも反応に困ってしまい、あちこちに目線を彷徨わせながら何とか誤魔化す方法を考えた。


「そ、そうかぁ…?でもな、俺はもうママと結婚してるんだよぉ…?」


そうやって事実を言って一旦口を閉じてもらおうと考えついたのであったが、それは逆効果となってしまう。


「えぇ!!やだ!!絶対パパと結婚するもん!!」

「ママからパパを取るもん!!」

「「「!!!???」」」


ここでリーリアが爆弾を投下してしまい、いよいよ妻たちが黙っていられなくなって口を挟み始めた。


「ふーん、勝負する気なんだ〜…?」

「取る、なんて…許せるわけありませんよね?」

「ええ。悪いけど、絶対に渡さないわ」


三人の妻は珍しく子供達と対抗していて、いつもよりも子供っぽさを露呈させていた。


その姿を見たノアは心の中ではほっこりとした風景の素晴らしさを感じていたが、現状はそんなことをしている場合ではないため早速みんなを止めに入る。


「まあまあみんな落ち着けって。俺は一人しかいないんだから取り合っても分身したりしないぞ?」

「??…何言ってるのパパ…?」

「え」

「はぁ…あなたは少し静かにしていて。これは女同士の戦いなのだから」

「あ、ハイ」


一応この話の中心になっている人物だから発言の権利ぐらいくれてもいいだろと言いたくなったが、そんなことを言える雰囲気ではなかったため口をしっかりと閉じておいて。


とりあえず話が変な方向に行かないように見張っておくとするか。


そんな考えを胸にノアはこの戦いを見届けようと五人を見つめていたのだが、そこで突然新たなる刺客がノアの隣には現れてきた。


「パパは私のもの。あげない」

「せ、セリア…!?」


いつも気持ちよさそうに眠っているだけのセリアの参戦に対して全員が驚きを見せ、さらにノアも思わず口を開いてしまう。


「どうしたんだセリア…?寝ぼけてんのか…?」

「ううん。私、ちゃんと起きてる」


(クソ、余計状況が悪くなるじゃねぇか…)


いつものように寝ぼけて変なことを言っているならまだしも、今回は本人がそうではないと言ってしまったため先程の言葉は本気であることが伝わってしまった。


そうなってくると妻たちの対抗心はさらに刺激されてしまい、もうすっかり全員出来上がってしまっていた。


「まさかセリアまで出てくるとはね…。でもいいよ。これで三対三だし」

「ようやく対等に争えるわね」

「ノアの妻の実力を見せつけてやりましょう…!」


全く、子供相手に何熱くなってんの?


どうせ子供が言うことだから流せば済む話だと言うのに、三人はどうしても譲れないものがあるように対抗心をあらわにしていた。


そしてそんな対抗心を持っているのは嫁三人だけではないらしく、娘の三人もしっかりと対抗心をむき出しにしていた。


「絶対負けないもん!!」

「今日はママに勝つよ!!」

「パパ、あげない」


そう言いながら娘三人は早速ノアの身体に引っ付き、母親を牽制した!


「なっ…!?」

「なるほど…先制攻撃ですか…」


娘たちの行動力に三人は思わず目を見開いたが、ここは頭の切れるフェリスが一歩前に出て発言をし始めた。


「あなたたち、ちゃんとパパの身体に気を遣っているのかしら?もしかしたらパパはすごく疲れていて誰にも引っ付いてほしくないかもしれないわよ?」


ここでフェリスは夫を思いやれない人は妻に相応しくないと言わんばかりの言葉を放ち、三人の行動を否定した。


すると真に受けやすいメアリーとリーリアは動揺し、父に対して心配な言葉をかけ始めた。


「パパ…疲れてるの…?」

「もしかして嫌だった…?」

「…」


だがノアは言葉を発せれなかった。


なぜならこの発言次第では妻と娘のどちらの味方につくかがハッキリしてしまうからである。


もし娘の言葉を肯定すれば妻の味方につくことになって側にいる娘たちに泣かれる可能性があるし、逆に肯定すれば娘の味方になることになって妻たちに数年ほど言われ続けるかもしれない。


…いや後者タチ悪いな。


(どうすりゃいいんだ…)


いくら嫁に責められたくないからと言って、可愛い娘の言葉を無碍にするわけにもいかない。


だがしかし、娘の見方をすれば面倒なことになるのは目に見える。


これがジレンマというやつなのか…!!


ただのほっこりとした日常のはずが、知らぬ間にとんでもない修羅場に突入していて、それに気づいたノアは背筋が凍りそうになるほどの悪寒を感じ取った。


「…」

気づけば勝手に身体が震えていて、口は凍ってしまったように動かなくなってしまった。

「ねえパパ、どっちなの?」

「早く答えてあげた方がいいんじゃない?」

「…」


この問いの正解は沈黙であると自分を信じ込ませ、何を訊かれても勝手に話が進むまで待つことを決意した。


「へぇ…そこで黙るんですね…」

「つまり私たちよりも娘たちの方が好きということかしら?」

「…」

「ふぅん…そうやってずっと黙っているつもりなんだ?そっちがその気なら…ね?」


何を言われようと黙っているつもりでいるのを察せられ、アメリアたちはこちらを喋るために合図をとって行動を始めた。


「仕方ありません。ノアの愛がわからないのであれば、私たちは親に相談を__」

「俺、妻を愛シテル!!他の子には興味ナイ!!」

「ふふ、よろしい」


半ば強制的に愛の言葉を吐かされてしまい、それをきっかけにこの場の空気の温度は一気に上昇していくことになる。


「え…??じゃあパパはあたしたちと結婚しないの…??」

「ごめんなぁ…。俺にはもうママっていう結婚相手がいるから」

「そ、そんなのヤダ!!」

「パパは私のもの!相手、関係ない!」


娘たちは駄々をこねるようにこちらに泣きついてくるが、それでもこちらからは頭を撫でてやることしかできない。


なぜなら、今慰めの言葉でもかけようものならすぐにでも親に報告しそうな目を向けられているからである。


(スマン三人とも…!俺にも命がかかってるんだ…!)


下手をすれば殺されかねないような局面を何とか無事で潜り抜けた為、もうこれ以上犯人を刺激するわけにはいかない。


その為ノアはもう口を開けるはずがなく、ただ娘たちを手で慰めることしかできなかった。


その間も娘たちは「ヤダよぉ…」などと言いながら涙を溢していたが、これも一種の経験だ。娘よ。


人はこうして強くなるんだと後で妻がいなくなった時に言ってやろうと考えつつ娘を眺め続け、そして数十秒後に妻たちが先程の戦乙女のような表情を豹変させて申し訳なさそうに苦笑いを浮かべながらこちらに迫ってきた。


「ごめんなさいね。パパはもう私たちのものになっているの」

「だからみんなにはあげられないけど、借りるだけなら何も問題ないんだよ?」

「私たちは同じ家に住む家族ですから、いつでもパパを自分のために動かして貰って大丈夫ですよ?」


三人はノアの代わりに慰めの言葉をかけてあげ、それを聞いた三人は希望を見出したようなまで三人に問いを飛ばした。


「「「いいの…?」」」

「ええ。大丈夫よ」

「でも独り占めは絶対ダメだからねっ」

「パパはみんなのものですからね。ちゃんと仲良く分け合いましょうね」

「「「うん!!!」」」


このようにしてパパのこれからの扱い方についての話は決着したのであるが、当の本人にとってこの結論は全くもって納得し難いものであった。


(何勝手に決めてくれてんの…)


人のことを借りるだのみんなのものだの言ってくれて、こちらには人権というものが無いのか。


(…いや、前から人権なんか無かったか)


思い返してみればこちらに決定権があった試しがないため、ノアはもう諦めて黙ってみんなの意見に従うことにした。


その決断が後の人生をを大きく左右することなど、彼に知る由はなかった。


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