94 娘たち
「おらっ!!!」
これで今日の最後の獲物を仕留め終え、仕事はいつものように夕方に終了した。
「ふー、さっさと帰りてーな」
そのような言葉を漏らしつつ、獲物を指定されている場所まで運び込む。
「よし、これで今日の仕事は終わりだな。んじゃ、全速力で帰るか」
身体強化の魔法をかけ、目にも止まらぬ速さで家に直行する。
「っと、ちょっとだけ土落として…」
家で待つ愛する家族に汚い姿は見せられないため、身体についている土などを落としてから家の扉を開く。
「ただいま〜」
家に入って靴を脱いで玄関に上がり込んだ時、リビングからはドンドンという足音が響き、直後に扉が勢いよく開けられた。
「パパおかえりー!!」
「おかえりー!!」
リビングから現れたのはアメリアとの娘、メアリーとリーリアの双子姉妹だった。
二人は元気よくこちらに向かって走ってきて、わざとらしく両手を広げている。
流石にそのような可愛い景色には逆らえない父親は、喜んで二人を抱きしめた。
「お〜ただいま〜。ちゃんといい子にしてたか?」
「うん!いいコにしてた!」
「ママのいうこと守った!」
「そうかぁ。二人はいい子だなぁ」
膝をついて双子を抱きしめた父は、何とも言い表せない幸福感に包まれ、そのまま長い時間二人を抱きしめていた。
すると流石に親が不審に思ってこちらに出てくるわけで、今回はこの双子の実母であるアメリアが出てきた。
「ふふっ。も〜、いつまでそうしてるの?」
アメリアは困ったようにこちらのことを眺めていて、パパは仕方ないだろと言わんばかりに反論をした。
「だって二人が可愛すぎるんだからしょうがないだろ?最近ちゃんと話せるようになって可愛くて仕方ないんだよ」
ノアが言った通り、子供達はある程度の会話ができるまでに成長した。
その過程でこの双子は特に甘え上手になり、完全に母親と性格が似てきていた。
そうなってくると母親に惚れまくっているノアが娘に惚れないはずがなく、最近は二人の笑顔のために仕事を頑張れているまである。
まあそのことをあまりよく思っていない人もいるんだが、そんな人のことは無視だ!
…それでたまに怒られてるのは内緒ね…?
「あたしたち、かわいいの??」
「ああもちろん。メアリーもリーリアも世界一可愛いぞ〜」
「やったぁ」
「もぅ…前までは私が世界一だって言ってたくせに…」
「っ…」
と、このようにしてアメリアや他の妻も文句を漏らすようになってきたのだが、この可愛い娘を前にするとそんな文句も耳に入らなくなる。
「じゃあパパはわたしのこと好き?」
「大好きだぞ〜」
「やったー!!」
「あ、あたしは?」
「もちろん大好きだよ」
「えへへっ、あたしもパパ大好き!!」
てな感じでこの双子は父親のことが滅茶苦茶大好きで、もう毎日のように甘えてきてくれる。
(ああ…天使だ…)
ノアは天使のように可愛い二人にベタ惚れなわけだが、そうなってくるとかなりの嫉妬の目を向けてくる人物もいる。
だが今は嫉妬と呆れが混ざってきていて、アメリアはため息を吐いて二人と離れさせようとしてくる。
「はぁ…イチャイチャするのはいいから、とりあえず中に入ったら?そこ、寒いでしょ?」
「そうだなぁ」
「リビングはフェリスちゃんの魔法が効いてるから暖かいよっ。ほら、荷物預かるから、行こ?」
そう言ってアメリアはノアの荷物を持ち、こちらに手を差し出してきた。
「行くかぁ」
ノアは双子から手を引き、アメリアの手を取って立ち上がった。
すると二人からは批判の声が飛んでくるが、ここでアメリアが母親としての風格を見せ始めた。
「もう、文句言わないのっ。パパは疲れてるんだから早く休ませてあげないと」
「「はーい…」」
最近アメリアはちゃんと躾が出来るようになってきて、二人のことを完全に従えるようになっていた。
その弊害でこちらにも文句をつけられるようになってきたが、そんなアメリアも可愛いので全然問題ない。
いや、アメリアに文句を言われるの、最高(?)。
「「おかえりなさい」」
「ただいま」
変なことを考えている間にアメリアにリビングに連れて来られ、一番最初に目に入ったフェリスとセリーと挨拶を交わした。
そして次に我が子の方を向き、そちらによって行った。
「アノス、ただいま」
「…」
「あらら…アノスにはまだ早かったか」
相変わらずアノスはノアのことをあまりよく思っていないようで、このように挨拶もなかなか帰って来ない。
その度にお母さんであるフェリスにしっかり指導されているようで、もちろん今回も例に漏れずキッチンから指導が飛んできた。
「アノス、ちゃんとおかえりなさいを言いなさい」
「…おかえりなさい」
「ああ、ただいま」
「全く…ごめんなさい。ちゃんと躾ができていなくて」
フェリスはいつも自分の教育不足だと言っているが、初めての子供で慣れないことが多いことを察しているノアはフェリスの心もしっかりとケアするようにしている。
「いいや、アノスは多分人見知りなだけだろ。俺があんまり家にいないから接し方がわからないんじゃないか?だからフェリスは悪くないさ」
「そ、そうかしら…」
「そうですよ。フェリスちゃんの人見知りが遺伝しただけですよっ」
突然話に入ってきたセリーはフェリスの隣で料理を作りながら言葉をかけていて、こちらの言葉を援護するように回ってくれた。
だがフェリスはこの言葉には納得していないらしく、首を傾げながらセリーに質問を返した。
「私、そんなに人見知りかしら…?自覚はないのだけれど…」
「そうですね…最近はあまり初めましての人と会う機会がないので一概には言えないのですが、ノア曰くフェリスちゃんは昔から人見知りだとのことです」
「…っ」
フェリスは頬を赤くしながらこちらにジト目を向けてきていて、「何言いふらしてるのよ」とでも言いたそうに小さく悶えていた。
「あー…」
ノアは瞬時にその視線の意味を察し、フェリスに弁明を施した。
「だいぶ前にアメリアとセリーにフェリスのどこに惚れたか訊かれて…その時につい言ってしまってな…」
「〜〜!!」
フェリスはとうとう顔を隠して声にならない声をあげて後ろを向き、心底恥ずかしそうに身体を赤くしていた。
するとアメリアがフェリスの近くまで駆け寄り、軽く背中を叩きながら慰めの言葉をかけ始めた。
「大丈夫だよっ。そういうところは私たちがちゃんとフォローしていくから。それに、そっちの方が可愛くて羨ましい…」
「何言ってんだか」
「え〜、ノアはフェリスちゃんみたいな知らない人と関わるのが苦手な子の方が好きなんじゃないの?」
そんな風にしてアメリアはなぜかこちらに会話を投げてきたため、ノアは少し慌てつつもしっかりと受け止める。
「んー、別に俺はどっちでも好きだけどな。結局のところ問題はその人が誰であるかなんだ」
「えーっと、つまりどういうこと?」
「フェリスやアメリア、そしてセリーであれば、仮にどれだけ人見知りだろうと好きだという事実は変わらないってこと」
「そ、そう…?♡」
「ああ。俺はどんなフェリスも好きだからな」
「〜〜!!」
今度は完全にとどめを刺してしまったのか、フェリスは膝を落として悶え始めてしまった。
それに対してはしっかりと責任を感じるが、だからといって謝ったりはせず、堂々とした態度でソファに腰を下ろした。
すると先ほどまで話していたメアリーとリーリアがこちらにテクテクと歩いてきて、純粋な眼差しで質問を投げてくる。
「ねえパパ」
「ん?」
「パパはあたしのことすきじゃないの?」
「大好きだって言っただろ」
「そうなの?でもさっきママの名前しかいわなかったよね…」
「それは…ちょっと嘘ついただけだよっ。ホントはメアリーもリーリアも大好きだぞ〜」
「やったぁ!!!」
「えへへ〜」
「もう、調子いいんだから…」
相変わらずアメリアは娘に嫉妬の目を向けてくるが、その分はしっかりと夜に愛してあげてやろうと心に誓う。
「……?」
あ、ちなみにだが、セリーの娘であるセリアはいつも通りぐっすりと眠っていたのだであった。




